第六話 襲撃
皆さん、おはこんばんにちは!
初心者物書きクラウディです!
今回は、前回の続きです。
それではどうぞ!
「□□□□□□□□□!」
「なんで……、なんで“ハンド”がここに!?」
細井さんの猫、雪子を見つけ出し、さぁ届けようとしたところに怪異“ハンド”が現れた。
巨大な赤黒い粘土で手を作ろうとして、出来上がった失敗作のようなそれは、指のように見える触手を動かし、おそらくこちらを見ている。
どういうことだよ!?
怪異は深夜の山奥とかにしか出現しないんじゃなかったのか!?
驚く俺をよそに、ハンドは掌のように見える触手を振りかぶり攻撃してきた。
「□□□□□□!」
「ぐっ」
なんとかその場から飛び退き、攻撃を回避する。
魔導脈を起動して動きを観察する。
……目測だが、通常の個体より小さく感じた。
まだ生まれたばかりだろうその個体は、動きが鈍いように感じる。
それに、パワーもない。
成体なら、もっと地面がえぐれているはずだ。
「□□□□□□!」
「フシャーッ!」
雪子がハンドに向かって威嚇している。
あいつが見えてんのか!?
怪異ってのは、力が強いほど、猫などの動物に見られやすくなる。
ってことは、
「□□□□□□!」
「やっぱり、甲殻持ちか!」
ハンドが咆哮を上げるのと同時に触手から、灰色の甲殻が現れた。
マズい。
非常にマズい。
怪異ってのは、魔力によって生きている。
だから、魔力の少ない太陽の出てる時間帯は行動せず、月の出る夜になってから動き出す。
たまに日中に動き出すやつがいるが、魔力が霧散して勝手に死ぬ。
しかし、ハンドは主に肉体を用いての、物理攻撃がメインだ。
魔法型の怪異よりも燃費がいい。
そして、あいつは魔力がみなぎっている。
だから、自然消滅は考えに入れられない。
「□□□□□□!」
「うおっと!オラァッ!」
殴りかかってきたハンドを躱し、その隙に、触手の大本である“コア”を殴りつける。
しかし、周りの甲殻によってひびすら入らなかった。
でも、硬い甲殻を壊すことができたのなら、コアだって壊せるはず。
「吹っ飛べ!」
「□□□□□□!?」
触手部分の、甲殻がついていない場所を蹴り上げる。
掛け声の通りに吹っ飛ばすことはできなかったが、傷ができて、そこから粒子状の魔力がこぼれだす。
これなら!
「オラオラオラオラァ!」
「□□□□□□!?」
傷ができたことに驚いた様子のハンドに、連続して拳を叩きこみ隙を作りだす。
コアの防御が手薄になった瞬間を狙って、渾身の力を込めて拳を突き出す。
「オラァッ!」
「□□□□□□!?」
拳がコアを直撃し、破壊される。
その瞬間、宙に浮いていたハンドが地面に落ち、しばらくのたうち回った後、黒いチリとなって消えた。
「ふぅ……、危なかった……」
「ニャウッ!」
「ん?どうし――――――ガッ!」
ハンドを倒したと思ったら、突然何かに全身をつかまれる。
その衝撃で抱えていた雪子を手放してしまう。
クッソ油断した!
そのまま持ち上げられて地面から足が離れてしまう。
硬い感触と気色の悪い肌触り。
そして、首だけ動かして見えた範囲で判断する。
こいつは、もう一体のハンドだ。とわかった。
「グッ、ガァッ!」
掴まれた全身に圧力がかかる。
骨が軋む音と、強い圧迫感によって、肺の中の空気が押し出されてゆく。
息を吸おうとしても、抑え込まれてるせいで、うまくできない。
「□□□□□□!」
(やっぱり“融合体”だったか!)
どこからともなく、鎧を着こんだ上半身だけのマネキンみたいなやつが現れた。
だがそんなことを考えてる暇がないほど、俺は絶体絶命の状態から抜け出せてない。
「□□□□□□!」
(こいつ、なめやがって!)
手の中で必死にもがいている俺を見て、理解しているのか、笑ったような鳴き声を出している。
考えろ……、考えろ。
どうすれば生き残れるのか。
この拘束を破れるほどの力は残っていない。
はっきり言って、詰んでるだろう。
(だめだ、いしきがもうろうとして)
まるで蟻をつぶす子供のように、笑ったそいつはとどめを刺すために、さらに力を加えてくる。
(おれ、しぬのか?)
(こんなやつにころされて?)
一瞬、体に熱がともる。
(母ちゃんと父ちゃんに恩を返し切れていないのに?)
意識が戻ってくる。
(光との約束も果たせずに?)
怒りが湧いてくる。
(楓達とも、まだ一緒に居たいのに?)
