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第2話 リゼ① まずはわたしとフィルが出会った時のお話

 わたしが産まれたのは、馬と草原に囲まれた静かな田舎だった。

 みんな子供のころから馬に乗って羊たちを追い回すのが当たり前で、それが一生続くんだと思ってた。

 わたしは族長の娘だから、いずれは羊だけじゃなくて立派な戦士になって人とか魔物とかも倒すようになるって教えられて、たくさん稽古もした。

 みんなとの日々は楽しかったし、幸せだった。

 でも、すぐにそんな日は終わった。


 ―

 ――

 ―――

 ――――


「早く走って!おねがい、リゼ!」


 わたしの護衛をしてくれている大親友のルナが、わたしの手を引いて外へ走っていく。

 テントは燃やされ、馬や羊が死んでいく。

 みんなも死んでいく。

 鬼の様な形相の男たちが、大声をあげて全部を壊していく。


 わたしはとっても怖くなって動けなかったけど、ルナが無理矢理引っ張ってくれたおかげでなんとか外に出れた。


「ルナ、なんで……こんな……」

「王国軍よ!このままだと、みんな殺されるわ……!あなただけでも逃げないと、あたしたちの一族はもうどうしようもなくなっちゃう」

「でも……みんなが……」

「いいから走って!! あいつらは鎧を着てて遅いから馬に乗れば逃げ切れるはずよ!」

「ルナも、一緒……?」


 わたしの問いにルナが顔をこわばらせる。


「もちろんよ」

「なら、いく……」


 怖いけど、辛いけど、悲しいけど……。

 でも、ルナと一緒なら……!

 子供のころからずっと一緒に育ってきたから、きっとこれからも二人なら……。


「あそこ! 厩がある!!」

「う、うん……!」


 あとほんの少し走った先に、厩が見える。

 息を切らして草原を駆け抜けてなんとかあと一歩のところにたどり着いた。

 これでなんとか……!


「おい! こっちに女がいるぞ!」


 野太い男の声が聞こえる。

 たぶん、見つかったみたい。

 あと一歩なのに……!


「はぁ……はぁ……」


 息を切らして必死に走る。

 火と煙で溢れた草原の中を男たちが追って来る。


「リゼ、聞いて」

「……なに?」

「今から手を放すから、後ろを振り返らず走って」

「どういうこと?」

「いいから!!」


 ルナが大声で叫ぶ。

 わたしだって、それがどういう事かってくらいわかる。


「や、だよ! 一緒に……!!」

「いいから早く!!」


 ルナが私の手を振り払う。

 いやだ、いやだよ……!


「感動の場面に悪いが、二人とも俺たちの稼ぎになってもらう」


 目の前から、正確には厩から数人の男が出て来る。

 みんな、一様にニタニタと気持ちの悪い顔で笑ってる。

 心底気持ち悪くて、今すぐにでも逃げたい……。


「何でもするから、捕まえるのはあたしだけに……」

「通ると思うか?」


 ルナが黙り込む。

 気づいたら、何人もの男が私たちを囲んでる。

 とても逃げられそうにない。

 怖い、怖いよ……。


「ま、大人しくしてな」

「くっ! 放せっ……!」

「やめて……!」


 男たちがわたしたちを捕まえて、ロープで縛られる。

 暫くして、もっと気持ちの悪い太った男たちが何人かやってきた。

 男たちはいくらかのお金を払って、わたしたちを自分の馬車に連れ込んでいった。


 ―

 ――

 ―――

 ――――


 あれからどれくらい経ったんだろう……。

 馬車でどこか大きな町に連れてこられて、殆ど裸みたいな恰好で牢に繋がれてる。

 時々男たちがこっちを見て、たまに他の子たちが売れていく。


 わたしは奥でじっとしてるから売れないし、見向きもされない。

 わたしを買った男は売れなかったら廃棄だって脅してくるけど、別にそれでいいやって思う。


 ルナは元気にしてるかな……。

 他の男に買われて別の馬車に乗ってどこかに行っちゃったから、あの子がどこにいるかもわからない。

 捕まった仲間たちも、もうだれもこの牢には残っていない。

 だからもう、わたしには何もない。

 何もないわたしは、きっともうすぐ何もせず死んでいく……。


「おお! これはこれはフィル様! 本日はどのようなご用件で……?」


 いつも通りぼーっと外を眺めてると、他のお客とは違う綺麗な服をきた男の子がわたしたちの牢の前に立っていた。

 店の男が、見たことがない位頭をを下げてる……。


「ここに子供は何人いる?」

「子供、ですか……? 子供はそこの女だけですが」

「よし、じゃあ買うよ」

「承知いたしました!」


 ……子供だから子供が欲しいのかな?

 多分、あの子もわたしよりちょっと上くらいの子供だ。


「おい、出ろ!」

「……はい」


 店の男が牢の扉を開ける。

 これで自由の身、なんてわけが無いこと位わかってる。

 飼い主が変わるだけで、私はこれからずっと奴隷のままなんだ。

 だから、もうどうでもいい。


「挨拶しろ!」


 店の男がわたしのお尻をたたく。

 痛くて涙が出そう……。


「リゼ……です……10歳、です……」


 緊張で言葉が出ない。

 あの日から、わたしは思ってることが声に出しづらくなった。


「リゼ……? そっか、よろしくね」

「はい……」


 なんだろ、わたしの名前変なのかな?

 まあいいや、なんでもいい……。


「さて、では奴隷の契約として焼印を……」

「必要ない」

「ですが、規則で……」

「この子を奴隷として買い取ったつもりはないんだ、必要ないよ」

「……さようでございますか」


 奴隷じゃ、ない……?

 じゃあ、なんだろう?

 家畜とか……?


「ほらリゼ、行くよ」

「はい……」


 わたしが後ろからついていくと、男の子が手を差し出してくる。


「……?」

「手、繋いで行こうよ」

「は、はい……」


 ……よくわかんない人。

 第一印象は、そんな感じだった。

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