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第26話 レーナ③ 豪華絢爛?伯爵屋敷

「さあ、屋敷に着きますよ」

 

 王都を出発し馬車に乗って数日。

 マルド伯爵領の中心部、城門を超えた先にある大きるフィルの屋敷にまでたどり着いた。

 正式な結婚はまだ先だけど、取り敢えず一旦一緒に住んでみよう、ということになったのだ。


 あの日、フィルに求婚された時からまだ一週間もたっていないのに。

 もうここで住む事になるなんて、人生って本当によくわからない。


「随分と、豪華なお屋敷ですね」

「祖父の代で建てたらしいんですけどね、相当お金かけたらしいですよ」


 まさしく豪華絢爛といったお屋敷。

 街の外壁もすごい威圧感だったけど、このお屋敷はある意味それ以上に威圧的に見える。

 白を基調にした美しい色合い、手入れの行き届いた広い庭、そしてあたしの家が10個くらい入りそうな広さ……。

 とんでもないわね……。

 

「さすがマルド伯爵、経済力も我が国随一なんですね」

「いやいや、これを建てるのに相当無理をしたんですよ! 増税に、借金まで……」

「それは……なかなか大変ですね」

「ええ、本当に」


 とはいえ、これだけの物を建てて維持できるだけでもこの家の力のすごさがよくわかる。


「さ、早く入って」

「え、ええ」


 早速馬車を降りて屋敷の中へ向かう。

 扉を開けると、中もすごく広々としている。

 壁や絨毯も非常に綺麗で豪華。


 でも、なんというか。

 意外にシンプルと言うか、調度品みたいなものは少ないのね。

 もっと高そうなツボとか、大きな絵とかが飾ってると思ってた。


「がっかりしました?」


 フィルがあたしの顔を覗き込む。


「え、いやそんなことは……。ただ、内装は意外とシンプルなんですね」

「元々はもっと豪華だったんですよ、僕が全部売ったんですけど」

「売った? なにか事情でも?」


 あっ。

 こんなこと聞くべきじゃなかったかも……?


「孤児院を経営してるんですよ。その資金のためにいらないものは売っていこうと思いまして」


 孤児院の経営、本当だったんだ。

 絶対嘘の噂だと思ってた。


「と言うことは、私財を投じて経営してるんですか?」

「そうですね、俺の唯一の趣味です」

「趣味……?」


 趣味って、どういうこと?

 よくわからない、冗談なのかな?


「まあとにかく、長旅で疲れたでしょう? 侍女を一人つけるんで、部屋まで行って休んでください」

「そうですね、一度着替えもしたいので……」

「食事が出来たら呼ぶので、その時までは自由に過ごしていいですよ。もうここはレーナさんの家でもあるので」


 あたしの家。

 そうよね、あたしはもうこの人の家族になったんだ。

 色々急激すぎて吞まれてたけど、気持ちを切り替えないと。


「ノノ、面倒を見てあげてくれ」

「はい、かしこまりました」


 ノノと呼ばれたメイド服の少女が恭しくお辞儀をする。

 この子も元は孤児だったりするのかしら?


「その子は今後レーナさん専属の侍女になってもらうから、仲良くしてあげてください。その子も元は孤児出身でとても優秀な子なんですよ」

「そんなお気遣いまで、ありがとうございます」


 本来なら実家から従者の一人くらい連れてきてもいいんだけど。

 王都の土地なし貴族にそんな予算は無い、と言うことで身一つで来てしまった。

 恥ずかしいけど、専属の侍女まで用意してくれるなんて本当に至れり尽くせりね。


 それだけあたしが魅力的って事かしら?

 

 ……阿呆なこと考えるはやめよ、嫌になるわ。


「じゃあノノ、よろしくね」

「よろしくお願いします」


 ……あれ?

 なんか、喋り方が冷たいような?

 あたし、何かしたかしら?


「奥様のお部屋はこちらです」


 ノノに連れられ屋敷を歩き、ようやくあたしの部屋にたどり着いた。

 これ、屋敷が広いのも考え物ね……。


 部屋を見ると、これまた質素な家具が置かれるだけの部屋。

 シングルベッドと、化粧台、それに小さな机といす。

 まあ、これ位で十分よね。

 欲しいものは自分で買えばいいし。


「何かご不満な点はございませんか?」 

「いえ、なにも無いわ。満足よ」

「それは良かったです。何か気になることがあれば仰っていただければ、いかようにでも改善いたします」


 すごく親切な言葉を、全く心のこもっていない冷たい声で言い放つ。

 ……やっぱ嫌われてるわよね、あたし?

 

「あの、これは不満とかじゃないんだけどね」

「? なんでしょう?」

「あなた、あたしの事嫌いなの?」


 悩むのも面倒だし、直接聞いてみることにした。

 だって、その方が楽じゃない?

 どうせ否定するだろうけど、反応でなんとなく本音もわかるし。


「その様な事、あるはずがありません。私は……いえ、クーリッヒ家の侍女一同、奥様の事はフィル様と同様に扱うように厳命されております。故に、我らは奥様を嫌うことなど絶対にありえません」

「そう、ありがとう。信じるわ」

「はい。“奥様が奥様である限り”我ら一同奥様の手足となります」

「……へー、そう」


 “奥様が奥様である限り”、ねえ。

 随分と言うじゃない。

 最後の言葉だけ妙に感情が籠ってたし、やっぱり色々考えないとだめね。


 はぁ、憂鬱だわ……。



 ―

 ――

 ―――

 ――――


 しばしの休憩の後、夕食を食べたあたしは部屋に戻ってきていた。

 あの食事、美味しかったけど。

 なんというか、すっごく庶民的な味だったわね。

 別にいやじゃないけど、もっとこう毎日捨てるほど食べてるようなイメージだったから以外……。


 もしかして、本当にお金ない?

 だとしたらなんであたしなんか。

 ほ、本当に一目惚れで、無理してでも欲しかったってこと……?


 ……だとしたら、当然“そういう”事も求められるわよね。

 というか、もしかして今日って実質結婚初夜?

 きょ、今日覚悟を決めないとダメって事!?


 ……いえ、やるわ。

 どうせあの場で散らすはずだった操くらいどうってことないわ!

 村一つに加えて、結納の品で大量の物資やらお金やら、とんでもない量を貰ってるのはわかってる。

 だったらせめてあたしの身体で報いないと……!


「ノノ、いいかしら」

「どうかなさいました?」

「お風呂から上がったら、フィル様の部屋に案内してくれるかしら?」


 部屋の隅で直立不動だったノノが、ビクっとわずかに動く。


「……その時間ですと、我が主は既に床についているかと」

「だから行くのよ、意味わかるでしょう?」

「……承知いたしました」


 不承不承ながら、と言った感じでノノが返事をする。

 ……あれ、これもしかして?

 あたしを嫌いなんじゃなく、フィルを取られるのがいやとか、そういうこと?

 それなら理解できる。

 これはあれね。

 お父さんを取られたくないのね。


 だったらこの態度も納得いくわ。

 というか、そう思うと一気にかわいく見えてきた。

 まだ少女って感じの年齢だし、両親が恋しいのよね。

 たまにはあたしから離れて二人になる時間、作ってあげてもいいかもね。


 


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