仕返し計画
「そこまでにしておけ」
地魔法を使って2人の足元を固める。
「ぅおっと」
「わっ」
「場所を考えろ。アカデミーじゃないんだぞ?」
「悪かった」
「謝罪をするなら彼女達にだな」
「申し訳なかった」
ハリアーとサイモンが頭を下げる。
「いいえ。あの、貴族の方ですか?」
「はい。ここの領主となられた方にお仕えする為、男爵位を持っております。持っているだけですが。事情は伺いました。私が居ては不愉快な思いをされるかもしれませんが、ご挨拶だけでも、と参りました。サイモン・パーカーと申します」
「マージョリー・アレミラーチェです」
「サイモンが男爵?」
「デイヴィットも男爵です。デイヴィット・フロストです」
「あっちは無事に兄貴に家督を譲ったか」
「ひと悶着ありましたけどね」
「ひと悶着?」
「兄君が納得しなくて。結局魔法勝負で無事に負けてこちらに来ました」
「無事に負けた?手を抜いたのか?」
「ドゥルーヴ先生が使った手法ですよ。相手の構築する魔法を見抜いてぶつけるって。あれを逆にしたんです」
「ワザと打ち消される魔法を選択したのか」
有効ではあるな。相手に見抜かれなければ。
「お父君にはバレていたようですが。無事にこちらに来られました。ドゥルーヴ先生が来ると知っていたら、デイヴィットも来たがったでしょう。ナイジェル様もです」
「もうアカデミーの講師じゃないんだ。先生はよせ」
「私にとっては先生は先生です」
ハリアーがマージョリーからサインを受けとる。これをしないと依頼完了とならない。
「もうお会いできないのでしょうか?」
「また来る。どこまで回復したかを確かめないとな」
確認といっても触ったりはしない。様子を見に来るだけだ。オリヴィア嬢がいるから心配はないだろうが、1度生きる希望を無くした者は、簡単に死の誘惑に囚われる事がある。
サイモンが帰っていった。急いでいたから、俺達の事をナイジェルに知らせるんだろう。
「マージョリーさん、今度ロクムを持ってきますね」
「ありがとう、エリンさん。あの時酷い事を言ってごめんなさい」
「もう良いって言ったのに」
オリヴィアに伝令鳥の術式を教える。マージョリーが不満そうにしていた。
「どうしてリヴィだけ?」
「マージョリーはまだ身体が回復しきってないだろう?その状態で魔法は使わせられない」
「これって魔法なんですか!?」
オリヴィアが驚いた声をあげる。
「魔法だ。ただの紙が鳥になるなんて、魔導具じゃまだ再現は出来ていない」
「魔法って凄いんですね」
「そちらでは魔法は使わないのか?」
「生活魔法だけですね。こんなすごい魔法は初めてです」
「オリヴィア嬢も魔力はありそうだから、魔法円を覚えれば使えると思うんだが」
「はい、はい。私も覚えたいです」
「ドゥルーヴ様、私も教えて欲しいです」
「良いんじゃないか?美少女3人の魔法教師」
ハリアーがニヤニヤして言う。
「そんな訳にいくか。エリンはともかく後の2人は未成年だぞ」
「エリンちゃんには自宅で手取り足取り教えられるもんな」
「ハリアー?」
表情を消してハリアーを見る。
「分かった分かった。もう揶揄いません」
「今度やったらキャリーにチクってやる」
「ひぇっ。恐ろしい事を言うな」
ハリアーで遊んでいると、伝令鳥が飛んできた。
「ナイジェルだ」
「来いって?」
「指導をしてくれとさ」
「と、いう事は領兵か」
「みたいだな」
返事を返しマージョリー達に別れを告げ、ナイジェルの所に向かう。
「文句も書いてあるな」
ここまでハリアーが運転していたから、今は俺が運転している。
「どうして僕の所に来ないの?って拗ねる子供のようだな」
「口調はともかく、そんな感じだな」
「ナイジェル様って領主様ですよね?良いんですか?」
「あっちが望んだからな。エリンはオーガスタ夫人と話でもしていると良い」
「でも、ドゥルーヴ。オーガスタ夫人はこっちに混ざりそうなんだが」
