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フライハイト ~ある魔導師の半生~  作者: 玲琉
アカデミー
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後始末

配分と報告書の作成の分担を決めて、ギルド長室に行く。


「やぁ。おかえり」


「いらっしゃっていたのですね」


「隣の領の令嬢だって?」


「どちらがかは分かりませんが」


「ん?」


「保護したのはは2人。エヴァンジェリンと名乗った12~13歳の女の子とリリィと名乗った20歳位の女性です」


「僕は確認の為に呼ばれたのかな?」


「貴族様の顔は分かりませんから。生徒はある程度覚えましたけどね」


「ふぅん。今はどこに居るの?」


「ギルドの応接室に。ご案内いたします」


ギルド長と連れ立って、応接室に行く。応対は受付嬢に任せていたのだが、近付くにつれて賑やかな笑い声が聞こえる。ヘンドリック様を連れて、ギルド長は隣の部屋に入った。


「ふぅん。隣の領のリンダール伯爵家の末の姫、エヴァンジェリン嬢だね。末の姫は来年アカデミーに入学予定だよ」


壁の隙間から隣室を見て言う。


「では、名乗りは正直に仰っていたと?」


「エヴァンジェリン嬢は大変活発でね。あの侍女は巻き込まれたのかな?挨拶してこようか」


部屋を出て、ヘンドリック様が隣室に入った。ギルド長が後に続く。俺とハリアーはそのまま部屋に留まった。


「エヴァンジェリン嬢、久しぶりですね」


ヘンドリック様の声が聞こえた。


「お久しぶりです。ジュヴェ侯爵令息様」


「聞いたよ。災難だったね」


(わたくし)は平気なのですが、リリィが。リリィは侍女ですけど、(わたくし)のお友達ですの。(わたくし)が無理に連れ出した所為(せい)で怖い目に遇わせてしまって」


「お友達?」


「えぇ。リリィ、挨拶して」


「ギュンター子爵3女リリエンヌにございます」


「ギュンター子爵の3女?ギュンター子爵家には……。何か訳ありなのかな?」


「申し訳ございません」


「エヴァンジェリン嬢、リンダール家に連絡するよ。良いね?」


「はい。あの、リリィはどうなりますか?」


「侍女の立場だからね。リンダール家の考え次第だけど」


「罰を受けないようにするには?」


「エヴァンジェリン嬢次第だね。でも、何らかの処罰は必要だと思うよ」


「どどどどうしよう」


「エヴァンジェリン嬢、落ち着いて。事情とやらを話してもらえないかな?」


エヴァンジェリン嬢とリリエンヌ嬢が顔を見合わせる。エヴァンジェリン嬢が頷いた。


「私は先程、ギュンター子爵の3女と名乗りました。確かに今の身分はギュンター子爵家の3女です。でも、数年前まで平民でした」


「平民?」


「母が平民でしたので」


「認知されていなかった?」


「はい。引き取られて、その時に初めて子爵の血を引いているって、知らされたんです」


「それで?」


「あ、はい。それで数年前に引き取られて、アカデミーで上位貴族を誑かしてこいって言われて」


「で?誑かしたの?」


「誑かしてません。私は、そんな事は出来ません」


「ごめんね。別にそんな風に見えるとかじゃないんだよ」


「すみません」


涙をこらえたリリエンヌ嬢が顔をあげて話し出す。


「アカデミーで出会った伯爵家の次男様と婚約したんですけど、あちらの伯爵夫人が、やはり私が庶子なのが気に入らなかったみたいで、その、結婚してからかなり……」


「母から聞いたことがあるよ。それがリリエンヌ嬢だったんだね」


「はい。それで、離縁されてしまって」


「リンダール家に行儀見習いに出たの?」


「リンダール伯爵様と奥様が申し出てくださったのです。侍女として勤めてくれないかと。父もリンダール伯爵家には否と言えなかったようで、そのままお勤めする事になりました。半年前にエヴァンジェリン様の侍女にと望まれました」


