第五話 異変
皆さん、おはこんばんにちは!
初心者物書きクラウディです!
突然タイトルを変えてしまい、申し訳ありません!
一度は良いなと思ったタイトルですが、「異能奇譚」の部分が他作品と被ってしまっていたので「これじゃだめだ」と思い変えました。
今回は、主人公の周りに住む人たちが登場します。
それではどうぞ!
ここは、花田市郊外の住宅街に属する河川敷。
ぽつんと一人、そこに俺は座っていた。
一応、今は私服を着ている。
あの後、先生の治療を受けて怪我が治った俺は、特に何事もなく神祇省が運営している医療施設から出た。
んで、終わったから何をしようかなとか考えていたけど、財布の中身はすっからかんで、楓たちもそれぞれの用事があると言って別れたばっかりだから声もかけづらいし、もぉ、どうしたらいいか……。
そんなこんなで、十分ぐらい前からこうやって、河川敷の芝生に座り、ビルの谷間に沈んでいく夕日を眺めているってわけだ。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
また先輩に勝てなかった……。
何度やっても今日みたいにクリーンヒットが入ったことはない。
速すぎるんだよ先輩は。
ふと先輩のことを考えてみる。
先輩は神祇省の中でも、相当なお人よしだと思う。
困っている人がいれば、その足ですぐさま駆けつけて助け出す。
今日の特訓だって、仕事が詰まっていたのを、休憩時間をつぶしてまで付き合ってくれたんだ。
『特訓に付き合ってくれだって?おういいぞ。ん?今?休憩中だけど、それがどうした?…………さすがに時間を削るのは気が引ける?そんなこと気にすんな。俺としちゃ、誰かのためは俺のため。助けられるんなら助ける。これが俺のモットーだ。安心しろ。仕事の方は超特急で終わらせるから、な?それでいいだろ?』
……イケメンってあの人みたいなことを言うんだな……。
俺も、いつかはあの人みたいな漢になれたらいいけどなぁ……。
んじゃ、次は先生か。
先生は……、いつも通りだったな。
ってか本当に、ひび入ってたのかな?
まぁ、あってもなくてもそれを秒で治る薬を作るあの人は大分天才だけど。
……本当に自重するよな?
「おっと、そろそろ帰るか」
遠くから五時を知らせるチャイムが鳴っている。
そろそろ帰ろうとしたとき、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。
「おーい!ゆうじ兄ちゃーん!」
「ん?」
そこには、近所に住むガキンチョ達が、泥がそこかしこに付いた服を着て、こちらに手を振って走ってきている。
その手には、野球のバットにグローブを持っていた。
なるほど、野球の帰りか。
「おー、ガキンチョ共、野球の帰りか?」
「そうだよ!ゆうじ兄ちゃんは?」
「俺か?俺はな……」
「あ、わかった!ひかり姉ちゃんとケンカしたんでしょ!」
「おい、人には言っちゃいけないことがあるんだぞ」
「ぎゃーっ!」
「あー、ケンちゃんのバカ。ゆうじ兄ちゃんにはそれは“タブー”って言われてたじゃん」
「あ、あれはっ!まさしくアイアンクロ―!」
「知ってるのかリュウちゃん!」
失礼なことを言ったガキンチョ、“ケン”の頭をつかんで持ち上げる。
それを見て、周りのやつはケンに白い眼を向けていた。
二人ほどなんかアイアンクロ―について話し合ってるけど。
そもそも、俺と光がケンカとかするわけあるかっ!
まったく……。
こいつらは俺が小学生のころからよく遊んでいてやってるやつらで、今でも土日とかには、野球とかサッカーをして遊んでいる。
初対面の時には、親御さんの後ろに隠れて近寄ってきたりはしなかったのに、中学生のころあたりには走って飛びついてきたりと大分遠慮がなくなった。
……いやほんと、少しくらいは遠慮してほしいんだけどな。
「あっ、そうだ!ゆうじ兄ちゃん!」
「ん?なんだ?」
ケンをアイアンクロ―の刑から解放したとたん、ガキンチョ達が腕にぶら下がってきたり、背中に乗ってきたりしてくる。
おい、あんまり抱き着くな。
泥がつくだろうが。
しばらくじゃれていると、ガキンチョ達の一人、確か“次郎”が声をかけてきた。
「今度の日曜日、いっしょに遊ぼうぜ!」
「日曜日にか?」
次郎から、日曜日に遊べないかという提案をされる。
日曜は確か……、任務は無し。
遊べるっちゃ遊べるけど、正直言って休みたい。
今日、先輩と戦って自分が未熟だということが分かったから、休みはトレーニングの日にしたいんだよなぁ……。
でもなぁ……、こいつらと遊んでいるだけでもいい特訓になりそうだしなぁ……。
迷った挙句、とりあえず保留の返事を返そうと思った。
「あー、気が向いたらな?」
「えーー、絶対だぜ、絶対!」
「……ふーー、わかったよ日曜日な?」
「うん!」
結局、押し切られてやると言ってしまった。
はぁ……、俺も先輩のこと、お人よしって言えないな。
予定も追加されたことだし、そろそろ帰ろうとするか。
「んじゃ、俺もそろそろ帰るか。じゃあな、ガキンチョ共」
「「「「「バイバイゆうじ兄ちゃん!」」」」」
ガキンチョ達と別れて帰路につく。
ちょっと、話過ぎたか?
