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フライハイト ~ある魔導師の半生~  作者: 玲琉
アカデミー
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盗賊一家のねぐら

「ブルース、ちょっと良いか?逃げてきていたあの2人の事なんだが」


2人の話を聞かせるとブルースの顔が分かりやすく歪んだ。


「ゴブリンの襲撃か」


「ウィスタミナに話したら、戦力を割いている余裕はないと言われた」


「当然の判断だ」


「このまま知らないフリをって……」


「訳にもいかないよなぁ」


剥ぎ取りを終えた全員に『ヒュドラの牙』の事を話す。全員がウンザリという顔をした。気持ちは分かる。盗賊なんぞゴブリンに喰われても良心は痛まない。だが、ゴブリン共に襲われている()()()が居るかもしれない。しかし確認に行って結果的に盗賊を助けるなんてしたくない。


「気は進まないが、偵察だけ行くか」


「仕方がないな」


偵察隊を結成し、ヒュドラの居た所の後ろに回る。偵察隊といってもほぼ全員だ。後方支援隊は先にアニス村に戻ってもらったが。


少し行った先にポッカリと口を開けた岩場があった。その奥でグギャグギャという音が聞こえる。この特徴的な声はゴブリンだ。斥候のギースがそっと中に入る。ギースには闇魔法の陰追跡をかけてある。陰追跡で俺とは話す事が出来る。思念による会話だが。


「ギースが『ヒュドラの牙』のメンバーを見つけた。影渡りで1人ずつなら送り込めるが、どうする?」


「ゴブリンがどこに居るのか先に探ってもらってくれ」


「了解」


ギースに指示を伝える。しばらくしてギースから思念が届いた。


「ギースからだ。この洞窟の最奥にゴブリン共が居ると。女が捕まっているらしい」


「『ヒュドラの牙』のメンバーなら放っておくんだが、見分けは付かないよな?」


「付かないらしいな」


「ギースにどこかに隠れるように言ってくれ。突入する」


ブルースの指揮で岩場の洞穴に入る。途中に居た喚く盗賊共を無視して……、いや、見張りに何人か残して、ゴブリンの居るだろう最奥に進む。合流したギースから詳しい報告を受けた。最奥の部屋にどうやら隠し部屋があるらしい。ゴブリン共が邪魔で詳しく調査はしていないが、少なくとも隠し扉があると言う。


そっとゴブリン共が居る部屋を覗く。お楽しみの最中らしい。女は声を出す元気もないのか、されるがままになっている。


「あれは『ヒュドラの牙』のボスの女だな」


ジンが言う。ジンは元賞金稼ぎで手配書の顔は、ほぼ全て把握しているらしい。ジンが言うなら間違いはないだろう。


「頼むぜ、ドゥルーヴ」


ブルースの声に魔弾を数十個、浮かび上がらせる。一気に放つと複数のゴブリンが耳障りな悲鳴をあげて倒れた。突入した近接隊がゴブリン共を一気に片付ける。部屋に入って気付いたが、部屋の片隅にゴブリン共が殺したであろう人間の残骸と、死んだゴブリンが積み上げてあった。


