アカデミーの教師達
「ドゥルーヴ、大丈夫か?」
「ドゥルーヴ様、大丈夫ですの?」
「2人共授業は?」
不敬ではあるが、ソファーに寝転んだまま話す。
「今はお昼休みですわ。学長様に許可を頂きまして、様子を見に来ましたの」
「食事も運ぶように手配した」
「悪いな」
「浄化というのは、あんなに疲れるものなのか?」
王子に聞かれた。
「これは光魔法を使い慣れていないからだな。他の属性はよく使うが、光魔法は使わないし、神官じゃないから修行もしていない。だから、集中力が要るし、慣れていないから魔力消費も激しい」
「疲れているだろうに邪魔をして悪かった。ゆっくり休んでくれ」
王子と王女はそれだけ言って帰っていった。
「ちょっと。王族となんて、どこで知り合ったのよ?」
「言っただろう?ハオマを採取に行った時に、第4王子と第3王女に会ったって」
「もしかして、だからなの?ドゥルーヴに講師の話が来たのは」
「さぁな」
行儀が悪いが半身を起こして王子が手配してくれた昼食を頂く。食欲は無いが、食べておいた方が良いだろう。その最中に師匠の伝令鳥が飛んできた。
「ハリアーとキャリーにも話があるってさ」
伝令鳥が手紙へと姿を変える。その手紙を読みながら告げた。
「付いてきたのは早計だったか」
俺の伝令鳥を師匠に飛ばす。すぐに住居を案内してくれた職員が迎えに来た。
「ドゥルーヴ様、大丈夫ですか?」
「あぁ。それより、様って……」
「あれほどの浄化術を見て、尊敬しない者は居りません」
職員に案内されて学長室に行く。
「もう良いのか?」
「はい」
師匠が、ハリアーとキャリーにも講師の話をしていく。俺はソファーに座っていた。いや、座らされていた。グレイス女史の手によって。
「住居はドゥルーヴの隣が空いているな」
「あの廃墟だった家屋ですか?」
顔をあげて師匠に聞く。
「そこだな。ドゥルーヴが綺麗に直したと聞いたが」
「もう少し手を入れたいですね」
「大丈夫なのか?ずいぶん疲れているが」
「ポーションを飲みましたから」
「休んでからにしなさい。講師は10日後からじゃ。よろしく頼む」
「承りました」
3人で学長室を出る。ハリアーが騎士科の様子を見たいと言った為、修練場に行く。
「あ、ハリアーさん」
「サイモン、今から何をするんだ?」
「今から、自主練習です」
「自主練習って教職員は?」
「居ません。お互いに声を掛け合っています」
期待しているんだろうな。全員が期待に満ちた眼をしている。
「ハリアー、見てやったらどうだ?」
「良いか?」
「どうぞ」
ハリアーが剣を見ている間に俺は身体強化を見ていた。騎士科には魔法適正無し判定をされた生徒が多い。
キャリーは普通科の生徒に囲まれていた。調薬師を志望する生徒も一定数居るようだ。
全てを終えて、いったん自宅に帰る。ハリアーも冒険者活動は続けるようだ。その時の拠点とする為、住居の貸出はしない事にした。
冒険者ギルドで住居の管理をしてくれる人を募り、顔合わせをして依頼を締結した。
5日後にアカデミーの住宅に入居する。普通科の生徒が手伝いに来てくれていた。これは俺達が特別という訳では無く、恒例行事であるようだ。
「ありがとう。早くに片付いた」
「いいえ。ドゥルーヴ先生、僕、迷宮近くの救児院出身なんです」
「あの救児院か?」
「はい。ドゥルーヴ先生に魔法を教えてもらった事も、あるんですよ」
「申し訳ない。覚えていなくて」
「仕方がないですよ。当時習っていた人数は多いですから。そういえば、リンは迷惑をかけてませんか?」
「度々脱け出して、シスターに迷惑をかけているな」
「あぁ、やっぱり」
「今はここの寄宿舎か?」
「はい」
アカデミーの寄宿舎は貴族向けの豪華な物と、普通科生徒向けの一般的な物に分かれている。一般的な方は食事こそ出るものの、生徒が掃除などを行う。貴族向けの寄宿舎の方から月に1度掃除は入ってくれるが。
「スゴい本の量ですね。それも難しそうな本ばかり」
「読むなら貸すぞ?写本したものも多いが」
「ドゥルーヴ先生が写したんですか?」