「うーん、やっぱりエヴァンジェリン嬢次第だね」


「そうですか……」


2人はこの後、ヘンドリック様が手配をした宿に泊まるそうだ。


「2人共、聞いていたよね?」


ヘンドリック様が部屋に入ってきて言った。


「聞こえましたね。何か企んでいますね?」


「人聞きの悪い事を言わないでよね。貴族相手にはやるけど、友人相手にはやらないよ」


貴族相手にはやるのか。貴族は大変だな。


「何か失礼な事、考えてる?」


「考えてませんよ。貴族は大変だなと思っただけです」


遮音の魔法をかけて、その部屋で話す。


「エヴァンジェリン嬢とリリエンヌ嬢の事は、こっちに任せてもらって良いよ。後は、盗賊だって?」


「結構大きな盗賊団ですよ。捕らえられてラッキーでした」


「放っておくと被害が増えるからね」


盗賊団『ヒュドラの牙』の処罰は領軍と自警団に委ねられている。今までの被害も大きいし厳しい処罰を望む。


ヒュドラの売却はブルース達のパーティー『ウォーホースの蹄』が交渉分配を担当してくれるというので、任せる事にした。


明日からアカデミーに復帰する事は、学長に伝令鳥を送ってある。家に着いたらジェイソンが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ」


「ジェイソン、出迎えてくれてありがたいんだが、自分の事もちゃんとやってくれよ?」


「今はドゥルーヴさんのお疲れを癒すのが、自分の仕事です」


「ははっ。ありがとう」


「ドゥルーヴさんも忙しいですねぇ。あぁ、こちらが届いていました」


出資している魔導具店からだ。なになに?


「ジェイソン、ちょっと出てくる」


「帰ってきたばかりなのにですか?」


「今日の夕刻にはアカデミーに戻るから、用事を片付けてくる」


「お気を付けて」


俺が出資している魔導具店『ジュッテムール』は、店主のジュヴタールが大手の魔導具店を追い出された直後に知った。当時勤めていた大手魔導具店は質の良い魔導具を扱っていたが、代替わりした頃から、徐々に品質が下がり値段は上がっていった。冒険者にとって野営の魔導具の質は命に直結する。その時もマジックテントの不具合があって、クレームを入れに行ったが誤魔化しばかりを口にされ、不信感を抱いていた。


街の女将さんの噂話から立ち寄ったのが『ジュッテムール』だ。正直に言って、そこまで期待はしていなかった。だが、ジュヴタールの知識と腕の良さに2回、3回と店を訪れる回数が増えていった。常連となり気のおけない話もするようになって、元の魔導具店の細々とした嫌がらせを知った。そこで常連の上位冒険者数名と『ジュッテムール』に出資し、時には用心棒のような事もして、ジュヴタールを守った。


ジュヴタールはそれに感謝をして、優先的に注文を受けてくれている。俺達も新人冒険者を連れていったりお互いに利用しあっているという訳だ。


「ジュヴタール、出来たのか?」


「ドゥルーヴさん、いらっしゃいませ。はい。出来ました」


今回ジュヴタールに頼んでいたのは、立体的に魔法円を投影出来る記録装置だ。魔法円には積層魔法円もあるから、それを安全に学べるようにと依頼した。実際に見せるのは、どうしても危険を伴う。見せるだけなら起動出来なくて良い。


「頂いた図は、全て記憶させてあります。こちらのレバーの組み合わせで選べます」


「使ってみても?」


「どうぞ」


カチカチといろんな組み合わせを試してみる。


「新しく記憶させたい場合は?」


「こちらのボタンを押して記憶させてください」


「良い仕事だ。貰っていくよ」


「ありがとうございます」


代金を支払って店を出ようとした時、別の魔導具店の技術者が飛び込んできた。


「ジュヴタール、大変だ。ウルツケリが逃亡した」


「ウルツケリが?」


ウルツケリの魔導具店は、ジュヴタールが以前籍を置いていた大手の魔導具店だ。


「技術者達が暴動を起こしている。ここも閉めた方がいい。とばっちりを受けるかもしれない。俺の店もやられた」


「自警団に連絡は?」


俺が聞くと、魔導具師の男が答えた。


「店の者が走りました」


「ジュヴタール、しっかり戸締まりをしろ。ミラン、冒険者ギルドに知らせてくれ」


言いおいてウルツケリの魔導具店に向かう。ひどい有り様だ。窓もドアもめちゃくちゃになっている。


「どうしたんだ?落ち着け」


暴れている男を羽交い締めにする。


「ウルツケリの野郎、俺らに給料も払わずとんずらしやがった。自分だけ逃げたんだ」


「家族がいただろう?」


「あそこで捕まってるよ」


話している内に落ち着いたのか、技術者の男は事情を話してくれた。










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