「あぁ、そうだな」
「えっ?オーガスタ夫人って女性ですよね?ハリアーさんの方って事は、剣って事ですよね?」
「元辺境伯の娘なんだよ。だから小さい頃から手解きを受けていたんだと」
「そうなのですね」
領城の門前に着くと城内から氷礫が飛んできた。即座に打ち消して魔導車を降りる。
「デイヴィット、やるなら城内に入ってからやれ」
「城内に入ってからなら良いんですか?」
デイヴィットが城内から顔を出す。
「城内がメチャクチャになって良いならな」
「それは困ります。こちらへどうぞ」
オートマタがカタカタと動いてきた。これについて来いという事か。今まではこんな物はなかったんだが。
「お人形ですか?」
「オートマタだな。魔法円を刻んで動かしている」
「凄いですね」
エリンが不安そうに俺の服を握った。
「不安か?」
「少し。申し訳ありません」
「不安ならそのままで……、いや手でも握るか?」
「手、ですか?」
ほんのり赤くなった顔が可愛い。
「おーい、俺も居る事を忘れんなよ。特にドゥルーヴ」
前を歩いていたハリアーが振り返らずに言う。
「不安だって言うんだから、安心させてやりたいじゃないか」
「どうやったら好きになるのか分からないって言っていた奴が、自覚したらこれだよ」
領主の執務室に案内された。俺達が来るといつもここに案内される。
「よく来た。ハリアー、ドゥルーヴ。そっちは?」
「エリンだ。俺の将来の伴侶」
「「「「えっ!?」」」」
室内に居た全員が声をあげた。
「全員で驚かなくても」
「将来の伴侶って事は、ドゥルーヴ、結婚するのか?」
「そうだな。いつになるかは分からないが、そう遠くないと思う」
「エリンさん?お話聞かせてくださる?」
「エリンには本性は話してあるぞ」
「ドゥルーヴ先生、酷いですわ」
「見事な淑女の仮面だな」
「アカデミーでさんざん被りましたから。でも、エリンさんと話をしたいのは本当です」
「エリン、どうする?」
「お許しいただけるのなら」
「じゃあ、今回はオーガスタは不参加か?」
「えっあっ、参加しますっ」
「それだとエリンと話す時間が無くなるぞ?」
「それならこうしたらどうかな?オーガスタとエリンさんは訓練場で話をするというのは。ドゥルーヴも外だろう?」
「そうだな」
言うが早いか、デイヴィットとサイモンが執務室を出ていった。用意をしに行ったのだろう。
「今回の事を聞きたいのだが」
ナイジェルの雰囲気が変わる。こういうところは王子だな。
「陛下の所に届いた書状を見せてもらった。マージョリー嬢の事はどちらが本当なんだ?」
「これを見てもらいたい」
マージョリーの乳母の許可を得て、例の映像をコピーした物を見せる。場面が進むにつれ、ナイジェルとオーガスタの表情が歪んだ。
「これは酷いな」
「叩っ斬ってやりたい」
「相手は他国の貴族だ。気持ちは分かるが抑えろ」
「ドゥルーヴ、これを陛下に見せて良いか?」
「あぁ。マージョリー嬢と保護者の許可は貰ってある」
両親ともマージョリーを放っておいたとはいえ、彼の国で受けた扱いは腹に据えかねていたのだろう。簡単に許可をくれた。
「この映像をバラ撒いてやりたいな、あっちの国民に」
「同感。まずはこれを陛下に送る事ね」
「後は政治的な話になる、か」
「噂を流すのはどうかしら?」
「どうやって?」
2人が俺達を見る。
「噂ねぇ。酒場辺りで声高に話しゃ時間はかかるが広がるかな?」
「冒険者なら簡単に入国出来るしな」
「派手にする事だけが仕返しじゃないよな」
「陛下に送って何かされるかしら?」
「どうだろうな。難しいかもしれない。ただ直接じゃなくてもあの国の周辺国にポロリと言う方法もある」
「そうするとどうなるんだ?」
「あの国は周辺国からの信頼が無くなる。公文書に虚偽を記したんだ。言い逃れは出来ない」
「やっぱり貴族は恐ろしいな」




