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第11話 ルイーゼ⑤ 撤退戦

「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!!」


 ルイーゼ達を逃がすため、俺は山賊たちの目の前で大きな声を上げる。

 昔時代劇で見たような、そんな大見得を切ってしまった。

 なんだろう、恥ずかしいけどちょっと楽しい。

 不思議な感覚だ。


 その後はつらつらと自分が伯爵であることを説明し、敵が殺到してきたところをルイーゼ達の部隊とは正反対の道に逃げる。


「追え! 必ず捕まえろ!!!」

「あいつの人質にすれば俺たちは大金持ちだ!!!」


 山賊たちの下品な怒号が聞こえてくる。

 こええ、超怖ええよ。


「リ、リゼ! 敵はどの辺まで来てる?」

「……立ち止まったら1分もしないで捕まるくらい」


 やばいやばいやばいやばい。

 どうしよう、絶対捕まるって!


 ルイーゼは原作のメインヒロインの一人で、軍事面で最重要なキャラでもある。

 だから、絶対に殺させるわけには行かないと思ってここまで着いてきて囮も買って出たけど……。


 でもやっぱ、伯爵だって言うのはやばかったかな。

 あいつら必死になっちゃったもんなぁ……。


「……フィル、わたしが囮になる?」

「馬鹿言うな! お前が死ぬなんて認められるわけないだろ!」


 リゼにだって死なれるのはまずい。

 というか、絶対に死んでほしくない。


「……でも、このままだと流石にまずい」

「わかってる! ああ、もう……。仕方ない、一回止まって迎撃するぞ」


 本当は追放されるまで使いたくないんだけど……。

 でも、仕方ない。

 “奥の手“の一部を使うとしよう。

 あーあ、せっかく溜めたのにな。


「……わかった」

「よし、じゃあ行くぞ。3……2……1!」


 合図と共に立ち止まり振り返る。

 山賊たちがどんどん迫って来る。


「お、観念したか? 安心しな、お前らは生け捕りだ」

「ま、女の方は俺たちが貰うがな!」


 下種め。

 すっかり俺を捕まえた気でいやがる。

 まあいいや、油断してくれている方が楽だ。


「リゼ、目と耳を塞げ」

「……はい」


 リゼが耳に手を当て目を閉じて前を見ないようにしている。

 なんか、仕草がかわいいな。

 このまま抱きしめてしまいたい所だ。


 おっと、そんなこと言ってる場合じゃない。

 俺がこれまで溜めに溜めた“スキル”を使うとしよう。

 あーあ、これ手に入れるの大変だったんだけどな……。


「【迷心迷霧】」

「……あ?」


 山賊たちが怪訝な声を上げる。

 だけど、もう何もかもが遅い。

 山賊たちは大きな金切り声を上げ、服を脱いで歌いだしたり、いきなり味方に斬りかかったりしている。

 共通しているのは“狂っている”事だ。


 【迷心迷霧】は、相手の心を惑わすスキル。

 相手が多人数であり、そこが外であれば、思考は惑い、迷い、そして霧の中をさまようように自分を見失う。

 まあ、詠唱をきいた人間全員が喰らうとか、大きなデメリットもたくさんあるんだけど。

 それでも局地的には最強に近いスキルだ。


 ちなみにこれは俺の物ではなく、原作で最強キャラ議論に出るほどのとある敵キャラから“盗んだ”スキルだ。


 この世界にはスキルと呼ばれる特殊能力を持つ人間が多数存在している。

 そして、俺のスキルは【簒奪】。

 一度だけ、触れた相手のスキルを劣化コピーすることができる。

 なんというか、実に悪役貴族らしいスキルだ。


 俺は追放後のスローライフのために原作知識を使って色々と溜め込んでいるんだが、その中でもこれはかなり強いスキルだった。


 だから、本当は使いたくなかったんだよなぁぁぁぁ!!!

 悲しい。

 このスキルのためにめちゃくちゃ頑張って色んな戦場に行ってようやくエンカウント出来たのに。

 ああ、悲しいなぁ。

 

 あ、ちなみに俺がこうやって身分を隠して戦場にいるのはスキル収集のためだ。

 そうでもしないと独り立ちした時生きていけないからね。

 仕方ないね。


「リゼ、もういいいよ」

「……なにこれ」


 目を開けたリゼは目の前の光景に若干混乱している。

 そりゃそうだ、さっきまで普通だった人間が狂気に満ちた行動をしているさまは、普通に考えて異常だろう。


「気が狂ったんだよ。さあ、早く逃げるぞ」

「……殺さないの?」

「俺のはパチモンだから、割とすぐ目が覚めちゃうんだよ」

「……パチモン?」


 本物の【迷心迷霧】ならそのまま一生このままだが、俺が使ったら精々5分程度の持続時間だろう。

 それに、刺激を与えたら多分元に戻る。

 他のスキルで試した時は、それくらい劣化していた。


 劣化と言うよりは、練度不足で使いこなせてないだけかもしれんけど、とりあえず今言えるのは一つ。


「さ、早く逃げるぞ!」

「……う、うん!」


 そう言って、俺たちは再び走り出した。

 5分もあればそれなりに引き離せるだろ。


「……フィル、やっぱすごい。わたしなら、力任せに全員倒すしかなかった。多分、おっきい怪我……してた」

「100人近い山賊を相手に怪我で済むリゼの方がよっぽどすごいよ」


 リゼの護衛としての能力はすこぶる高い。

 身体能力もすごいし、野生の勘的な察知能力もすさまじい。

 あと、俺への忠誠心も高いから、命令は基本的に全部聞いてくれるのもいいね。


 仕事への意識が高すぎて寝る部屋を別にするのに手間取ったけど……。

 殆ど年齢離れてないけど、子供のころから面倒を見てきたから俺の事親か何かだと思ってるのかな?


 なんというか、孤児院の子たちって大体距離が近いんだよな。

 ここを生きて帰ったらそこら辺もう少し考えないとなぁ。

 あ、そうだ!


「リゼ、そろそろ結婚したりしたくないか?」

「……!?!? し、したい! で、でも……」

「おー! そうか。よしよし、じゃあ帰ったら話を進めようか」


 リゼにも“いい人“が出来れば俺への距離も落ち着くだろ。

 他の孤児院の子たちにも、紹介できないか伝手を探してみようかな。


「……結婚、つがい……! こ、子供……!」


 リゼが嬉しそうに呟いきながら俺を熱いまなざしで見つめて来る。

 こんなに喜んでくれるなら、相手を探しがいがあるなあ。

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