ボツ集
何やら作者は、追いかけ回すヒロインと、訳も分からず追いかけられる主人公が好きなようです。
○生徒会シリーズ。体育祭の前に入る予定だったもの。
ふわり、と涼しい風が吹いた。
振り返ると、僕の歩いた道は色とりどりの落ち葉で彩られている。
生徒会の雑用ばかりでろくに休むこともできず、ただひたすらに暑いだけだった夏休みも終わり、やっとこさ新学期が始まった。……はぁ、せめて海とか行きたかったな。
まぁ、過ぎた事を愚痴愚痴言っても仕方がない。もしどうにかなるんだとしてもあの地獄の夏休みに戻りたいとは思わないしね。
「はよ」
そんな事を考えている内に、どうやら学校に着いたらしい。学校指定の青いジャージの裾をたくし上げて赤い鉢巻をネクタイみたいに首に垂らした唯が半分死にそうな顔で僕に挨拶をしてきた。
「うん、おはよ。ってか何でそんな死にそうなのさ」
「お前が遅いから俺一人でテントの機材運んでたんだぞ!?」
叫ぶ唯が見渡した運動場のグラウンドには、成程組み立てられる前の状態のテントの機材が無造作に転がされて居た。……え? なんでテントかって? 何を隠そう今日は体育祭なのである。何といっても生徒会は学校行事の雑用係なので、テントの組み立てやその他人気の無かった係などは全て生徒会役員が兼任する事になっているんである。……だから人気無いんじゃないかな、この学校の生徒会。
さて。
僕は一つ息を吐いて現状を整理した。
テント組み立ては三人、後手伝ってくれる先生が(いれば)数人。そのうち一人はダウン、もう一人はいつものことながら遅刻だろう。
――しょうがない。
先生方が来てくれる様子が微塵も無いので、取りあえず僕は唯が復活するまで一人で作業するしかないんだろう。……っていうか体育祭の前日に全校生徒でやろうよ、これ。
――『生徒会って絶対インドアな…超文系なイメージあんのに何でこんなアウトドアで体育会系なんだよ。意味わかんねぇよ。』
去年の文化祭の片付けの最中に唯が愚痴っていた言葉が頭の中でフラッシュバックする。
○無題そのいち。
「おーはーよーうーごーざーいーまーすぅぅぅぅぅう!」
「え? ……うおっ! ?」
時は二月十四日。……ここまで言えば言わずもがな。某お菓子会社策略の日である。
そんな、女子にとっては楽しく、男子にとってはほろ苦いこの日に……
「待ってくださいー!」
怖ええよ! ! !
俺は何故か恐怖の鬼ごっこをする羽目になっている。
追いかけて来るは近所の女の子。顔は笑っているが……目が笑ってない。全く。
さて、何故こんな事になったかと言う事だが……正直俺にも良く分からない。さっき、郵便受けに挟まって居るであろう朝刊を取るべく玄関を開けたところ、女の子に遭遇。冒頭のようになったというわけだ。
「何で逃げるんですかぁ! ?」
追いかけて来るからだよ! !
そんな事を考えながら、何かうまい逃げ道は無いかと考える。
佐倉 澪。……確か高校一年生だっけか? 近所の集まりで何度か挨拶程度に話した事がある。あの時は大人しい印象だったと思ったが……俺の勘違いか。
一方の俺は、神山 奈津。二十歳。会社員。今日は日曜なので休みだ。……独身、独り身。ちなみに今の狙い目は受付の大崎さんだ。彼女はなかなか純粋そうだから、上手くやればコロッと落ちてくれるかもしれない……!
……って、今はそんなことどうでもよくて……。
「うぉぉぉぉぉお! 待てコラ――っ!」
「え! ? つか速っ! 」
――ヌガァーッ! 行き止まりっ!?
こうして……うっかり大崎さんの事なんかを考えていた俺は、まんまと佐倉 澪に捕まる羽目になってしまった。
○無題そのに。
「ぎょぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおぉおおっ!?」
昼休みもそろそろ後半に入ろうかというその時、昨日徹夜でゲームをやっていたにも拘らず、真面目に授業を受けていたので転寝モードに入っていた、元気だけが取り柄なクラスメイトの後藤もびっくりして目をさます程の絶叫が校舎内の廊下に響き渡った。
「うるせーな……」
……悪い、後藤。
俺は、不機嫌な顔で声の発信源(俺)を睨みつける後藤に心の中で両手を合わせながら視線を目の前の女に戻した。
「待ちなさいって言ってんでしょうがっ!」
……御免なさい。マジ勘弁です。それは無理です。
般若のような表情で教室に置いてあった椅子を片手にぶら下げながら俺を全力で追いかけて来る……この女に。
先生、僕は椅子が凶器になるという事を初めて知りましたぁ。
「つーか、それ学校の物だろ!? もっと大切に扱え!!」
「るっさいわよ。大体この高校は家が経営してんだから学校のものは私のものよ。どうしようと勝手じゃない?」
最後の抵抗と見せかけて俺の口から出た一般論は、尚も怒り狂った准の一言によってバッサリと切り捨てられた。……クソ、何処までも嫌な奴だな。お前はジャイ○ンか。
さて、一体どのような経緯でこんな状況になっているのかと言う事だが――…
正直俺にもわからない。全然。
強いて何かあったのかと聞かれれば、体育の時間に腰パンをしていた准のシャツが翻って水色の聖地がチラリと見えたことぐらいしか――…
「ってそれかぁぁぁぁっ!」
今気付いた。
そう言えばそうだ。その直後急いで(と言ってもそれから数十秒ほど凝視した後だが)視線を外したのだが、その時に准と軽く目があった気がする。
「記憶失えボケェぇえ!」
そう思って聞いてみればこいつの発言も少なからず理解できるところがある……気がする。
よし。原因がわかったんなら同じ人類だ。きっと話せば和解も可能な筈だ。
「おっしゃぁ、待て」
「は?」
突然立ち止まった俺に、准は不満そうな顔で渋々立ち止まった。
椅子は構えて……ない! よし!
「見ろ、俺のパンツをぉぉぉぉおっ!」
おあいこ作戦だ。……いや、特に作戦とかじゃないけど。
……アレ?これ話しあいじゃ無くね?と思ったそこの諸君、君らは正しい。
「ぎゃぁっ! 変態!!」
俺は話し合う内容を短時間で考えるほどの頭が無かったんだ……。(馬鹿だから)
――ゴン
……何故。
スラックスに手を掛け俺がそのまま手を下げようとした刹那、純の絶叫と高く椅子が振り上げられるのを見たが最後……俺は意識を手放した。