道中
「ドゥルーヴ、話をしておきたい」
部屋を女性と男性で分けて、室内に入るとハリアーから声をかけられた。
「この先の行動なんだが、どういう方針を立てている?」
「あちらに着いたらまずはマーティンを訪ねる」
「すぐに会ってくれるのか?」
「伝令鳥では辺境領に入ったら知らせろと言っていた。領兵には言っておくと」
「それなら、安心か。エリンちゃんはどう説明するんだ?」
「説明?」
「彼女とか、婚約者とかあるだろう?」
「エリンは家族だ。妹みたいなものだが、説明は必要か?」
「お前……。いやいい。分かった。ジェイソンは俺達の使丁員で良いよな?」
「雑用係でいいですよ」
ジェイソンが朗らかに言う。
「雑用以上の事をしてくれているのに?」
「それが私の仕事ですからね」
食事はホテルのレストランで食べる。香辛料をふんだんに使ったブルグルのスープやピリンチのピラウや野菜と肉の焼いた料理が供された。
「旨いな」
「あぁ。ここまでは魔物や魔獣の被害は及んでいないようだな」
「そうだな」
隣国の噂の類いは浸透していないらしく、いたって平和な光景が目につく。着飾った女性、子連れの商人、裕福な旅行客らしき家族連れ。俺達もそんな風に見られているかもしれない。キャリーやエリンは簡易ドレス姿だし、俺達も一応盛装をしている。
「私、浮いていませんか?」
「可愛いわよ?エリンちゃん」
「慣れません。キャリーさんは慣れてらっしゃいますね?」
「そんな事はないわよ」
キャリーが以前所属していた調薬師店は、貴族を顧客に抱えていたらしいからな。その分関係ない所での足の引っ張り合いが凄かったらしい。それが嫌になって辞めたと聞いた。
「いやぁ、勉強になりますねぇ」
「ジェイソン、勉強って?」
「味付けや盛り付けの勉強ですよ。完全再現なんて出来ませんけど、参考にはなります」
「ジェイソンさんってお料理が上手なのよね?教えてもらえないかしら?」
「良いですよ」
賑やかな夕食が終わると、俺達はナルギレルームに行った。エリンはこういう場所が初めてなようで、緊張している。ジェイソンはナルギレを吸わないようで部屋に引き上げていった。
「あの、どうすれば良いんですか?」
「こういう場所は嫌じゃないか?」
「はい。旦那様や父が吸っていましたから」
確かに家で養父さんやデレクが吸っていたが、その時も嫌がってはいなかったな。
「まずはフレーバーを選ぶんだ」
「フレーバー?」
「甘い感じとか、スッキリした感じとか、そういうのでも良いぞ」
「フルーツとかのフレーバーもあるわよ。エリンちゃん、こちらにいらっしゃい。一緒に吸いましょう?」
エリンがキャリーに連れていかれた。
「残念だったな」
「女性は女性同士の方が良いだろう」
「手取り足取り教えたかったんじゃないのか?」
「キャリーが一緒なら安心だ」
「負け惜しみか?」
「言ってろ」
俺とハリアーはボトルにリキュールを入れて貰った。こうするとアルコールも摂取することになるので、酔いが回る。酩酊する事はないが、ほど良い感じに酔う事が出来る。
「ハリアー、ドゥルーヴ。私とエリンちゃんは先に戻っているわね」
「ん?エリンはどうかしたのか?」
「慣れてないからかしら。疲れちゃったみたいなの」
「大丈夫か?エリン」
「はい。大丈夫です」
大丈夫と言ってはいるが、疲れているのが分かる。
「今日はゆっくり休め。後で部屋に行く」
「ドゥルーヴ、部屋にって……」
「魔力の流れを整えるだけだ」
「それなら良いけど」
冒険者がよく使う手段なんだが、魔力の流れを整えると疲れが軽減する。たいていは専門家がいて、そちらに依頼するんだが、急な依頼に対応していない所も多い。特に都市部では知られていない方法だったりする。
「2人にしてやろうか?」
ハリアーがニヤニヤ笑いながら言う。
「そのニヤニヤ笑いを止めろ」
「良い娘じゃないか。お前の事を一途に慕っているのが分かる」
「エリンは良い娘だ。だからこそ俺のような男と一緒になっちゃいけない」
「お前はエリンちゃんをどう思っているんだ?」
「言っただろう?妹みたいなものだと」
「エリンちゃんの隣に他の男性が立っているのを想像してみろ。どう思う?」
他の男性がエリンの隣に立っている?
