スピン
「これはまあ、私の持論なんですけど」
パイプ椅子に座り、両足を交互に動かして、彼女は言った。コインランドリーで、他人に話しかけるのは阿呆の仕業だ。無視して行かない私も、阿呆の一人であるが。
「貴方が入れた金額は三百円でしたね。だったら、三十分はお話できますね?」
私が聞く前提だ。
これだから、近場のコインランドリーは厭だ。私は悲観的な性質だ。人の入れた金額をいちいち口にする目敏い女に、私の生活圏を知られてしまった。
彼女は、「どこから話しましょうか」と悩んでいたふうだった。
「ああ、実際に見てもらったほうが早いですね」
私は、私の生活圏を人質に取られていた。仕方なく、彼女が座る椅子から、一つ離れた椅子に座る。彼女は不服そうに眉根を寄せたが、すぐに機嫌を直して、持ってきていた小さなバッグから、文庫本を、漫画本を、端末を取り出す。
文庫本には、紐の栞がついていた。
漫画本には、栞はついていないが、彼女はとあるページに指を挟んで見せてくれた。
端末で見ていたであろう動画のシークバーは、最後に行く前に止まっていた。
「私ね、物語の最後を見れないんです」