怪盗の俺が盗まれる話。
初めての投稿です。書いてみたかった異世界物でまだまだ文章が慣れていませんがどうか温かい目で読んでくださると幸いです。
プロローグ『怪盗と虚無』
よく晴れている。太陽が眩しい初夏の朝。その乾いた空気の匂いをいっぱいに吸い込んで、俺は洗濯物を物干し竿から取り込み始める。土の薄い茶色と赤黒い汚れはまだ少し残ってはいるが洗剤のおかげか、だいぶ消えかけている。
「ジェミー、おはよう。」
俺を呼ぶ声がした。少しの期待を胸に振り返る。しかし、声の主は残念なことに俺の会いたい人物ではなかった。それを相手も感じていたかのように、彼は優しく口を開いた。
「洗濯物、乾いたね。それは、彼女のものかな。」
彼は俺の腕に乗せられた白い長いスカーフを見ながら言った。俺は黙って頷く。
「その名前の刺繍は誰がしたの。」
スカーフの赤い刺繍は良く映える。当時は見栄えを気にして縫ったわけではなかった。しかし、当の本人はえらくそれを気に入っていた。でも、それは刺繍とスカーフの色合いが美しいからだとか、きっとそんな理由ではなかったのだろう。これは、彼女がこの世で二番目に大切にしていたものだった。
彼女が初めてそれを着けて俺に笑ったあの日を俺は何となく思い出した。
「俺だよ。」
「へえ、意外と器用なんだね。」
「まあ、器用でないと生きていけなかったものでさ。」
「そうだね。」
彼の返事を最後に、会話は行き詰まった。彼は何かかける言葉を探しているようだったが、俺はそのまま洗濯物を取り込み続けた。およそ三人分にしては少ない量の洗濯物を取り込み終えるのにそこまで時間はかからなかった。
最後の洗濯物を取り込み終えるまで彼は何も話さなかった。彼が次に口を開いたのは、家の中から最愛の娘の泣き声が聞こえたときだった。
「ジェミー、あの子が泣いているよ。おはようって。」
「ああ、そうだな。入ろうか。」
「うん。俺、紅茶淹れようか。」
洗濯物を抱えた俺と、それを眺めていた彼は家に入った。娘はベッドの上で元気に泣いて俺を呼んでいた。
彼女に似た赤い瞳が俺の顔を見つめる。
おはよう、俺の希望。
まずはプロローグだけですみません。ご好評でしたら続編を投稿します。