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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢

作者: 蒼鷹 和希

小説を書くのがほぼ初めてなので読みづらいかも知れないです。

 小学校の運動場に、午後五時を知らせる音楽が響いた。

 子どもたちがばらばらと帰っていく。

 サッカーをしていた少年らも、帰りはじめた。一番最後に校門を出たのはボールを持った少年だった。その子どもは、家に帰ってからもう一度、好きでもない習い事に出なければならなかった。ため息を吐いて、歩行者用の門を閉める。門のすぐ外で立ち止まり、目の前にある車道を通る車がないか確認したが、渡ろうとしたところでボールをうっかり落としてしまった。

 このボールは少年にとって特別なものだ。誕生日に友達がお金を貯めて買ってくれたのだから。

 少年はボールを溝に落とすまいと追いかけはじめた。

 向こう側の車線の中央あたりでボールに追いつき、少年はボールを抱きしめて立ち上がった。

 そして何気なく振り向き、目を見開いた。その視界には、白い軽自動車しか映らなかった。


 彼女は車の中からぼうっと桜を眺めた。

 桜が舞っている。もうかなりの時間が過ぎた気がするのに。まるで季節が止まったかのようだ。

 ある日、仕事をしていたら突然警察から電話が掛かってきた。彼が交通事故に遭って、病院に運ばれたと言う。急いで駆けつけたけれど、彼の最期には間に合わなかった。

 もうこの世界のどこにも彼の姿を認めることはできない。大好きな彼。とても優しい人だった。

 なぜ彼が交通事故に遭わないといけないの?

 あの車を運転していた人さえいなければ、彼は生きていたのに。

 信号が青に変わった。ゆっくりとアクセルを踏む。

 ふと彼の声を思い出し、涙で視界がぼやけた。

 指示器を出して右折し、小学校の横の道に入った。

 気づけば目の前に、ボールを抱えて振り向いた小学生がいた。

 我に返ってブレーキを思い切り踏んだ。止まれと願いながら目をつぶった。

 その願いも虚しく、決して軽くない重い衝撃が体を揺さぶった。


「不注意はしてはいけないものなのよ。そんな事も分からずに運転していたの?」

 毎日遺族に詫びに行って、怒られて、もう疲れた。

 そうだ。私さえいなければ、少年は生きていたのだから。

 私が、いなければ。

「死んで償おうと思う人もいるみたいだけど、相手はあなたが死んでも、生き返らないからね?」

 そう彼女に忠告する人もいた。しかしその声は、欠片も彼女には届いていなかった。


 翌日、彼女が出勤しないのを訝った同僚が通報し、自宅で血溜まりに倒れた状態の彼女が警察によって発見された。


 綺麗な一面の花畑に、彼女は立っていた。清潔感のある白いワンピースが風になびく。

 彼女はなぜ自分がここにいるのか分からなかった。

 不安げに辺りを見回していたが、やがてやや離れたところに人影を見つけた。あれほど会いたかった、彼だ。

 彼女は表情がぱあっと明るくなり、彼女は駆け出そうとしたが、その時聞こえた冷たい一声に、足が縫い止められたように止まった。

「近づくな」

 彼女から先程の嬉しそうな表情は消え、代わりのように小さな声がこぼれた。

「え……」

「君は罪人だ。人を殺したんだ。俺は二度とお前と居たくない」

 彼女は無言でぽろぽろと涙をこぼし、俯いた。

「二度と近づくな」

 そう言って彼は彼女を睨み、去っていった。

 彼女は崩れ落ちた。


 ハクセキレイの鋭い声がこだました。

 目を開けると、いつもの寝室だった。隣を見ると、いつも通りに彼が眠っている。

「良かった……」

 あれは夢だったのか。それにしても恐ろしい夢だった。こんな夢を見るなんて、よほど疲れていたのだろうか。

 彼女は横を向いて、彼を眺めた。もう二度と失ったりしない。そう思いながら彼に手を伸ばす。

 偶然にも、彼が目を覚ました。反射的に手を引っ込める。

 彼は体を起こした。そして横になったままの彼女を見て、言った。


「君は……。罪人だ」

 彼は微笑んでいる。だが目は笑っていない。

 彼女は慌てて起き上がった。まさか。あれは夢ではなかったのか?

「……、何が、罪なの?」

 だって彼は、生きてここにいる。ならあの事故だって起こっていないはずだ。私が何かしたのだろうか。

「ーー」

 彼の返事に、彼女は顔を覆って俯いた。

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