俺の家は、基本的に門限がない。
異能力者なんて言う、副業をやっているからだ。
このことは、一年前に異能のことがバレて以降、続いている。
って、考えている暇はなかった。
門限はなくとも、遅かったら光が拗ねるかもしれないから走って帰る。
住宅街を走り抜けていく最中、見知った人に声をかけられた。
「おー、優慈じゃねぇか。ちょっと来てくれ」
この人は、鈴木のおっちゃん。
住宅街の一角で、弁当屋を営んでいる普通のおっちゃんだ。
店の評判は、人当たりのいい奥さんと、笑顔の素敵な店主って感じに知れ渡っている。
そんな人が壁に手をつきながら声をかけてきた。
「どうしたの、おっちゃん。俺急いでんだけど」
「おっと、すまねぇな。でもちょっと聞いてくれよ。」
深刻そうなわけではなく、おそらくご近所トラブルか何かだろうと思って話を聞く。
「さっきよ、細井ちゃんが飼ってる猫がいなくなったって相談してきてな、多分近くにいるだろうと思うから探してきてくんねぇか?」
「まぁ、そのぐらいなら。ってか、おっちゃんはいかねぇのかよ。」
「そうしたいんだがなぁ。さっき荷物運んでたらよ、ぎっくり腰が来て……」
おぅ……。
それは仕方ねぇか。
「体大事にしとけよ、おっちゃん。おっちゃんの作る弁当美味いんだから」
「おう。今度うちに来たら、安くしといてやるからな。そんじゃ頼んだぞぉ」
おっちゃんに見送られ俺は、走り出す。
えっと、細井さんの猫は確か、白猫だった。
さすがに種類までは覚えていないけど。
ちょっと細井さんのところまで走るか。
――――――――
十分ぐらい時間をかけて細井さん家についた。
相変わらずのでっかい豪邸である。
その家の扉の前で、五十代ぐらいの女性が立っている。
あれが細井さんだ。
「すいませーん!」
「あら、優慈君じゃない。どうしたの?」
優しい声で返事をした細井さんは、少しばかり不安そうな顔をしている。
「鈴木のおっちゃんに細井さんの猫を探してきてほしいって、頼まれたんですけど」
「あぁ、鈴木君から……話を聞いてくれる?」
そう言って、細井さんは話し始めた。
…………………………。
……なるほど。
午前中に喚起のため窓を開けたらそこから逃げてしまったと……。
「分かりました。必ず見つけ出します!それでは!」
「お願いね……」
細井さんに別れの挨拶をして走り出す。
それと、細井さんが飼っていた猫について思い出したことがある。
年齢は十歳で、名前は雪子。
結構な歳だからそれほど遠くには行ってないだろう。
「なら……」
路地裏に入って異能を起動する。
なんか今日、異能使ってばっかだな。
使うのは、肉体の強化でも五感の強化でも、ましてや炎の放出でもない。
「スゥーーッ…、フゥーーッ」
目を閉じ、深呼吸の後、集中する。
すると、瞼の裏に光る靄のようなものが見える。
そこからさらに、集中すると頭の中に、周囲の地形が浮かび上がって、そこかしこに大小様々な光る靄が映し出される。
「……見つけた!」
小さく弱ってる靄を見つけ、それがいるであろう場所まで走る。
これは、俺の師匠から教えてもらった技術の一つで、魔力と気配を探知できる技だ。
だけど、俺が未熟な所為か、立ち止まって集中しないとできないから、使い勝手はよくないけどな。
師匠はこれを、ほぼ常に維持し続けられるから、道のりはかなり遠い。
「ニャーオ……」
「やっと見つけたぞ。ご主人様を困らせるなんて悪い子だ」
雪子がいたのは無人の商店街跡地だった。
ここは、半世紀前は人でにぎわっていたらしいけど、今はもう廃れてしまっていて、周りの店はシャッターで固く閉じられている。
時折吹く風が、錆びついたシャッターを悲しく鳴らしていた。
「よしさっさと送り届けて帰ろ――――!?」
少しばかり不気味な気配を漂わせている商店街から雪子を抱えて離れようとした途端。
全身を殺気で包まれて咄嗟にその場から飛び退いた。
次の瞬間。
――――赤黒い塊によって、先ほどまで立っていた場所が粉砕された。
「うぉっと!?」
あまりの勢いに土煙が沸き起こり視界がふさがれる。
そして飛んでくる瓦礫から、雪子を守るように背を向ける。
小石が当たったりしたが何とか無事だ。
しばらくして、土煙が収まるとそこには、
「□□□□□□□□□!」
「なんで…、なんで“ハンド”がここに!?」
巨大な赤黒い粘土を無理やり手の形にしたような怪物が宙に浮いていた。
いかがでしたか?
幸福を招く招き猫のモデルになったといわれる白猫を探しに来たのに、怪物に襲われる主人公は不幸だと思います。
今回はここまでにしておきます。
それでは、感想・評価をよろしくお願いします!