第四話 先輩
皆さん、おはこんばんにちは!
初心者物書きクラウディです!
今回は主人公の先輩たちが登場します。
それではどうぞ!
「グッ、ゲホッゲホッ」
胸に強い痛みが走ったことで、思わずせき込んでしまう。
俺は今、神祇省のとある施設にいる。
理由はもちろん、朝瞑想していた時に考えていたこと、特訓だ。
「ッ」
仰向けになっていた体を起こそうとするが、視界がぶれたかと思えば、支えていた腕から力が抜けて地面に倒れ伏してしまう。
それでもなんとか時間をかけて立ち上がり、周りを見渡す。
黒い岩に挟まれた、おそらく道だと思われる場所に俺は立っている。
空は黒い雲に覆われ、常に黒いチリのようなものが舞っていた。
そして、視線の先に黒い影が立っている。
息を整えて、その影を注視した。
次の瞬間。
――――視界に黒い棒のようなものが入り込んだ。
頭で理解するよりも先に、肉体が本能に従って攻撃を防ぐために凄まじい速度で動いた。
「ガッ!?」
腕を割り込ませ、さらに全力で強化しても受け止めることはできずに弾き飛ばされ、十数メートル転がり続けてやっと止まる。
その衝撃による痛みによって、幸か不幸か意識が完全に回復した。
「ッ!」
素早く立ち上がってさっきまでいた場所を見る。
攻撃を食らう前よりもはっきりと見えるその影は、人の形をしていた。
そして理解する。
俺は蹴り飛ばされたんだ、と。
その人影は、何度かその場で跳ねている、そう思った瞬間。
こちらに急接近していた。
いくら超人の力を持っている俺でもあそこまでの速度は出せない。
さっきも、あの速度で蹴り飛ばされたんだと言うことを、言外に伝えてくる。
しかし、あの速度とこの距離なら――――!
「オラァッ!」
「シッ!」
相手の掛け声とともに放たれた蹴りと、俺の拳が衝突して互いにはじかれる。
いって……。
それでも衝撃が強すぎて腕から変な音が聞こえた気がした。
軽く振って調子を確かめる。
少しばかりの痛みとともにまだ戦えると自分に教えてくれた。
さすがに折れちゃいないよな?
もし折れでもしたら、先生が怖いからな。
……やっぱ強めにかけとこ。
今度はどんな薬という名のナニカ実験台にされるかわかったもんじゃねぇ……
いくら何でも黒く濁ってるは、ドロドロしてるっていうか、見るからにヤバそうな物体を無理やりねじ込んできて、怪しい笑みを浮かべながら体調を聞いてくるんだよ。
『これは、従来の回復薬を改良したものだ。……ただし、まだ誰にも投与したことがないんだよ。だから副作用がどれほどのものか分かっていないが、……まぁ、発展には犠牲がつきものだ。安心してグイッと逝ってくれたまえ』
『全身縛られた状態でどう安心しろと!』
……ダメだ。
それだけは絶対にダメだ。
あれをさらに改良とか、今度こそあの世に逝くことになる。
「おい、目ぇ据わってるし体震えてるけど、やめるか?」
「大丈夫です。続けられますんで気にしないでください“先輩”」
そう言って、心配してきたのは、今特訓の相手をしてもらっていて、他にも異能関係で何かと助けてもらっている“彼方翔”先輩だ。
ショートウルフの黒髪。
鋭い目つき。
俺を超える身長。
長袖のインナー、袖の短いジャケットにショートパンツといった、黒で統一された、特注の神祇省隊服。
そして、金属で作られたブーツを履いた男性だ。
考え事を一旦やめて、今度こそ構えをとる。
こちらが構えをとったのを見て先輩は軽い跳躍を繰り返し始めた。
先輩の能力は分からないが、あれは加速の前準備だということは分かる。
……のどが渇く。
時間にして、三十秒と掛かったわけではないのに。
……正直言って、勝ち目がない。
理由としては、圧倒的なまでの速さの差。
それからくり出される音速を超えた蹴りは、もろに食らえば致命傷は免れない。
異能力者には、それぞれ得意・不得意が存在する。
例えば、俺と楓ならば魔力放出性と魔力操作性に差がある。
俺は、掌から魔力を放出することで宙に浮いたりできるが、魔力をまっすぐにしか飛ばせない。
楓はその逆で、魔力を放出することで空は飛べないが、体の魔力を操作することで自由自在に空を飛びまわったりできる。
「こねぇのか?だったらこっちから行くぞっ!」
「ッ!」
考え込みすぎたっ!