「多少の不快感はあるな」
「多少、な」
「なんだ?含みのある言い方をするなよ」
「まぁ良いさ。エリンちゃんの所に行ってやるんだろう?俺達も引き上げよう」
いったん部屋に戻ってから、エリンとキャリーの部屋に行く。エリンは横になっていた。俺が入室すると起き上がろうとしてキャリーに止められていた。
「エリン、疲れたか?」
「ドゥルーヴ様。心配をお掛けして申し訳ございません」
「いいや。こちらの配慮が足りなかった。悪かったな」
そっとキャリーが出ていった。
「手を握って良いか?」
「はい。あの、何を?」
「魔力の流れを整える。疲れが残りにくくなるんだ」
「……お願いいたします」
ベッド際の椅子に座り、ベッドに横になったままのエリンの手を握って、魔力をそっと流す。5分程すると、エリンの寝息が聞こえてきた。
「エリンちゃんは?」
部屋に戻るとハリアーとキャリーに聞かれた。
「5分位で寝た。疲れていたようだな」
「結構な強行軍だったからな」
「私達は慣れているけど、エリンちゃんにはちょっと酷だったかもね。ジェイソンさんは?大丈夫?」
「体力は有りますからね。大丈夫ですよ」
キャリーはエリンを1人にしておけないからと、戻っていった。
翌日も魔導車に乗ってイグレシアス辺境領に向かう。途中でダイアウルフの群れに襲われている一団に出会った。
「助けは要るか?!」
「助けてくれ!!」
冒険者の礼儀として声をかけてから救援に入る。たまに助けた後で言い掛かりを付けられるんだよな。俺達と彼らの魔導車に魔獣避けの結界を張る。その間にハリアーが駆けていった。キャリーとエリンとジェイソンが負傷者の救出をしている。
「ハリアー、一発落とす」
「りょーかい。退避する」
戦っていた人が居なくなったのを確認して、ダイアウルフをグルっと土壁で囲んだ後サンダーを落とした。ギャンっと複数の鳴き声が聞こえた。
「もう一発行くぞ」
次は水弾で地面を濡らしてからサンダーを落とす。水を乾かして土壁解除。武器を持った全員が駆け出していく。
「ドゥルーヴ、こっちをお願い」
「分かった。ジェイソン、あちらの状況を確認しておいてくれ」
「分かりました」
負傷者は5名。応急処置はキャリーがやってくれていた。俺の癒術がどこまで通用するか分からないが、やるしかない。
一番酷い怪我人から癒術を掛けていく。キャリーが軽い怪我人にポーションを飲ませていた。
「そっちの具合はどうだ?」
「もう少しだ」
3人目の怪我人を施術し終わった所で、最初に戦っていた男が近寄ってきた。
「ありがとうございました。お礼はどうすれば?」
「いらない。礼が欲しくてやった訳じゃない」
「しかし」
「じゃあ、ポーション代だけいただくわ。それでどう?」
「ポーション代……って、これは中級ポーションの値段じゃ?」
「そうよ。飲ませたのは中級ポーションだもの」
交渉している間に結界を解除する。
「おにーちゃん、ありがとう」
4歳位の女の子にお礼を言われた。
「怪我はなかったか?」
「うん」
「これからどこに向かうんだ?」
「あの、私達はイグレシアス辺境領から避難してきたんです。これからみんな逃げてくると思います」
「イグレシアス辺境領からか。あちらの状況を聞かせてくれないか?」
「魔物や魔獣は例年より多いし強くなっている気がするって聞きました。それに隣国の人が国境を越えてきているんです。その人達を兵士が追いかけてきていて、国境を越えた人達は辺境伯様達が保護しているんですけど、ガリガリに痩せてて、見ていられなくて」
「他に変わった様子は?」
「うーん……」
「ボク、しってる。へーしさんたちはこっきょうをこえるとコウゲキしなくなるんだって。それでもどりたくないっていってるんだって」




