第34話 断罪裁判の終わり
「つまり、あたしの旦那はあんたと違って最高に格好良くて優しくて……」
「わかった、もういい、もういいよ」
「あらそう? まだまだ話せるけれど」
ライナスがため息交じりにレーナの演説を止める。
レーナは未だ満足してい無さそうではあるが、一応はそれにしたがい話すのをやめる。
ああ、やばい。
顔から火が出てきそうなほど恥ずかしい。
俺は一体どこで間違えた!?
というかライナス君、なんで君そんな屑になってるの!?
ああ、いや違うな。
ライナス君が屑になってしまった原因だけはハッキリしてる。
あいつ、“ライナス“じゃないな?
薄々おかしいなってずっと思ってた色々な事象の説明が、それでようやく片付く。
あいつがカノンの時の“旅のお方”なら、大方の説明はついてしまう。
そして、それはつまりあいつが“コトリバコ”について知っている人間って事だ。
当然、コトリバコなんてのはこの世界にあるはずの無いもの。
俺たちの世界の、それもインターネットに出て来るような都市伝説だ。
それを得意気に語ってたということは……あいつも俺と同じ転生者って事だ。
しかも、外れの部類の人間だろう。
まともな人間は“ああ”はならない。
やばい、やばいなー。
これはもう、大誤算とかそういったレベルじゃない。
どうするべ……。
「では、これにて閉廷と言うことでよろしいですかな?」
「ああ? 裁判の事か? ああ、いいぞいいぞ好きにしろ」
ライナスはもう、多分全てがどうでも良くなったんだろう。
きっと君はレーナが推しだったのかな?
通りでレーナ以外になんの干渉もしないはずだよ。
原作通りならカノンやルイーゼにもイベントがあるはずなのに、一切関わってる様子が無いから不思議だったんだ。
……不思議だったというか、目を逸らしてたというか。
まあ、そんな感じだ。
「……これで安心、だね」
「リゼ、お前全部知ってたのか?」
「今日の裁判の事はみんな知ってたよ、ボクも、リゼも。あと、カノンさんとレーナさんもね」
「じゃあ、俺のために……?」
「当然でしょう? みんなフィル・クーリッヒに救われたのよ。そういう人たちはここにいる人だけじゃなく、この国に大勢いるわ
「救ったって、そんな大げさな……」
「あなたがどれだけ否定しようと、あたしたちはあなたを慕ってるし、愛してるわ。大げさでも何でもなく、あなただけを……」
なんだそれ、そんなのって……。
俺が“救った”4人が、俺を褒めて喜ばせてくれるはずの言葉を吐く。
その言葉が、俺を責め立てる。
心が苦しくて、吐きそうになる。
ああ、そうか。
最悪だ、俺って。
俺はずっと見て見ぬふりをし続けていたんだろう。
本当の心の奥では、何かが変だとずっと感じていたはずだ。
ちょっと考えればすぐに出てくる答えのはずだ。
でも俺は、そんな薄々感じていた違和感を全部無視して、ライナスに任せれば全て上手くいくはずだって……そう考えて、すべてを放り投げようとしていた。
ライナスの行動の本質は、“この世界がゲームの世界である”という認識から来ているものだと思う。
だから傍若無人に振る舞うし、部下の動きを毛ほども気にしていない。
きっと俺も本質的には同じだ。
だから俺を助けてくれたみんなの、本当の想いに気づけなかった。
……覚悟を決めよう。
勝手に行動してその責任を放棄するのはもう辞めよう。
みんなが俺に救われたというのなら、救った責任は最後まで果たすべきだ。
「ごめんな、みんな……。ありがとう」
助けてくれたみんなに頭を下げる。
準備は全て無駄になった。
この先には本当の試練が待っている。
乗り越えられる可能性があるのかもわからない。
だけど、やるしかない。
“主人公”の代わりを。
「ではライナス殿、退廷ください」
裁判長がライナスに退廷を促す。
今まで気づきあげた功績は消えないだろうが、それ以上にここで起きた醜聞は英雄の座から引きずる下ろされるのに十分な効果を持つだろう。
「退廷? 俺が、ここで?」
「そうだ、君は負けたんだ」
裁判長が強く、けれど諭すように声をかける。
「負け? 勝負はまだ始まってすらいないのに、何が負けなんだ……?」
「何を言っている? 君はもう……」
「【隔離領域】」
ライナスが静かにそういうと、裁判所内が少しだけ静かになる。
なんだ?
