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ドライ・アップ

 回る、回る。彼女は、乾燥機で翻弄される洗濯物を、まるで自分自身を見るように見つめていた。


「さあ、次は貴方の番ですよ」

「私は、君のような論を展開できない」


 なにせ、私と彼女では、立場がまるっきり違うからだ。


 だが、彼女は「それはわかっています」と心得たように言って、私に期待の眼差しを向ける。私は、渋々話し始めた。


「そもそも、作品の完結には、それだけで意義がある。完結まで行った作品は、作者や製作者に祝福されていると私は考える。未完の美はあるだろう、美しいままで死ぬことも否定しない。だが私は、醜くても終わることこそが美徳だと思う」

「醜くても、ですか」

「受け止める側が思っていることは、作る側が思っていることでもある。作る側とて、自分の作品の読者であり視聴者だからだ」 


 だから、違いは一つしかない。


 乾燥機の洗濯物は、嵐から脱出したようだった。そろそろ、三十分が経つ。


「作る側とて、自分の作品に失望をする。下手をすれば、受け止める側よりも。だが、終わりから目を背けることはできない」


 作品の好きなところを摘んで、というのは、受け止める側の特権であると、私は思う。それが、違いだ。


「それが難儀なところだな」


 結論は出なかった。的外れなことを話してしまった気がする。


 だが、彼女は納得したようだった。


「やっぱり。貴方は一線を超えてしまったんですね」


 そうやって笑い、洗濯物を、バッグの中に入れていく。私はそれを、見ていることしかできなかった。


「お話、楽しかったです先生。さようなら」


 彼女の後ろ姿を見送りながら、私は、はてどこかで会ったことがあるだろうかと頭の中を辿ってみたが、そんな記憶はどこにもなかった。





そんなことを思い出しながら、私は、洗濯物が乾くのを待っていた。あの女は、あの日から姿を現さない。


一線とやらを超えてしまった私に失望してしまったのだろうか。


「まあ、別に良い」


強がりでもなんでもない。私の生活に、あの女は必要ないのだから。

それなのに、このコインランドリーばかり使っている。この近くには、コインランドリーは、他にもあるのに。


私は、また、あの女と会いたいのだ。人に失望されることは不快なことだが、特別、あの女に失望の目を向けられることを、私は嫌悪した。


「待っていたぞ」


物音に、私は確信をもって振り向いた。バッグをパンパンにして、女は苦笑する。


「お前のために、納得できる最終回を持ってきてやった」






自分がまだ読者であるうちに書こうと思ったのですが、明確な一線はこれだけでした……いやでも自分の書いた話めちゃくちゃ面白いと思ってるんで、まだ女の方に戻れるはず。

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