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第30話 レーナ⑦ あたしの”旦那”

「……それで、話って何?」


 周りの貴族たちが遠巻きにこちらを見ている。

 みんな実に楽しそう。

 ……見世物にしないで欲しいものだわ。


「その……大丈夫か?」

「……何が?」

「変なことされてないか!? あいつは最低の貴族だから、お前に何か酷い事を!?」


 ライナスのその言葉に、ノノが一瞬ピクリと動く。

 ……偉い、良く止まったわ。


「されてない。と言うか、そんなこと大声で言わないで」


 周りからどんな目で見られるかわかったもんじゃない。

 本当に常識と言うか、配慮と言うか、そういうのが一切ない男。

 いつもあたしを気づかってくれるフィルとは大違いね。


「す、すまん。 でも、変な事されてないならよかった……。もう少しだから、なんとか耐えてくれ……!」

「もう少し?」


 ……どういう意味だろう。

 まるで、あたしたちの結婚に何かしかけてくるみたいな……。


「あ、いやなんでもない! ……とにかく、安心してくれ」

「……変なことしないでよ?」

「ああ、わかってるよ」

「ならいいけど……」


 それから、少しの間沈黙が流れる。

 なんだろう、こんなに会話が弾まない相手だっけ?

 話しててもなんにも楽しくない。

 時間が経つのが凄く長く感じる。


「なあ、レーナ」

「……何?」

「俺は……俺だけはお前の味方だから。今は辛くて苦しいかも知れない、それはわかってる。でも耐えてくれ、俺が必ず救って見せる」


 ……気持ち悪っ。 

 何が言いたいの?

 意味が分からないけど、本当に不愉快だわ。


「もういい?」

「すまん、今は周りの目があったな。……また話そう」

「……さよなら」


 ライナスが自分の席に戻っていく。

 席には取り巻きの騎士たちも座っている。


 ……はぁ、疲れた。

 本当に最悪だったわ。

 でもまぁ、フィルが離れてくれてよかった。

 あんなの聞かれてたら最悪よ。


 さて、フィルはどこに……?

 あ、いたいた!

 なんだ、ちゃんと話してるじゃない。

 えーっと、あれは確か最近将軍になった騎士団の中でも若手のエースよね。

 確か名前は……ルイーゼだったかしら。


「ねえねえフィル、ありがとね。君があの時助けてくれなかったら、ボクは絶対将軍になんてなれなかった」

「ルイーゼなら成れたよ。君は世界一優秀な将軍なんだから」

「……ううん、フィルのお陰。騎士団に入ってからもずっと、フィルが支えになってくれたんだよ?」

「……支え?」

「そう、あの時フィルに助けてもらったんだから、こんな所で負けるかー!って、ずっと考えてたからここまで生きてこれたんだ! もう一度フィルに会うために、生きて帰るんだって……」


 ……は?

 あれは、なに?


「ねえフィル、お妾さんって作らないの……?」

「い、いやいや! 作らないよっ」

「でもさ? フィルがお世継ぎを作らないまま死んじゃったら、孤児院の子たちも困っちゃうよ?」

「いやまぁ、それはそうだけど……」

「ね、フィルなら妾位簡単に……それこそ、あた――」

「ねえ“あなた”、ちょっといいかしら」


 とんでもないことを口走ろうとしてたけど、そうはさせないわ。


「え? ああ、話は終わったの?」

「ええ」

「そっかそっか、それはよかった」


 今この女との会話を見て確信したわ。

 フィルは……モテる。

 それも、多分かなり。

 孤児院の子たちも、多分何人かは本当に異性として愛してる気がする。

 リゼとか、その筆頭よね。


 ……なんだろう、すごくイライラする。

 政略結婚で、まだ一緒に暮らして2ヶ月も経っていないのにどうしてこんなに心が ざわつくの……?

