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第28話 レーナ⑤ 地雷原でタップダンス

 あの日の夜から数週間が経った。

 2人で過ごす夜はなんだかとても心地よくて、癖になりそうだった。

というか、あの後も何度か彼の部屋で寝ている。

 ……今の所手は出されていない。

 フィルの部屋に行く時はいつもそれなりの覚悟で行っているのに、なんだか釈然としない。

 そ、それだけ大切にしてくれているって事よね?

 魅力が無いわけじゃ、ないわよね?


 ……正直、今ならキスをされても震えないかもしれない。

 というか、身体を触りたくとかならないのかしら……?

 そこだけが最近の不満。


 会話とか接し方とかはまだぎこちないけれど、それでも少しずつ夫婦としての形になりつつある気がする。

 やっぱり、2人の時間をとるって言うのは大切だと思う。

 

 フィルは意外と忙しくて、なかなか二人きりの時間は取れない。

 これからする朝食だって、結局は周りに護衛やら侍女やらが大量にいるし……。


 あ、侍女と言えば。

 あの日なにも無かったことはすぐに侍女たちの間で噂が広がったらしい。

 ……考えてみれば、ベッドシーツになんの跡も着いてなかったらわかるに決まってるわよね……。

 あと、フィルの隣の部屋はリゼが寝泊りしてるから不審な音がしたら間違いなくバレる。

 

 ……つまり、あたしたちが本当に“する“時もお見通しってこと。

 それを考えるとちょっとだけ憂鬱になる。


「おはようございます、奥様。朝食の用意ができました」

「そう、すぐ行くわ」


 ノノが部屋に入りお辞儀をする。

 正直、彼女ともあまり打ち解けられてはいない。

 何かきっかけがあればなぁ……。


 この屋敷にもなれたもので、殆ど何も考えずに食堂までたどり着くことが出来た。

 最初のころなんて迷宮に入り込んだんじゃないかって不安になったものだ。

 やっぱ、人って慣れるのね。

 ……まあ、もしあたしが屋敷を建てる事があるなら絶対にもっと狭くするけど。


「あ、おはようレーナ」

「おはよう、フィル」


 先に席についていたフィルに挨拶をする。

 あの日から、お互い敬語は辞めた。

 ……うん、フィルの言った通り敬語を辞めて正解だったわ。

 距離が近づいたって言う実感が凄く湧く。


「朝から綺麗な女性を見ると幸せな気分になれるね」

「そ、そう……? ありが、とう」


 フィルは毎朝こんな感じで褒めてくれる。

 正直、未だになれなくて全然上手く返せなくてすごく悔しい。

 ……あと、周りの侍女たちの視線が信じられない位怖い。

 

「本当に結婚できてうれしいよ。朝から最高の……」

「……フィル様、よろしいでしょうか」

「ん? いいよ、どうした?」


 そのままあたしを褒め続けようとするフィルの横から、ノノが話しかける。

 ……もしかして、わざと遮った?


「我が領土の一部で発生していた山賊なのですが、昨日無事打ち取ったとの事です」

「へえ、いいことじゃん。よかったよかった」


 フィルはあまり興味無さそうにから返事をする。

 というか、多分お腹をすいたのかずっと食事の方を見てる。

 ……あたしもお腹減ったし、そろそろ食事を始めたいんだけどなぁ。


「ただ、その中に元貴族らしきものが何人かおりまして……」

「……どゆこと?」

「騎士職の次男三男のようでして……」

「ああ、自由・食・女を手に入れようとしたってわけね」

「はい……。この場合、やはり貴族だけは逃がした方が……?」


 騎士の次男三男、ねぇ。

 ホント、長男以外には厳しい制度よね。

 特に領地を持ってないとかなり厳しい相続になる……。

 

 とはいえ、山賊になるなんてクズ過ぎるけど。


「だめだめ、全員処刑で。ちなみに、そいつらが殺したのは?」

「女子供含め、かなりの数……」

「女子供もかよ!? 本当の屑だな……」

「とはいえ、一応気高い青い血を引くものですので」

 

 子供を殺してる時点で気高くないでしょ。


「子供を殺してる人間が気高いわけあるかよ」


 あ、被った。

 ふふ、よかった、彼もまともで……。


「取り敢えず主犯格は公開処刑、それ以外は身ぐるみはがして森に放置で」

「承知しました」


 え、でも?

 あれ、いいのかしら……?


「ねえフィル、いいの?」

「ん? 何が?」

「だって、貴族なんでしょう……?」


 貴族に対する刑は国外追放まで。

 貴族特権の一つで、大事なルールだ。


「何言ってるんだ? そいつが貴族だって判明することは無いぞ」

「……はい?」

「誰もそいつが何者かなんて知らないまま死ぬんだよ」


 冷たい顔で当たり前のようにそういうと、周りの従者たちも頷く。

 ああ、そうか。

 ここはフィルの領地、何をどうしようとバレるわけないのね。


「そういうことね」

「わかってくれて何よりだよ」


 いつも顔は怖いけど優しい所ばかり見てたけど、この人もれっきとした為政者なのよね。

 当然こういう面も無いとやっていけるわけないわね。

 ……はぁ、あたしももっと領主貴族の夫人としての気持ちを作らないとダメね。


「さ、ご飯食べようか」

 

 フィルがそう言って食事に手を付ける。

 あたしもそれに続いて食べる。

 ……なんとなく、空気が重い。

 なんか話題ないかしら?

 

 そうだ、気になってた事聞いてみよ。


「ねえフィル、フィルって趣味とかないの?」

「孤児院の経営だよ、前に言わなかった?」

「そういうのじゃなくって、もっと娯楽っぽいものよ」

「えー? うーん……?」


 しばらく考え込んで、そのまま黙ってしまう。

 孤児院経営だけが趣味って、それどうなのよ。


「貴族の友達とかいないの?」

「……いない、話題が楽しくないし」

「そ、そう……」


 ふとあの日の宴会を思い出して、あれを楽しいと思わないでいるフィルに好感を覚えてしまう。


「じゃあ、何か物を集めたりは? 宝石とか、家具とか、絵とか」

「そんなの無駄じゃん」


 こんな外観だけで中身が殺風景な家に住んでるんだもの、愚門だったわね。

 この食堂も最低限の家具しかないし。

 

「じゃあそうねえ……。あー、えっと……女遊びとか?」


 その言葉を発した途端、場の空気が一気に冷たくなる。

 周りの侍女が露骨にイライラしてる空気を出してる。

 フィルの横に立って周りを威圧しているリゼなんか、もう殺気みたいなものまで出てない!?


「そういうのもなー。病気とか怖いし……」


 随分と切実な理由ね……。


「別にフィルなら商売女じゃなくてもどうとでもなりそうだけど……」

「んー? まあ、そりゃ権力を振りかざせば出来るけど、そういうのはね。俺は無理矢理するの嫌いだから」

「この間も言ってたわね」


 あの日の夜を思い出して、すこしだけ顔が熱くなる。


「でも、どうしても欲しかったらなんとしても手に入れるよ」

「ふーん……」


 なんだろ。

 なんか、少しイラっとする。

 なんで??

 自分で聞いたことなのに……。


「だから、俺はレーナの時は本気出したんだよ」


 ……不意打ち。

 どうしよ、顔上げられない。

 絶対赤くなってる。


 ……最悪、ホント最悪よ。



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