君のいない日々
また夢を見る、それは君が死んだ日のこと。
幾度走っても、行きたい場所には辿り着けずに、同じところで何度ももがき続けているだけのように思えてくる。
私はただ、君との今までを過ごしていたいだけなのに。
同じ夢にずっと犯されているのは生活の全てが常にぼんやりとした不安に溺れているからだろうか。
流涎と冬の匂い、瞼の奥から流れ込むのはレースカーテン越しの冷えた朝日。
冷えた床は足下から熱を奪い、寝ぼけた頭を冴えさせる。
と同時にテレビをつける、今日も晴れ、洗濯物はよく乾くらしい。
一人分の朝食と温かいコーヒー。
ひとりで食べる朝食はやけにテーブルが広くて、どこか寂しい。
やり残したことの多い、あまりに唐突な終わりだった。
君がいなくなってから、君が埋めていた僕の日々の全てはほかの何で埋めても受け入れられることはなく、ただ君がいないことを強調するばかりである。
一口齧ったトースト、ただ咀嚼するだけで飲み込むことができない。
何より受け入れ難いのは君はもうすぐ死ぬということである。
君は闘病の末、安楽死を選んで、一ヶ月後に死ぬ。
そして今日がその日である。
皿にある残りを無理矢理コーヒーで流し込み、外出の準備をする。
玄関を開けると部屋の温い空気を冷えた風が押しやって鼻がツンとなって涙がでた。
彼の両親に連れられて病院に着いたときにはもう、準備ができていた様子で、
君を殺すことはこの空間の全てにおいて許されていた。
何より本人がそれを望んでいるのである。
苦しかった闘病生活が終わることに安堵しているのか君はいつかみた柔らかで
気の抜けた穏やかな笑顔をしていた。
君は一言「ありがとう」言って、目をそっと閉じた。
君は遠いところに行ってしまいました。
眠るように死んだ君は静かに熱を奪われ続けるからだを抱きしめても目を覚ますことはなかった。
ただ、抜け殻がそこにあるだけであった。
君のいた私の日々は、君がいなくなっても普段通り回り続ける外界に歪められて、なんでもなくなるのだろうか。
私は本当に君が私の前からいなくなってしまうようで、心の底から怖い。
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ろぼつかより