その時、何かが爆発した。
「ふざけんな」
燃えるような激情とともに、抵抗する。
「□□□□□□!?」
「なんで、俺がこんな奴に、今!殺されなきゃいけねぇんだ!」
「こんな、人の死を嘲笑うような奴によぉ!」
心の奥底が溶岩みたいに燃える。
体に力がみなぎる。
笑ってたこいつも、死にかけだった餌が、突然自分を上回る力を出してきたのに驚いて、慌てて力を籠めだした。
だけど、もうおせぇよ。
「グッ、ッツ、オォラァッ!」
「□□□□□□!?」
拘束から抜け出して、すぐさま顔のように見える場所に、荒々しく拳を叩きこむ。
砕けた甲殻が、周りに飛び散り、融合体もシャッターの閉まった店に突っ込んでいった。
その様子を見て、俺はすがすがしい気分になった。
出来ないことが出来るようになった時みたいな気分だ。
「へっ…、この俺をなめるからそうなんだよ!」
「□□□□□□!?」
さっきの一発が効いたのか、融合体は未だ動けずにいた。
ならもう一発―――――――
『下がれ』
「!?」
突然耳元で囁かれた、聞き覚えのある声がした。
その指示に従い、跳びかかろうとした体が飛び退く。
すると、どこからともなく紙切れが飛んできて、融合体の周りを囲うようにして、浮遊しだした。
そして、紙切れから透明な壁が、球状に展開される。
――――次の瞬間。
俺の横顔スレスレを、高速のナニカが通過し、髪を数本持っていきながら、透明な壁を通過して、融合体に突き刺さり、
透明な壁の中で爆発した。
煌々とした炎が、透明な壁の中で渦巻き、融合体を焼き殺していく。
金属を擦り合わせるような断末魔を上げる融合体。
それを見てしまった俺は、
「ヒェッ……」
小さくかすれたような声が漏れた。
やべぇよやべぇよ。
もし、あのまま警告を無視して突っ込んでたら、あいつと一緒にミンチからのハンバーグになるところだったぞ……。
昂っていた頭が、いきなり冷水をぶっかけられたみたいに、一気に冷えていく。
というかあのコンボは!
「優慈」
「ヒッ!」
背後から、幽鬼のように冷え冷えとした声が聞こえて、思わずかみ殺したような悲鳴が出る。
振り向くとそこには、楓が立っていた。
よく見る私服に、その手には大きな弓が握られている。
てことは、さっき俺のすぐそばを通過したのは、その大弓で放たれた矢だということがわかった。
しかし、肝心の楓の表情が逆光によってわからない。
ただ、この気配だけでどう思っているかわかる。
ガチギレだ。
この上なく、ガチでキレてらっしゃる。
即座に、正座をして背筋を伸ばす。
「ねぇ、優慈」
「ハイッ!何でしょうか楓様!」
思わず様付けで呼んでしまう。
「私が怒っている理由、わかる?」
小首を傾げてこちらに質問してきた。
楓みたいな美少女がこんな仕草ををしていたら、大半の男子はイチコロだろう。
だけど、今の俺が感じるのは大魔王のような怒気だけだ。
内心、蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのかな、と半ば現実逃避のような気持ちで聞いている。
だけど、答えを返さなければ、次の瞬間、処されてもおかしくないということは理解できた。
「いえ!分かりません!」
「……そっか、わからないか……。フフッ」
小さくお淑やかに笑った楓からさらに怒気が放出される。
もう、背中からは冷や汗がだらだらと流れている。
やっべ、地雷踏んだ。
「あ、あのぉ、どうしたんでせうか楓様?」
「フフッ、いやぁ、すごいおかしくってさぁ、笑うしかないんだよ」
「そ、そうですか……。ア、アハハ……」
「フフフッ、そうだね、本当におかしいよね。こんなに暴れちゃってさぁ」
周りの状況は、地面が割れ、店が物理的につぶれている。
前者はハンドがやったけど、後者は俺だ。
今更、楓の顔が見える。
顔は笑っていても、目は笑っていなかった。
「…………」
「私達に、助けを呼んだりすればよかったのに、なんでかなぁ?」
そう問われて、ない頭を捻って答えを返す。
「ひ、被害が広がる前に倒しておこうと思いまして……」
「それで油断して、捕まっちゃってぇ、死にかけてぇ、抜け出したと思ったらぁ、今度は建物を壊す……。被害、広げちゃってるよねぇ」
意味がなかったみたいだ。
よし、もうあきらめよう。
「は、はい。その通りでございます」
「「……………………」」
「何か言いたいことは?」
「優慈は滅びぬ!何度でも――――」
鳩尾に異能で強化された鉄拳がめり込む。
薄れていく意識の中、あることを思い出した。
あれ、前に、楓が自分で食べるために買ってきた、期間限定で一日に数個しか販売されていないっていうスイーツを、知らずに食って、それを見られた時の顔だ。
と。
――――――――
「……」
その様子を見ている人影がいた。
「……実験失敗。今回の記録を『サンプルとして持ち帰る』に目標を変更。帰還します」
その人影は無感情に―――まるで機械のように呟くと、踵を返して、この場から離れる。
「空間転移システム起動。座標指定・研究所。魔力重点完了」
「空間跳躍」
その人影が更に呟くと、光の粒子のような何かが漂ったと思えば、発光とともに姿を消した。
誰もいたことに気付かぬまま。
いかがでしたか?
怪異と呼ばれる怪物。
そして、最後に不穏な人物を登場させました。
今回はここまでにしておきます。
それでは、感想・評価をよろしくお願いします!