前話「邂逅」
「いらっしゃいませー!」
私は高校を卒業してから近所のコンビニで働いている。
本当はバレーボール選手を目指して頑張っていたけども、全国大会に進出するほどのバレー部のなかでレギュラーを勝ち取る事はできなかった。それどころか、3年生になった暁には練習中に大怪我をしてしまう。高校を卒業して尚も続けることは叶いそうにもない。そして大学進学も私には家庭の事情があって断念するしかなかった。ずるずるとそのまま私はこの仕事を続けて、この店のチーフにも抜擢された。まぁ~そう言っても、準社員みたいなものでしかないのだけど。
「今日の朝は幸いにもお客さんが少ないな」
バイト社員の赤城さんだ。私がこの店に入店する前からずっと働いている。が、あまり仕事の出来が認められずにずっとその立場でフリーターをしているとのこと。掛け持ちで居酒屋のバイトもしているそうだが、いつも不健康そうにみえる。
「アイツはまだこないのか?」
赤城さんが腕時計をみる。
彼は夜勤シフト明けで私ともう一人の店員が来るのを待っている。
「すいませーん。寝坊しましたー」
バイト生の青山君だ。彼は高校中退からの入店したバイト生でここ1年は遅刻して来る事が常習化している。今日も1時間遅刻してきた。私も赤城さんも彼がそんなことをし始めた時は厳しく怒れば指導も繰り返したものだが、反省なんてとてもしているようにみえなかった。遂にはサジを投げて今に至る。
赤城さんは店のユニフォームを着て出てきた彼を目にするなり、舌打ちをしてスタッフルームに向かった。
しかしこの青山君というコは仕事の動きはよくて、テキパキと何でもこなしてゆく器用なコだ。遅刻することや生返事のような声をだす生意気な姿勢を除いてみれば、赤城さんよりも頼れる事はある。
「小野さん、カープ観戦とかって観にいきます?」
「何よ? 急に?」
「いやぁ~友達からペア観戦チケットを貰ったのですけど、僕はこんなのが好きじゃないっていうか、興味ないっていうか、そもそも一緒にいく人なんていないって感じで」
「あらそう、貰わないでもないけど……」
「じゃあ誰かと行ってくださいよ! お願いします!」
彼はポケットからそのチケットを取りだして私に無理やり手渡した。
「いらっしゃいませ~」
そんなことをするやいなやお客さんが入ってくる。
随分と厳つい格好をしたお客さんだ。
でも、それ以上に私には妙な勘が働いた。
「猪木君?」
「え?」
脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口にだす。
ドンピシャで当たっていたようだ。
「誰ですっけ?」
「あの……中学時代まで一緒だった小野早紀です……」
「え? ああ! 思い出したようなそうでないような」
「人違いだったら、すいません……」
「いや、えっとこの近くでお好み焼き屋を開く予定で。良かったら来てくれないかな?」
「え?」
彼はバッグから何枚も入っているチラシの一枚をやや強引に私へ手渡してきた。それからマルボロの煙草を購入して帰っていく。
「小野さんの知り合いですか?」
「あ……うん……そうみたいね」
「おっかない顏と格好だったなぁ。アレ、絶対どこかの組の人ですよ」
「青山君、偏見はよくないよ。お好み焼き屋を開くって言っていたじゃない」
「へぇ。でも僕は恐くてよう行かないなぁ。小野さんはいかれるのですか?」
「それは……」
また客が入ってくる。
「いらっしゃいませ!」
青山君が気の抜けた挨拶をする前に私が大声で先行した。
「よう、早紀。今はこんなところで働いているのか?」
「愁一」
私は言葉を失う。
今日はとことん妙な日だ。私の目の前に現れたのは私の元カレである五味愁一で――
∀・)何気に劇団になろうフェスの面々が集っています(笑)広島といえば?っていうものも大事にして書いております。次号楽しみに。