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フライハイト ~ある魔導師の半生~  作者: 玲琉
アカデミー
21/419

日常

ハリアーと合流して、駅に行く。


「ジェイソンって雇った奴だろう?俺の方にはそんな話は無かったぞ?」


「ハリアーの所は新婚家庭のようなものだろう?その辺の都合じゃないか?」


「キャリーが入り浸ってるしな」


「結婚は考えてないのか?」


「俺はしたいんだよ。でも、キャリーが何故か話し合いに応じてくれない」


「何かあるのか?」


「分からない。シェリル先生なら何か知っているかもな」


「聞いてみたらどうだ?」


「そうだな」


アカデミーの最寄り駅に着いた。キャリーがシェリル先生と一緒に迎えに来てくれていた。


「おかえりなさい」


「早かったんだな」


「私はシェリル先生が迎えに来てくれていたの。調薬師仲間に久しぶりに会って、盛り上がっちゃった」


「良かったな。キャリー、これ、土産だ」


ハリアーがキャリーに香石(かおりいし)のペンダントを渡す。


「シェリル先生、使われますか?」


香石(かおりいし)のケースを出して、シェリル先生に渡す。


「ドゥルーヴ先生?」


「ペンダントじゃなくて、ブレスレットですが。送迎のお礼という事で」


「ドゥルーヴ先生って、女たらし?」


「ドゥルーヴは無意識にやっちゃうのよ。本人は感謝の気持ちだけとしても、勘違いしちゃうわよねぇ」


「悪い気はしないわね。ありがたくいただきます」


「無意識にって。そんなつもりはないんだが」


「優しいし、気遣いも出来るし、アカデミーで教えられるくらいだから頭も良いし、高位冒険者だし。お顔も良いのよね。狙っちゃおうかしら」


「幼馴染み君はどうするの?」


「煮え切らないのよね。何も言われてないわ」


「ずいぶん前に告白されてなかった?」


「あの時は断っちゃったのよ。まぁ、数ヶ月に1回くらい手紙で誘われるけど」


「それで、それで?」


「買い物して、食事して、おしまい」


「えぇぇぇぇ」


女性の会話は賑やかだ。その会話を聞いているだけで、道中退屈する事はなかった。


アカデミーに着いて、学長に面会を申し込む。引率した生徒達の評価を手渡すためだ。この評価は学長から全職員に通知される。


「無事に戻ったようじゃの」


「はい。こちらが評価です」


「フムフム。冒険者の視点からというのは今まであったが、双方の視点からというのは初めてじゃの」


「今までに冒険者としての引率は経験がありますので、そちらの評価も入れてみたのですが」


「ハリアーの方も分かりやすく書かれておるな。よく分かった」


合格を頂けたようだ。


「グレイス嬢、こちらお土産です」


グレイス嬢にブレスレットを渡す。無論、シェリル先生に渡した物とはデザインの違う物だ。


「素敵。ドゥルーヴ先生、ありがとうございます」


「ワシには無いのかの?」


「師匠にはこちらを。Cー2ダンジョン(迷宮)名物、貝の燻製です」


あえて師匠呼びでお土産を渡す。


「分かっておるのぉ」


師匠は呑兵衛という訳じゃないが、酒のツマミが好きなんだよな。帰る前に10日後にもう一度香石(こうせき)ダンジョン(迷宮)のあるノートディアの街に行く許可を得ておいた。


ハリアーもそれぞれのお土産を渡して教員用の住宅に帰る。


「ねぇ、ノートディアで何かあったの?」


「何も?」


「ドゥルーヴが惚れられただけだ」


「あぁ、いつものね」


「いつものって、そんな事はないぞ?」


「自覚が無いのよね」


キャリーにため息をつかれた。なんでだ?


