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フライハイト ~ある魔導師の半生~  作者: 玲琉
イグレシアス辺境領
62/419

仕返し計画

「そこまでにしておけ」


地魔法を使って2人の足元を固める。


「ぅおっと」


「わっ」


「場所を考えろ。アカデミーじゃないんだぞ?」


「悪かった」


「謝罪をするなら彼女達にだな」


「申し訳なかった」


ハリアーとサイモンが頭を下げる。


「いいえ。あの、貴族の方ですか?」


「はい。ここの領主となられた方にお仕えする為、男爵位を持っております。持っているだけですが。事情は伺いました。私が居ては不愉快な思いをされるかもしれませんが、ご挨拶だけでも、と参りました。サイモン・パーカーと申します」


「マージョリー・アレミラーチェです」


「サイモンが男爵?」


「デイヴィットも男爵です。デイヴィット・フロストです」


「あっちは無事に兄貴に家督を譲ったか」


「ひと悶着ありましたけどね」


「ひと悶着?」


「兄君が納得しなくて。結局魔法勝負で()()()()()()こちらに来ました」


「無事に負けた?手を抜いたのか?」


「ドゥルーヴ先生が使った手法ですよ。相手の構築する魔法を見抜いてぶつけるって。あれを逆にしたんです」


「ワザと打ち消される魔法を選択したのか」


有効ではあるな。相手に見抜かれなければ。


「お父君にはバレていたようですが。無事にこちらに来られました。ドゥルーヴ先生が来ると知っていたら、デイヴィットも来たがったでしょう。ナイジェル様もです」


「もうアカデミーの講師じゃないんだ。先生はよせ」


「私にとっては先生は先生です」


ハリアーがマージョリーからサインを受けとる。これをしないと依頼完了とならない。


「もうお会いできないのでしょうか?」


「また来る。どこまで回復したかを確かめないとな」


確認といっても触ったりはしない。様子を見に来るだけだ。オリヴィア嬢がいるから心配はないだろうが、1度生きる希望を無くした者は、簡単に死の誘惑に囚われる事がある。


サイモンが帰っていった。急いでいたから、俺達の事をナイジェルに知らせるんだろう。


「マージョリーさん、今度ロクムを持ってきますね」


「ありがとう、エリンさん。あの時酷い事を言ってごめんなさい」


「もう良いって言ったのに」


オリヴィアに伝令鳥の術式を教える。マージョリーが不満そうにしていた。


「どうしてリヴィだけ?」


「マージョリーはまだ身体が回復しきってないだろう?その状態で魔法は使わせられない」


「これって魔法なんですか!?」


オリヴィアが驚いた声をあげる。


「魔法だ。ただの紙が鳥になるなんて、魔導具じゃまだ再現は出来ていない」


「魔法って凄いんですね」


「そちらでは魔法は使わないのか?」


「生活魔法だけですね。こんなすごい魔法は初めてです」


「オリヴィア嬢も魔力はありそうだから、魔法円を覚えれば使えると思うんだが」


「はい、はい。私も覚えたいです」


「ドゥルーヴ様、私も教えて欲しいです」


「良いんじゃないか?美少女3人の魔法教師」


ハリアーがニヤニヤして言う。


「そんな訳にいくか。エリンはともかく後の2人は未成年だぞ」


「エリンちゃんには自宅で手取り足取り教えられるもんな」


「ハリアー?」


表情を消してハリアーを見る。


「分かった分かった。もう揶揄(からか)いません」


「今度やったらキャリーにチクってやる」


「ひぇっ。恐ろしい事を言うな」


ハリアーで遊んでいると、伝令鳥が飛んできた。


「ナイジェルだ」


「来いって?」


「指導をしてくれとさ」


「と、いう事は領兵か」


「みたいだな」


返事を返しマージョリー達に別れを告げ、ナイジェルの所に向かう。


「文句も書いてあるな」


ここまでハリアーが運転していたから、今は俺が運転している。


「どうして僕の所に来ないの?って拗ねる子供のようだな」


「口調はともかく、そんな感じだな」


「ナイジェル様って領主様ですよね?良いんですか?」


「あっちが望んだからな。エリンはオーガスタ夫人と話でもしていると良い」