「師匠、学長に貸していただいた物が多いな。書き写すと覚えが早いと言われて、関係の無い物まで書き写させられたけど」
「関係の無い物ですか?」
「何かの物語だったな。子供向けの物が多かった」
話をしながら片付けていく。手伝ってくれた生徒達に礼を言って、帰ってもらった。個人的には礼として幾許か包みたいが、それは禁止されている。
「ハリアー、キャリー、片付いたか?」
「あぁ。手伝ってくれた生徒に感謝だな」
学長から伝令鳥が飛んできた。今から教職員の会議があるらしい。
他の教職員に挨拶をして、教員室の隅で会議を見る。最後に俺達の受け持ちが発表された。
俺は魔導科をもう1人と共に見る。騎士科の方の指導も頼まれた。ハリアーは騎士科と普通科。キャリーは淑女科と魔導科と普通科で薬学を教える。薬学の教師はキャリーと顔見知りだったらしく、再会を喜んでいた。
「ドゥルーヴ先生」
会議が終わって、魔法教師達に声をかけられた。ハリアーとキャリーに先に行っていてもらって向き直る。
「魔法教師専用の部屋があるんです。案内しますよ」
「専用の部屋ですか?」
職員棟の3階に案内される。部屋の中に立派な本棚が設えてあった。
「凄いですね。こんな本まで。これはマーリーン師の『魔法理論と行使』じゃないですか。あっ、トリス教授の『高等魔術の教理』もある」
「ここの本はみんなで集めたんですよ」
「ご自由に読んでいただいて構いません。それと隣が小規模ですが実験室になっています。代々の魔法教師が物理魔法無効、破壊防止の魔法をかけ続けていますから、爆破魔法でも吹き飛ぶことはありません」
爆破魔法でも吹き飛ばないって……。そんなヤバい実験をした教師が居るのか?
蔵書庫には入りきらない、というか、生徒の目に触れさせたくない本も色々とあった。いわゆる禁書というヤツだ。王宮から許可は出ているというが、なんともまぁ。
「あの緻密な結界はご自分で編み出されたんですよね?」
「そうですね」
「魔法式を教えてもらえませんか」
「良いですよ」
元より秘匿する物ではない。元の結界術の魔法円に少しのアレンジを加えた物だ。魔法はこの魔法円を魔力で生み出して行使する。魔法円はエイドスに記憶されているから、いかに最適な魔法円を素早く取り出せるかで魔法行使の優劣が決まる。
「普通の結界術の魔法円?」
「いや、ここが違う。これは衝撃耐性?」
「あれ?この数字、多くないか?」
「幾つか魔法文字が消えているけど」
さすが魔法学の教師。魔法円のアレンジされた部分を次々と見つけていく。
「ドゥルーヴ先生、そういえば学長に聞きましたけど、全属性が使えるって本当ですか?」
「使えますね。得意不得意はありますが」
「得意なのは?」
「風魔法、水魔法、地魔法、火魔法、闇魔法、光魔法の順です。冒険者でしたから、魔物に攻撃出来る魔法は使うのですが、光魔法はあまり使いません」
「火魔法は攻撃の手数が多いですが?」
「素材が傷付いてしまうのですよ。綺麗な方が査定額が上がりますから」
「そういうものですか。解体なんかもやっていらした?」
「もちろんです。アカデミーは14歳になると冒険者登録が出来るでしょう?冒険者ランクの3番目、ブロンズに昇格した際に講習があって、そこで習うんです」
「冒険者ランクですか。不勉強で知らないのですが、ランクはどういう感じなのですか?」
「冒険者ランクは8段階です。ワラク。これはいわゆる見習いですね。街中の手伝いや薬草採取等が主な内容です。次がシャジャラ。スライムやラットの討伐が加わります。ブロンズ。ここから剥ぎ取り行為、いわゆる解体をして、素材を売る事で収入を増やしていきます。ナハス、ザハブ。この辺りが中堅ですね。ファッデ、プラチナム、ミスリル、アダマントが最上位です。ミスリルになると、各国の侯爵と同等だと言われています。アダマントは現在居ません」
「ドゥルーヴ先生は?」
「プラチナムですね」
「ハリアー先生も?」
「パーティー単位でランクですから。個人でもプラチナムですが」
「はへぇ~」
どうやら尊敬されてしまったようだ。