「ドゥルーヴは10日後にノートディアに行くんでしょ?ハリアーはどうするの?」


「行かないよ。キャリーと一緒に居る」


「じゃあ、ちょっと相談があるんだけど」


「相談?」


「うん。それからこれを預かったわ」


「あぁ、ギルド長からか。例の話かな?」


「例の話?」


「来てもらっている留守居役の人が居るだろう?」


「あぁ、ナスティおばさん」


「派遣ギルドからの紹介だけど、今、派遣ギルドがゴタゴタしているらしくてさ。その話だと思う」


「ゴタゴタ?」


「家でね」


相変わらず仲が良いことで。イチャつきを見せられるこっちの身にもなってほしい。


ハリアー達と別れて自分の住宅に入る。今日は後は寝るだけなんだが、アレイスト先生用の施錠魔法円解錠の資料でも作っておくか。


アカデミーの蔵書庫に行って、魔導書を選び出す。施錠魔法円を書き写して注釈を書き加えていく。


「ドゥルーヴ先生?」


蔵書庫に籠っていると、司書に声をかけられた。気が付くと辺りが暗くなっている。


「時間ですか?」


「はい。よろしければ貸し出しの手続きを取りますが」


「お願いできますか?」


何冊かの魔導書を借りることにした。夕食を済ませると魔導書を見ながらアレイスト先生用の解錠の資料を書いていく。もっともここに書いている注釈は一般的な物だ。実際の魔法錠を見てみなければ、分からない事は山ほどある。


何年も解錠出来ない魔法錠か。見てみたい。ものすごく興味がある。実際に見ないとどこをいじるのかの適切なアドバイスは出来ないじゃないか。そんな事を考えながら、資料を読み返す。


ここに書いてある事を試せば、解けてしまうかもしれないな。俺が居なくても。アレイスト先生は元魔法省の職員だ。この資料(マニュアル)さえあれば解けるだろう。


と、いうことは、わざわざ俺が赴か(出張ら)なくても良いというわけだ。自分で可能性を潰したってことだな。


アレイスト先生に資料を手渡せたのはそれから10日後の、俺の出発直前だった。


「ありがとうございます。私も明日、帰省するんですよ。これを手に頑張ってみます」


「書いてあるのは基本的な事ですがね。今まで解錠してきた経験も織り込んでおきました。良いですか?焦らないでください。焦ると思わぬ事態を引き起こすことがあります」


「でも、これって分かりやすいですね。授業で使っちゃおうかしら」


「ミレディ先生、解錠は魔法円を読み解くのに有効手段ではありますが、悪用も出来てしまいますから、その辺りは慎重にお願いします」


「分かってますわよ。ドゥルーヴ先生、恋人を迎えに行くって本当ですか?」


「違いますよ。誰から聞いた……。分かりました。キャリーですね」


見送りに来たであろうに、こそこそと逃げようとするキャリーを見つけた。


「あら、違いますよ。シェリル先生です」


「シェリル先生に言ったのはキャリーでしょう。まったく……」


「恋人じゃないんですか?」


「違います。父親との関係改善が済んでいるかどうかの確認です」


「先生って……。誤解されないようにしてくださいね?」


「誤解?」


「なんでもありません。そろそろ時間ですね。貸切車(迎え)が来たようですよ」


頼んでおいた貸切車(迎え)が来てくれたようだ。乗り込んで家に行った後、ノートディアに向かう。


「あっ、ルー、おかえりなさい」


「来ていたのか、リン。ロバートも」


家に帰ると、リンとロバートが居た。ジェイソンが対応していたようだ。


「おかえりなさい、ドゥルーヴさん。これからどちらに?」


「ノートディアに行ってくる」


「あぁ、先のお話の」


「そうだ。そんなに時間はかからないと思う。長くなるようなら伝令鳥を飛ばす」


「分かりました。お気を付けて」


「じゃあ、頼んだ」


「ルー、私も行きたい。連れてって」


「無理だ。アルフが心配していたぞ?リンは他のみんなに迷惑をかけていないかってな」


「アルフ兄ちゃんに会ったの?」


目を輝かせて、ロバートが言う。


「あぁ、アカデミーで勉強を頑張っている。ん?アルフは帰ってきていないのか?」


「うん。やる事があるからって、手紙が来た」


「そうか」


やる事とは、小遣い稼ぎか、資格所持の為の勉強だろう。そんな事を以前に言っていた。今の内に出来るだけ資格を取っておきたいらしい。


「2人共、休暇課題は済ませたのか?」


「うん。大部分はね。しないとシスターが怖いし」


「私はもうちょっと残ってる」


「抜け出してきている場合か?」


「良いもん。長期休暇が終わるまでにやれば良いんだもん」


「早い目にやった方が、遊ぶ時間が増えるぞ?」


「うっ。頑張る」


2人の頭を一撫でして、ノートディアに向かった。

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