何をやった?
「ライナス殿?」
「死ね」
裁判長がライナスに近づいたその刹那。
裁判長の首が斬り落とされた。
ライナスの手には、数多の国難を振り払ってきた剣が握られていた。
……嘘だろ?
あいつ、裁判長を……。
「きゃあああああああああああああ!!!!!!!!」
そこら中から悲鳴が聞こえる。
我先にと逃げようとする聴衆が、出口に殺到する。
……だが、だれも外に出られない。
「……フィル、下がって!」
警戒態勢に入ったリゼが武器を構える。
ライナスは、じっとこちらを睨みつけ笑っている。
「なあ、ここにいるやつら全員殺せば無かったことになるって、そう思わないか?」
「お前、何言って……!」
「だって、なあ? こんな“モブキャラ”何人死のうがどうでもいいじゃねえか!」
ライナスは狂ったように笑いながら辺りを見回している。
狂ったように、じゃないな。
こいつはもう駄目だ、狂ってる。
「全軍突撃!! 反逆者を捕らえなさい!!」
ルイーゼが叫び、衛兵隊の指揮を執る。
カノンとレーナはリゼの後ろに隠れ、身を守ろうとする。
「そんな雑魚で何しようっての?????」
ライナスが軽く体をひねり剣を振るうと、衛兵たちがどんどんと死んでいく。
その様子をみた聴衆がさらにパニックになり、最早事態は収拾のつきようがない状況に陥っている。
「レーナとカノンはここで隠れて……。リゼは二人を守ってくれ」
「……フィルもここに。あれは、一人では無理」
ライナスは笑いながら衛兵たちを薙ぎ払っている。
あれが終わったら、多分次は俺たちの方に来るだろうな。
「“死になさい”」
怖気づくような恐怖の感情が押し寄せる。
何事かと思い振り返ると、カノン加護を使い呪いを行使している。
「あのさぁ……」
ライナスは呆れたようにため息を吐くと、何事もないかのようにこちらをみる。
「な、なんで……!」
「俺に向けられた物ですらない呪いが聞くわけねえだろ? 俺は英雄なんだぞ??」
「そんなふざけた話、あるわけ……」
……いや、ある。
【英雄の加護】。
恐らくライナスが持っているスキルは、云わば無敵のチートスキルだ。
1.倒した敵のスキルを使用可能
2.全体攻撃を無効化
3.状態異常の無効化
4.自分よりも強い相手と戦う時、自分はその相手よりも少しだけ強くなる
……うん、意味が分からない。
1は俺のスキルと違い、恒常的に全てのスキルを何度でも使用可能だ。
4は原作者曰く、どれだけ敵が強くても最終的にはプレイヤーが勝つ事を揶揄する、フレーバーテキスト的なスキルらしい。
この世界で適用されてるのかは知らん。
弱点らしい弱点と言えば、スキルの切り替えに多少の待機時間がある事くらい。
それだって、スキルの使用自体は可能とかいう意味が分からない性能をしている。
俺のスキルの完全上位互換なのは間違いないね。
まあそんなわけで、恐らくカノンの呪いが効かなかった原因は“全体攻撃を無効化する”に該当していたんだと思われる。
“誰であれ呪える”というのは広義での全体攻撃になるんだろう。
少なくとも原作ではそうだった記憶がある。
……意味わからん裁定をするな。
「……わたしが時間を稼ぐ、だからその間にどうにか逃げて」
「いや、無理だ。最初にあいつが使った【隔離領域】は、この裁判所から外に出られなくするスキルだと思う。……あいつ、俺たちを皆殺しにする気だよ」
誰もここから逃げられてない現状を見るに、それはまず間違いない。
……殺されないためには、あいつを倒すしかない。
覚悟を決め呼吸を整える。
そうだ、決めたじゃないか。
俺がライナスの代わりになるんだ。
なら、ライナスを倒せるくらいじゃないと出来るわけがない。
だから、俺が”主人公”を殺す。




