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後話「英雄」

挿絵(By みてみん)



 五味とは高校3年生の時に友人の紹介で知り合った。



 当時の私は大怪我をしてしまい、大好きなバレーもできないということで傷心しきっていた。それに彼氏が何となく欲しいなって思っていた事もあって、二つ返事で彼との交際を始めた。



 でも、付き合って1週間もしないうちに私は彼を疑うように。付き合ってから間もないうちから体の関係を無理やりにでも求めてこようとしてきたし、私とは別のガールフレンドがいるなんていう噂も友達の友達から聞かされて……。



 ただ普段会話している彼はとても優しかった。彼もボクシング部の部活で怪我をしてしまって部活ライフを終えた男子。そんな彼からの温かい言葉はどんなに酷い噂話を耳にしても、偽物じゃないと信じる事にした。



 でも、その信頼はアッサリ崩れ落ちる。



 私が放課後に通りかかった廊下で別の女子とこれでもかというぐらいの熱烈なキスを交わしていたのだ。



 私は怒りよりも悲しみが上まわってしゃがみこむ。



 翌日から彼のメールも電話も拒否するようにして、彼との縁を切る事にした。



「何年ぶりか? もう10年になるか?」

「そうね。このへんに住むようになったの?」

「ああ、イイ仕事をしていて。それなりに稼いでいるよ」

「よかったね。じゃあ。私も今は忙しいから」

「おい」



 彼が私の手をとる。



 私はそのごつい手を払いのけ、彼の頬をぶった。



「おいおい、何をする? 俺はお客様だぞ? 随分と無礼だな」

「あぁ~すいません~すいません~」



 気の抜けた声をだす青山君が介入してきた。それが火に油を注ぐ。



「おい! お前!! 謝るならちゃんと謝れや!!!」



 五味は青山君を殴るかの如くぶった。彼はお菓子がならぶ商品棚をバラバラに崩すようにして倒れる。これは明らかな暴力行為。でも、私が手をだしたから……。



 五味はそのまま倒れた青山君にまたがり、さらに暴力を振るおうとする。



 そこにお客さんがやってきた。



「あ、あの、マルボロじゃなかったみたいだけど、交換可能か?」



 さっき煙草を買ったばかりの猪木君だ。



 彼はこの状況に戸惑いつつも、私の横で尋ねてきた。



 が、その刹那「猪木君、助けて」という私の心の声を聴いたかのように五味をその瞬時に睨みつける。



挿絵(By みてみん)



「おい、テメェ。誰の店をメチャクチャにしてくれている!? 俺の女が持っている店だぞ!? ゴラァ!!! テメェ!! 俺がどこの組から来ているのかを知っているのか!? 共雲会の山崎組じゃい!! どこのモンかいってみぃ!!

 ああ!? 吐け!! 今度ウチらでテメェのお家にサツも連れていくぞ!! オラァ!!!」



 猪木君の怒号は五味を震え上がらせた。



「あの、はい、あの、はい、すいません……」

「ちゃんと謝れゆうとるじゃろうが!!!」

「ごめ、ごめ、ご、ご、ゴミです。私はゴミです……ひっ!?」



 猪木君は懐から拳銃をとりだした。



 まさか青山君が言ったように猪木君は本当にその道の男となったのだろうか?



「ゴメンナサイイイィィィイイ!!!」



 五味は情けない悲鳴をあげ、走り去っていった。



 暫く静寂の空間が残る。



「あ、君、大丈夫か? 鼻血がでているぞ!? 病院にいったほうが!?」

「大丈夫です。多分。鼻血がでやすい体質ですから……」

「猪木君、それは……」

「ああ、たまたまだけど玩具の拳銃で。何なら水鉄砲で」

「え」



 彼は拳銃の形をした水鉄砲から水をプシュッとだしてみせた。



「いや~おっかないよね。俺が偽物のヤクザだと気付かれたら、どうなるものかと思ったよ。たまたま町内会の行事で使う物を持っていたから役にたったものの」



 よくみると彼は冷や汗をかいていた。



「ぷっ……あはは! あははは!!」

「君、本当に大丈夫か? 休んだほうがいいだろう?」



 猪木君は青山君をスタッフルームまで連れてゆき介抱してくれた。幸いな事に、青山君は彼のいうとおり鼻血がでた程度の軽傷で済んだ――



挿絵(By みてみん)



「そうか……そんな事があったのか……」



 店長の鏑木さんが私と青山君の退勤する折に事の顛末を知る。



「しかし何とも面白い話だな。まるでテレビドラマをみているかのようだ」

「冗談はよしてくださいよ。それよりまたアイツが現れたらと思うと……」

「五味って男のことか?」

「はい」

「でも、君が仕事中に君の手をとるなんてセクハラ行為を先にしてきたのだから。君が彼をぶったのは正当防衛だよ。何か厄介事になりそうならば、私のほうから君の護るように手筈をとる。それにしてもその猪木大吾君ってコ、面白いコだなぁ」

「はい……幼馴染で……」

「せっかくの縁だ。彼がこれから始める店に行くのはどうだ? 私も近いうちに御礼を言いたいものだし。何より商売人同士で持ちつ持たれつだからな。はっはっは」

「はぁ……」



 五味はそれから私の働く店に来ることなんてなかった。さらにたまたまあんな事があったからか、青山君は急に早くから出勤するようになり、シャキシャキとした声をだすような店員に様変わりした。



 ただ私は戸惑っていた。



 だって彼は一度私を拒絶しているのだから――



∀・)明日完結予定です。よろしく。ぺこりん☆☆☆彡

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