「でも、ドゥルーヴ。オーガスタ夫人はこっちに混ざりそうなんだが」


「あぁ、そうだな」


「えっ?オーガスタ夫人って女性ですよね?ハリアーさんの方って事は、剣って事ですよね?」


「元辺境伯の娘なんだよ。だから小さい頃から手解きを受けていたんだと」


「そうなのですね」


領城の門前に着くと城内から氷礫が飛んできた。即座に打ち消(キャンセル)して魔導車を降りる。


「デイヴィット、やるなら城内に入ってからやれ」


「城内に入ってからなら良いんですか?」


デイヴィットが城内から顔を出す。


「城内がメチャクチャになって良いならな」


「それは困ります。こちらへどうぞ」


オートマタ(自動人形)がカタカタと動いてきた。これについて来いという事か。今まではこんな物はなかったんだが。


「お人形ですか?」


オートマタ(自動人形)だな。魔法円を刻んで動かしている」


「凄いですね」


エリンが不安そうに俺の服を握った。


「不安か?」


「少し。申し訳ありません」


「不安ならそのままで……、いや手でも握るか?」


「手、ですか?」


ほんのり赤くなった顔が可愛い。


「おーい、俺も居る事を忘れんなよ。特にドゥルーヴ」


前を歩いていたハリアーが振り返らずに言う。


「不安だって言うんだから、安心させてやりたいじゃないか」


「どうやったら好きになるのか分からないって言っていた奴が、自覚したらこれだよ」


領主の執務室に案内された。俺達が来るといつもここに案内される。


「よく来た。ハリアー、ドゥルーヴ。そっちは?」


「エリンだ。俺の将来の伴侶」


「「「「えっ!?」」」」


室内に居た全員が声をあげた。


「全員で驚かなくても」


「将来の伴侶って事は、ドゥルーヴ、結婚するのか?」


「そうだな。いつになるかは分からないが、そう遠くないと思う」


「エリンさん?お話聞かせてくださる?」


「エリンには本性は話してあるぞ」


「ドゥルーヴ先生、酷いですわ」


「見事な淑女の仮面だな」


「アカデミーでさんざん被りましたから。でも、エリンさんと話をしたいのは本当です」


「エリン、どうする?」


「お許しいただけるのなら」


「じゃあ、今回はオーガスタは不参加か?」


「えっあっ、参加しますっ」


「それだとエリンと話す時間が無くなるぞ?」


「それならこうしたらどうかな?オーガスタとエリンさんは訓練場で話をするというのは。ドゥルーヴも外だろう?」


「そうだな」


言うが早いか、デイヴィットとサイモンが執務室を出ていった。用意をしに行ったのだろう。


「今回の事を聞きたいのだが」


ナイジェルの雰囲気が変わる。こういうところは王子だな。


「陛下の所に届いた書状を見せてもらった。マージョリー嬢の事はどちらが本当なんだ?」


「これを見てもらいたい」


マージョリーの乳母の許可を得て、例の映像をコピーした物を見せる。場面が進むにつれ、ナイジェルとオーガスタの表情が歪んだ。


「これは酷いな」


「叩っ斬ってやりたい」


「相手は他国の貴族だ。気持ちは分かるが抑えろ」


「ドゥルーヴ、これを陛下に見せて良いか?」


「あぁ。マージョリー嬢と保護者の許可は貰ってある」


両親ともマージョリーを放っておいたとはいえ、彼の国で受けた扱いは腹に据えかねていたのだろう。簡単に許可をくれた。


「この映像をバラ撒いてやりたいな、あっちの国民に」


「同感。まずはこれを陛下に送る事ね」


「後は政治的な話になる、か」


「噂を流すのはどうかしら?」


「どうやって?」


2人が俺達を見る。


「噂ねぇ。酒場辺りで声高に話しゃ時間はかかるが広がるかな?」


「冒険者なら簡単に入国出来るしな」


「派手にする事だけが仕返しじゃないよな」


「陛下に送って何かされるかしら?」


「どうだろうな。難しいかもしれない。ただ直接じゃなくてもあの国の周辺国にポロリと言う方法もある」


「そうするとどうなるんだ?」


「あの国は周辺国からの信頼が無くなる。公文書に虚偽を記したんだ。言い逃れは出来ない」


「やっぱり貴族は恐ろしいな」





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