表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/40

第23話 断罪裁判第四ラウンド

「つまり、彼はあくまでも私を助けるために禁忌の地に入り、私の権限でそれを許可したの」


 カノンの説明がようやく終わり、いよいよもって場内はいたたまれない雰囲気になっていた。

 説明の最中、ライナスは怒りに震え真っ赤になったり、青ざめてあたりを見回したり、本当にかわいそうなくらい表情を変化させていた。

 周りの観衆たちも今や馬鹿にするというよりも、余りの負けっぷりに同情や憐憫といった感情の方が強い。

 ……これは、余りにも。


「……だ、だが! 禁忌の地に入ったのは事実でしょう!?」

「何度も言っているじゃない、聖女であるこの私が直々に許可を出したのよ? 例え王だろうと文句を言う事はできないわ」

「し、しかし!」

「――それ以上の発言は教会への権限侵害と見なすわよ」


 なお食い下がるライナスに、カノンが感情のこもっていない機械的な声で警告する。

 ……くっそ怖いんだが。


「な!?」


 余りの迫力にライナスどころか、周りの観衆までもが一斉に口を閉じている。

 そりゃそうだ、この国で教会を敵に回すのは王を敵に回すのと同じくらい恐ろしい。

 教会の権力は強大で、それでいて国家と違いカノンが一人でほぼ全権を担っている。

統率された狂信的な軍事力なんて、元の世界でもそれだけで脅威だった。


「さて、こんな裁判もう終わりでいいでしょう? フィル・クーリッヒ、今日は久しぶりに夕食でもどうかしら?」


 ついさっきまで恐ろしい雰囲気を出して周りを威嚇していたカノンが、途端に満面の笑みになって振り返る。

 いやいやいや!

 切り替え怖すぎるよ!

 さっきの話で俺に感謝してくれてるのは伝わってきたけど、それでも怖いよ!


 ……まあ正直、知り合った女性の中で一番見た目が好みなのはカノンだから誘い自体は嬉しいけど。

 でも、今はそれどころじゃない!

 今後の俺の、そしてこの国の運命がかかってる!

 こんな所で追放を諦めるわけには……!


「え、いやカノン様……今はまだ裁判中で……」

「もう決着がついたじゃない」


 カノンがライナスを一瞥する。

 視線の先には拳を握り、頭を垂れて絶望しているライナスが立っていた。

 

 ああ、これはもう駄目かも知れん。

 どうしよう!?

 俺の国外追放計画、水の泡じゃん!

 ていうかさ、俺はもっとわかりやすいの用意してたんだけど!?


 貴族の娘を攫ったり、王都の貴族から金品を盗む怪盗ごっこをしたりしてバレたら極刑確定の犯罪してたんだけど!

 あれの証拠は見つけてないのかよ!?


 攫った貴族の娘はその子が好きだった一代騎士の男と暮らせるように色々手配したり、盗みに入る貴族の選定のためにそいつが不正で金品を得ている証拠を見つけたりするの、あれすっごい大変だったのに!

 俺の苦労を返してくれ!


「ねえあなた、もう帰らない? 一応あれでも幼馴染だから見てて恥ずかしくなってくるのよ」

「い、いや恥ずかしいって……」


 そこはかわいそうとか悲しいとかじゃないのか?

 ていうか“あれ”って……。

 

「さあ、裁判長。閉会の宣言をしなさい」

「そうですな、聖女様の仰る通りでしょう」

 

 そう言って、裁判長が大きく息をすう。

 まずい、このままじゃ本当に裁判が終わる!

 な、何かないか!?

 こんな事態想定してないからなんの準備も出来てない、どうしよう!?


「ま、待て! まだあるぞ!!」


 裁判が終わろうとしたその時、ライナスが声を上げる。


 おお!!

 流石主人公、まだ諦めてなかった!!!

 貴族の娘を攫ったこと?

 それとも、怪盗ごっこのことか??


 周りの観衆たちはもうなんか、うんざりって感じだしてるけど諦めんな!

 裁判長にいたってはお前のこと睨みつけちゃってるけど、気にしたら駄目だぞ!


「はぁ……。なんですかな?」


 そんなため息ついたりするなよ裁判長、かわいそうだろ……。

 ライナスがうろたえちゃってるじゃん。

 ああもう、涙目になっちゃったよ……!


「そ、その男は権力を振りかざし、愛し合う男女から無理矢理女性を奪い取ったのです! これはもう、明確な犯罪ですよ! 教会の教義にも反するはずだ!」


 ん……?

 あれ、怪盗でも人攫いでもない……?

 なんか、あれ??


「……別に法律には違反していませんな」

「そんな教義無いわ」


 司法と宗教のトップが即座に否定する。

 ……あまりにも、あまりにも酷い。


「どうしよう、本当に見てられない……。顔から火が出そう……」

「……大丈夫、悪いのはあの男。奥様は悪くない」

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるわ……」


 おお、普段あんまり仲が良くないリゼとレーナが仲良さげに話してる!

