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第29話 レーナ⑥ 結婚式と招かれていた乱入者

 フィルの顔が目の前に迫る。

 周りにいるたくさんの貴族たちが神妙な、若しくは興味の無さそうな顔で見ている。

 一部、なんか怖い顔の人たちもいるけど気にしないでおこう。

 あたしも目を閉じ、彼の唇を受け入れる。

 

「ここに契約は成された! この日、この教会に集まる全てのものがこれを保証しよう!」


 瞬間、辺りから歓声が上がる。

 割れんばかりの祝福の声と、ほんの少しのやっかみの声。

 そのどれもが優しいものであるのは言うまでもない。


 そう、今日はあたしとフィルの結婚式。

 フィルと出会ってからまだ2ヶ月くらい。

 本当にあっという間だった。


 王都にあるちょっとばかり装飾が派手な教会に高位貴族たちが集まり、みんなが祝福してくれている。

 この開催に至るまでにすごーく苦労したけれど、まあ今はいいわ。

 思い出したくもない……。


 あたしはここからが正念場。

 フィル・クーリッヒマルド伯の妻として旦那の貴族としての立場を少しでも良くするように努めないと。


 部屋の中央にはあたしたちの席があり、それを囲うように大臣やら伯爵、騎士団関係者など様々な人が食事を楽しんでいる。

 大体、なんでこんな場所で誓いのキスなんて……。

 もう少しこう、厳かな方が……。


 とにかく、これから話しかけにやってくる来賓の人たちを無難に捌かないと……。


 ……ただ1つだけ大きな問題がある。

 本当に、すごくすごく大きな問題が。

 

「レーナ、ちょっといいかな」

「ん? どうかした?」

 

 フィルが小声で話しかけて来る。

 何かあったんだろうか?


「そろそろみんなに注目されるの疲れたから、一回風を当たりに行ってもいいか?」

「駄目に決まってるでしょ?」


 そう、あたしの旦那はすごく社交が苦手ってこと。

 よく考えたら貴族の友達が一人も居ない時点で気づくべきだった。

 今日この結婚式に至るまでだって、礼服すらなんか変な安いやつしか持っていなかったり、旦那側の知り合いが一人も参加しない(そもそもいない)みたいなことが起きてた。

 騎士団関係者なら何人かいたからそこから頑張ってかさまししたり、教会の修道女たちを多めに呼んだりして見栄えは整えたけど……。

 この人には、根本的に“社交“という概念が欠落しているんだと思う。


 ああ、本当に大変だった。


「うっ、わかった。じゃあせめてもう少し端に……!」

「だ め !」

「はい……」


 フィルが観念したように項垂れる。

 ここはあたしたちの結婚式会場であり、この場の主役だ。

 もう少ししたら色々な人が話しかけて来るだろう。

 むしろ、ここから始まる宴会が本番みたいなところもある。


「とにかく何とか無難にやり過ごしましょう?」

「わかった、なんとか頑張るよ……」


 いつもの余裕のある反応が一転して、すごく弱々しい。

 ……なんか、ちょっとかわいいかも。


「おお、これはこれはフィル・クーリッヒ卿! お会いできて光栄です」

「あ、えっと……」


 ……早速来てほしくない代表みたいな貴族が来た。

 この国の財務大臣、ネイル卿。

 社交の場では口うるさい貴族の代表みたいな男。

 

 ……ていうか、多分フィルはこの人が誰かわかってないわね


「ネイル卿ではないですか! 父がいつもお世話になっております」


 取り敢えず、財務大臣の名前を忘れるなんてとんでもないミスをさせるわけには行かないからフォローしておく。

 胃が凄く痛い……。


「うむ。君の父は良く仕事をする優秀な男であるからな、大変重宝している」

「ありがとうございます、父もいつも財務大臣様にあこがれていると話しております」

「憧れるなど! この国の中枢を担う貴族同士私は彼を純粋に同志と思っているぞ」

「その言葉、父が聞けば感涙するでしょう」


 ……とりあえずお世辞合戦でどうにかなるかしら。


「クーリッヒ卿、あなたも良い女性を妻に迎えましたな」

「ええ、素晴らしい女性です。美しく、それでいて知性と気品に溢れていますから」

「そのようですな、お互いこの国を担う高位貴族同士、今後はより関係を深めていきましょう」

「同感です」


 ……ふう。

 なんとか無難にやってくれてるわね。

 うんうん、ちゃんとやればできるのよ。

 貴族社会に興味が無いだけで、“役目“としてこなすことは全然問題なさそうね。


「では、私はこれで」

「はい、本日はお越しいただきありがとうございました」


 数分話したのち、満足したのか大臣が帰っていく。

最後に恭しく頭を下げ、なんとか大臣の来襲を乗り切れた。

 

 はぁ、これが続くのね……。

 さて、次は……。


「……よぉ」


 低く、怒りに満ちた声。

 目の前には、ライナスが立っていた。


 え、来たの……?

 遠くで見守っていたリゼがすぐに駆け寄って来る。

 雰囲気はまさに一触即発って感じ。


「ライナス殿、活躍は聞いてますよ」

「……俺はお前に話しかけてないが?」


 話しかけるフィルを睨みつけ、ライナスがあたしの方を見る。

 ……相変わらずね。


「どうしたのライナス、何か話でも?」

「こいつ抜きで話をさせてくれよ」

「え? いやよ、今忙しいこと位わかるでしょう?」

「いいだろ、ちょっとだけだ」


 今ここで2人で話すのなんていやなんだけど……。

 別に話す事なんて無いし、なんなの?


「旧友同士、俺がいたら深く話せない事もあるんだろうし俺は少し離れてるよ」

「え、ちょっ!」


 そう言って、フィルが離れて行ってしまう。

 ……ここからライナスを置いて追いかけるのは、流石にまずいわよね。

 周りの目が……。


 はぁ、仕方ない。

 いやだけど、乗り切りますか。

 一応ノノは近くにいてくれてるし、こんな大勢の貴族がいる場で変な事はしないわよね。



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