「ブルースさん、ここに隠し通路があります」


「探索しろ。十分に気を付けてな」


俺も壁を調べる。1ヶ所違和感のある壁があった。


「どうした?ドゥルーヴ」


ハリアーが聞く。


「この壁、どうも違和感があるんだよ。魔術的に隠されている気がする」


「解けるか?」


「やってみる」


施錠の魔法のようだが、ずいぶん念入りに隠蔽してある。魔力パターンで開閉するタイプか。面倒な。


魔法円の解読をしていると、後ろが騒がしくなった。『ヒュドラの牙』のメンバーを捕縛して連れてきたらしい。


「そっ、そこは奴隷にする為の準備部屋だ」


「なるほどね。他には?」


「そっちは強奪した宝を置いてある」


「あそこには?」


「あそこは……」


「答えろ」


「隣から連れてきた女が」


「隣から?いつだ?」


「昨日……」


隣ということは、隣の領からの誘拐か。魔法円を解いていくと、ガコンと言う音と共に壁がスライドした。


「お疲れさん」


「中に人の気配がする」


「慎重に進もう」


数十m進んだ先に鉄格子の嵌まった部屋があった。12~13歳の女の子と20歳位の女性が居る。


「誰ですか?」


思ったより落ち着いた声で12~13歳の女の子が聞く。見た感じ、貴族のお嬢様だ。年上の女性は侍女か。


「ドゥルーヴという。冒険者だ」


「俺はハリアー」


「ブルースだ」


「ウィスタミナよ」


「エヴァンジェリンと申します」


「すぐに解錠する。もう少し待ってくれ」


解錠に取りかかる。こっちも魔力パターンのタイプだ。入口と同じだった為、すぐに解錠出来た。


「もう大丈夫よ」


ウィスタミナが1人で中に入る。その間に鉄格子の間隔を広げておく。


「こちらの方は?」


「侍女です。リリィ、挨拶して」


「リリィと申します。エヴァンジェリンお嬢様の侍女をしております」


「いつまでもここに居るわけにはいかないのだけど、外はもう夜なのよ」


「そちらの方は、魔導師(ウィザード)なのですか?」


ウィスタミナの肩越しに目が合ったエヴァンジェリンお嬢様に聞かれた。


「そうですね」


「先程の解錠、凄かったです。(わたくし)が何度挑戦しても解けなかったのに」


「お嬢様も魔法を?」


「それなりですわ。あの盗賊に抵抗出来ませんでしたもの」


「相手は大男ばかりでしたからね。抵抗していたら怪我をされたかもしれません」


(わたくし)達、どうなりますの?」


「家に帰れますよ。お送りいたします」


「貴方が送ってくださるの?」


「いいえ。彼女達になると思います」


ウィスタミナを指差すと、何故か盛大にガックリとされた。


魔導師(ウィザード)さんが良かった」


「俺は今、動けないのですよ。彼女達に任せておけば安心です」


「えぇぇ……」


お嬢様としての言葉遣いを頑張っているようだが、所々ボロが出ている。もしかしたら年上の女性の方がお嬢様なのかもしれない。


討伐隊の1人が、ブルースに何事かを告げた。


「移動の準備が出来ました。どうぞ」


2人が部屋を出る。盗賊一家の洞窟を抜けて外に出ると、荷車が2台あった。片方には縛られた盗賊共が詰め込まれている。もう1台の荷車にお嬢様達を乗せた。


「これから森を抜けます。周りを私達が固めますから、安心してください」


ウィスタミナが説明する。


アニス村に着いたらそこで1泊。盗賊共は2人1組にされて、後ろ手に縛って前向きに座らせて、お互いの足を縛ってあった。立とうとすると男同士のキスが待っているというわけか。愉快な事をする。


無事にギルドに戻ってきたのは翌日の夕刻だった。盗賊共はギルドから衛兵に引き渡し、お嬢様達の事をギルド長に説明する。


「ハリアー様、ドゥルーヴ様。あのお貴族様に連絡は取れませんか?」


「あのお貴族様というと、ヘンドリック様か?付き添いだと言い張っていた」


「そうです。この件は貴族の手を借りないと私の手に余ります」


「連絡はしてみますが」


伝令鳥をヘンドリック様に飛ばす。しばらくして()()()()伝令鳥が飛んできた。


「すぐに来るとの事だ」


すぐに、といってもアカデミーからここまでは時間がかかる。ヒュドラ討伐隊の報告書と素材の配分を話し合うことにした。報酬はパーティー毎に配分される。


「ヒュドラは血も内臓も、調薬には貴重な材料なのよね」


キャリーの言葉に俺達は考え込んだ。全長20mはあったヒュドラの血液は何Lになるのか。俺達にはヒュドラの血は必要ない。全てを調薬師協会に売るのか?


「少しキャリーに報酬として渡したらどうだ?」


「しかし、支援部隊には後4人調薬師が居たぞ。彼らも欲しいんじゃないか?」


「内臓はどうする?調薬師に言われて、部位別にしてあるが」


「キャリーちゃん、調薬師の間で何か取り決めはしたの?」


「一応帰りの魔導車(くるま)の中で話したわ。今回の5人の内、2人は独立していないの。それでもやっぱりヒュドラの血液や内臓は貴重なの。適切に保存すれば何年も()つわ。ん~。でも、血液は1人1Lずつ頂ければ十分よ。内臓は見てみないと分からないけど、私は肝臓の1部で良いわ」


「内臓は今回同行した調薬師が好きな物を取って、後は調薬師協会に売ろう。血液も同様。肉は、ギルド売却か?」


「それで良いんじゃないか?」





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