 ……とか言ってる場合じゃないな。


「で、ですが! 道徳的に間違っています!」

「まぁ、一応聞きますがその愛し合っていた男女と言うのは?」


 裁判長が呆れた様子で質問する。

 その質問に、ライナスは自信たっぷりに胸を張る。


「俺とレーナです! あの男は、俺からレーナを無理矢理権力で奪い取ったのです! そしてその薄汚い手で美しいレーナを穢しているのです!!」

 

 ライナスが高らかに宣言する。

 隣を見ると、レーナが顔を真っ赤にしている。

 やっぱり、なんやかんや言って主人公の事が好きなのかな?

 そうだよな、メインヒロインだもんな。

 

 自分の事を言われて不名誉ではあるけど、1原作ファンとしては主人公とメインヒロインのこんなシーンを生で見れるのはちょっと感動だ。


「さあレーナ、助けに来た! ちょっと予想と違う展開だけど、すぐに君を救ってみせるよ」

「……ねえ、ライナス? 色々と言いたいことがあるんだけど、いい?」

「もちろん!」


 レーナが声を震わせてライナスに話しかける。

 これから、感動的なシーンが始まるんだろうな!

 そしてそんなシーンに胸を打たれて、なんやかんや俺は国外追放!

 うん、ハッピーエンドだ!

 そうなる気がする!

 もう何も怖くない!


「まず、今のあたしってあなたに言わせれば“穢れて”るの?」

「……確かに、その男に散々穢されてるよ。でも心配しないで! 俺は君がどれだけ穢されていても愛するよ!」

「……へえ、そう」


 レーナは顔を床に向け、何かに耐えるように声を絞り出す。


 あ、あれ?

 今の台詞はちょっとまずくないか?

 

「さ、早くこっちに……」

「……一応いうとね、あたしまだ処女よ? “そういう“事は何もしてないわ」

「ほんとか!?」


 ……あからさまに嬉しそうな反応。

 いや、その反応は駄目だろ……。


「はぁ……。そう、ほんとよ」

「絶対だめだと思ってた……! それでも、どれだけ他の男で汚れていても我慢するつもりだったんだけど、嬉しいよ俺!」


 が、我慢って……。

 周りを見ると、メインヒロインの女性陣はみんなドン引きしてる。

 レーナの顔は……怖くてみれん。


「ねえ、もしあんたの言う通り“そういうこと”をするのが穢れだって言うならさ」

「え?」

「あんたの方がよっぽど穢れてるじゃない!」


 レーナが顔を上げてまっすぐライナスを見つめる。

 その顔は、横からみてもわかるくらい怒りで震えていた。


「な、なに言って……?」

「別に、あんたがあたしをどう思おうとどうでもいいし、どこで何をしようとこれっぽっちも興味は無いわ」

「はぁ!? 待って、俺たちは幼馴染で愛し合って……!」


 ライナスが過去一絶望的な顔で呻いている。


 おいおい、なんだこれ……。

 どうなってるんだ……?



「あんた、あたしの事散々穢れてるだの汚れてるだの言ってくれたけど、よそで子供つくってるじゃない」

「い、いや……!」

「さっきの話に出てきた“旅のお方”って、あんたの事でしょ? あの時期に旅をしてて、お供がついてて、重要な役割を果たす、なんてあんたしか該当しないと思うけど?」

「そ、それは……」

「それで愛し合ってる? 我慢する? 笑わせないで」


 うーん、ごもっとも……。

 ていうか、やっぱ旅のお方ってライナスだよなぁ。

 正直薄々察してたけど……。


「で、でも! 俺たちは愛し合っていた幼馴染で、それをあの悪役貴族が奪ったのはホントだろ!?」

「悪役貴族……? もしかして旦那のこと? 確かに、あたしと旦那は政略結婚よ。でもね、あたしは旦那が好きよ。愛してる、男としてね」

「え!?」


 やばい、思わず声が出てしまった。

 レーナが俺の事を愛してるって、どういうことだ?

 俺はライナスの言う通り、権力を使って無理矢理嫁にしただけなのに……。


「え!? って、なによ」

「い、いやー……」


 レーナがジトっとした目で俺を睨みつけて来る。

 どうしよう、俺も怒らせたかもしれん。


「ふ、ふざけんな! お前は俺の……!」

「うるさいわね……。あたし、あんたの事は幼馴染だし友達として大切に思ってたわ。でも、男として好きだったことは一度たりとも無いわ」

「そ、そんな……。なんで、どうして……」


 ライナスが、膝から崩れ落ちていく。

 余りにも残酷な状況に、あたりは静まり返り、誰も声を出せない。


「なんで、そんな男の事を……! こいつは悪人で、最悪の屑で……!」

「あたしの旦那を悪く言わないでくれる?」

「でも、でも……!」

「……はぁ、まあいいわ。仕方ないから教えてあげる。あたしが旦那を好きになったきっかけはね?」


 そう言って、レーナが語り始める。

  

 ……あの、今から逆転ってありますか?

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