一気に体を縮めた先輩はこっちに突っ込んでくる。
先輩は異能力者全体で見ても、トップクラス足の速さだ。
もう距離を詰められてしまった。
……ハハッ。
速すぎて乾いた笑いしか出てこない。
だけど、やられっ放しは性に合わねぇ!
「オラァッ!」
「フンッ!」
「っと、ハァッ!」
「シッ!」
加速の付いたボレーキックを防御してはじき返す。
続けざまに放たれた回し蹴りを拳を打ち込んで相殺させる。
痺れの残る腕を振って、痛みをごまかし今度はこちらから拳を振るう。
だが、簡単に回避されてしまう。
「ソラソラソラァ!」
今の立った一瞬の攻防に肝を冷やした俺のことなどお構いなしに、先輩は攻撃の手を緩めず、連続して蹴りを叩きこんできた。
一発一発を紙一重に避ける俺はある作戦に出た。
「おぉりゃぁぁ!」
「なっ!」
機関銃のように放たれる蹴りを前にして、俺は懐に潜り込み、足をつかんで投げ飛ばした。
このままいけば、壁に当たり隙ができるそう思った。
しかし、先輩は空中で体勢を整えると、壁に着地し、こちらに向かって跳躍し、距離を詰めてきた。
普通なら壁に直撃してるだろうに身体能力お化けめ!
「オラァッ!」
「ぐぁっ!」
こちらに飛んでくる最中、さらに空中で体勢をかえて、今度は矢のような体勢になり、体重の乗った蹴りを繰り出してきた。
追撃をしようとしていた俺は、防御も回避もできずに直撃してしまった。
その勢いのまま弾き飛ばされ反対側の壁にたたきつけられてしまう。
マズい!
そう思っても体は動いてくれない。
もう体は限界だ。
先輩の蹴りが飛んできて――――
――――――――
「ここは……、っ!……いってぇ」
目を覚ますと俺はベッドの上で横になっていた。
だけど家にある木製のベッドと違い、保健室にあるようなパイプベッドだ。
それと、この場所は知っている場所で、よく通っているからか安心感すら感じる。
「ん、起きたか」
安心できなくなる人が現れた。
スラっとした体に、しわの付いたTシャツの上からよれよれの白衣を羽織り、ジーンズを穿いている。
腰まで届く長髪は、手入れがされていないのか、所々跳ねていてずぼらな性格がうかがえる。
目の下にはうっすらとだが隈が見え、目に光がなく、ジト目と言われるような目つきも相まって、奇麗なはずなのにどこか残念さを感じられる。
肌色も少しばかり悪く、ここ最近満足に食事がとれていないのか少しやせているように見えた。
「……」
「そう警戒しないでくれたまえ。まだ何もしていないだろう」
「“まだ”ってなんですか、“まだ”って。今からやるつもりだったんですか」
「ん?まぁその予定だが?」
「何『当たり前だろう。何を言ってるんだね君は』みたいな顔してるんですか。逃げますよ」
「それはやめてくれたまえ。患者に逃げられてしまえば上に呼び出されてしまうのでね」
この人は、異能力者が数多く所属している神祇省の中でも、特に少ない治療系の異能の持ち主であり、戦闘などで負傷した人を自分が開発した薬の実験台にしていることを繰り返している所為か、悪い意味で有名な“三上司”先生だ。
「君はここに来る前に何をしていたか覚えているかい?」
「……先輩と組み手やってて、最後に蹴りを食らったところまでは覚えています」
「ん、報告と一致しているね。体はどうだい?」
「胸と腕に痛みが、それと腕の方には少し痺れがあります」
「……うむ、検査結果に異常はなさそうだね。それにしても君、少しばかり無茶をしすぎじゃないのかね?昨日の任務の後、こちらに来ていないそうだが」
……?
「どういうことですか?」
「なんだ、気づいてなかったのか。腕の方にひびが入っていたよ」
「なっ!?ッ……、いってぇ……」
「ほらほら突然動かすんじゃない。まだ完全には治していないのだから」
調子悪かったのはその所為かよ!