 ……ああ、そうね。

 認めるわ。

 あたしは、“あの人を取られたくない”。


 ならもっと“この人は私の旦那だって”アピールしていかないと。

 まずは心の中から変えていくべきね。


「……この人が」

「ああ、そうそう。俺の奥様だよ」


 “旦那“が、あたしを紹介してくれる。

 奥様、良い響きね。

 特別な、この世で一人しかいない存在って感じがする。


「お初にお目にかかります、ルイーゼ将軍。ご活躍は常々聞いております」

「……ありがとうございます」


 露骨に不機嫌ね。

 そんなに旦那の事が好きなの?

 でもだめ、渡さないわ。


「旦那とはお知り合いなんですか?」

「……ええ、一度命を救っていただきました」


 ……命を、ねぇ。

 何をしたのかしら、まあどうでもいいけれど。


「そのことは……」

「あ、ごめんなさいっ」


 ……気に入らない。

 何、なんなの?

 二人だけの秘密ってやつ?


 ――まあいいけど。

 あたしはこの人の正妻なんだから。

 この立場は誰にも崩せないわ。


「奥様とフィルはいつからお知り合いなんですか?」

「……2ヶ月前ですよ」

「へー、そうなんですかっ。想像よりずっと短いです。やっぱり、上位貴族だと色々とあるんですか?」


 色々? 

 ……ああ、そう。

 政略結婚だって言いたいわけね。

 

「そうですね、色々あったんじゃないですか? “どうしても欲しかったから本気を出した”らしいですし」

「……へぇ」


 ルイーゼの声が一気に冷たくなる。

 旦那の隣にいるリゼも、目が細くなってイライラしてるのが伝わって来る。

 

 ふふ、残念ね。

 あたしは旦那の“特別”なのよ。


「なんか2人、仲悪い……?」


 フィルが気まずそうに聞いてくる。

 ……そういうことは察せるのね。


「そんなことないわ」

「うん、全然そんなことないよ」


あたしたちは、笑顔で同じこと言った。


 ―

 ――

 ―――

 ――――


 長かった結婚式もようやく終わり、参加者がみんな帰っていった。

 色々と“いや”な参加者も多かったけど、概ね滞りなく終わらせられたと思う。

 

 ちなみに、あたしは今久しぶりに実家に帰る途中。

 旦那が“折角なら”と言ってくれたので、帰ることにした。

 一応護衛にノノもついてくれている。


「ノノ、お疲れ様」

「奥様こそ、本日は大変疲れたのではないですか?」

「ふふ、そうね。多分お互いすごく気を張ってたわね」


 旦那の家で過ごした2ヶ月の間に、少しだけどノノとの仲も改善してきた。

 こうやって普通の会話位なら出来るし、向こうから話題も振ってくれる。

 そう考えると、なんだか嬉しくなる。

 

「さ、そろそろ着くわ。あなたもうちに泊まるの?」

「いえ、私はこの後フィル様のお屋敷に……」

「そ、ならたっぷり甘えてきなさい」

「な……! そ、そのようなことっ」

「ふふっ」


 ノノが顔を赤くしている。

 たまには父代わりに甘える時間も必要よね。

 

 この子、素直じゃないけどかわいくていい子よね。

 触れ合ってみる物だわ。


 ……ほんと、あの家に嫁げてよかった。

 素敵な旦那様に、かわいい侍女。

 後は……子供だけね。

 もう結婚したんだし、そろそろ……。


「レーナ・サヴォイだな」


 灯りのない暗い夜道。

 王都と言えど、この時間では人通りも殆どない。

 そんな静かな道。

 そこに、あたしたちを遮るように一人の男が立っている。


「奥様、お下がりください」


 ノノが一気に警戒の色を強め、前に出る。

 男は、明らかにあたしたちに害意を持っている。


「お前を連れていく。主のため、大人しく着いてこい」

「お断りよ」


 着いて行くわけがない。

 絶対碌なことにならないのはわかりきってる。

 取り敢えず、なんとかここを切り抜けない……と?

 

 視界が赤く染まる。

 目の前であたしを護衛していたノノの身体から血が溢れ出す。

 どういう、こと……?

 

「着いてこないなら、連れていく」


 男があたしの口を塞ぐ。

 や、やばい。

 意識が、無くなっ……。

 





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