この人はやってることはマッドだが、ミスをするような人ではない。
だから、腕にひびが入っているッテことは本当なのだろう。
しばらく痛みに苦しんでいたが、やがて治まってきた。
「まったく……、自分の腕が壊れかけているのに気づかないなんて、自分のことも分からない鈍い大人にはなるなよ。はい腕を出したまえ」
「……はい」
なんも言い返せねぇ……。
いや、今朝あたりからなんかおかしいとは思ってたけどさぁ。
やっぱり、あのやたら堅かった“キメラ”を殴っちまったからか?
とりあえず、反省は後にして、先生の言うとおりに腕を差し出す。
「少しばかり痛いが、今感じている痛みに比べればそれほどでもない。安心したまえ」
そして先生は持ってきていたワゴンに乗せていた注射器を使って、緑色の蛍光色に光っている見るからに怪しい薬品を投与した。
効果はすぐに出る。
さっきまで感じていた痛みがスッとなくなっていくのがわかって、試しに何回か腕を振ってみる。
フッ、という小さく風を切る音が何度かするほど振ってみたが、再び痛みが来ることはなかった。
「相変わらずの即効性ですね。なんか色が違ったんですけど、この間のとは違うんですか?」
「ん、その通り。それは前回の物の効果を薄めてみたもの、その試験的なやつさ。前回のは効果が強すぎるしあまり大量に作ることができないせいで、重症患者にしか使えなくなったんだよ。だから、君みたいにひびが入った程度の患者に使うことはできないし、最近はみんなも強くなってるから新人しか来ないんだよ……。私はもっとサンプルが欲しいんだがね……」
「あぁ、やっぱり」
この人はぶれねぇなぁ……。
どこまで行っても、患者のため、技術の発展のため、と言ってそれを貫き通している。
ある意味、尊敬できる人だ。
「まぁ、他の患者でも一度試して、特に問題はなかったからね。こうして君に対して使ってみたわけだ。それで、異常はあるか?妙な浮遊感があるだとか」
「いえ、さっきより調子が良くなったくらいで特に何も」
「そうか……。なら早く帰っていいから、ちゃんと休養をとるんだ」
………………へ?
今、この人はなんて言った?
早く帰っていい。
ゴーホーム?
「どうした?ほかにも打たれると思ったのか?今日はそれだけだ。君は今年から大切な高校生活が始まったのだから、今まで通りの研究ができなくなってしまう私の心中を考えたまえ。そして、楽しんでくるのだよ。興味深い患者君?」
「え、あ、はい」
なんだ、どうした、あの人。
自重できたんならなんで今までしてこなかったんだろ?
ってか、興味深いって、俺そんな大それたことしてねぇんだけどな。
妙な引っ掛かりを覚えつつ、俺はベッドから降り、そばに置かれていた荷物を持って病室から出る。
振り返って、部屋の番号を見た。
「345番室か。えーっと、ロビーは左に行って……」
――――――
「……行った様だな」
「……“種”との適合率は高く安定している。彼の家系を知る前は、この短時間での成長率に目を見張ったものだ」
「だが、この魔導脈の状態は何だ?」
「酷使しすぎたせいで肉体の方に魔力が漏れてしまっている」
「なのに、なぜ彼は平然としているのか……」
「急速に成長してしまっているからか、肉体が追い付かず筋繊維のいくらかが壊れている」
「だが、心臓から伸びる魔導脈が切れた筋繊維をつないで、強靭な肉体を構築している」
「そもそも、誰だ心臓に“種”を植え付けたのは」
「それに、今まで投与してきた薬にあそこまでの即効性はなかったはずだ」
ピピピピッ!
「……ん、はい。……はい。…………分かったすぐ向かう」
「やれやれ、研究の一つもじっくりできないじゃないか」
「まぁ、そこまで悪いことは起きていないから、このことは後に置いておこう」
「……本当に君は興味深いよ、患者君?」
いかがでしたか?
頼れる先輩、彼方翔さんと、マッドな科学者、三上司先生が登場しました。
外伝とかで、主人公やってそうな先輩。
最後に不穏な言葉をも呟いた先生。
これが後に、どんな影響をもたらすのか、気になるところですねぇ!
今回はここまでにしておきます。
それでは、感想・評価をよろしくお願いします!