表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
46/46

鉄鋼山5

 春の鉄鋼山は秋に来た時とは、やはり趣が異なっていた。

 水はけの良すぎる軽石の間でも、石が細かく粉砕されて砂とかした場所でも、根を張った小さな草たちが花を咲かせている。


 空を流れる雲もどこか霞んで水色の空に紗をかけるようだ。


 ——春なのね。


 雪花は足を止めて山の空気を深く吸い込んだ。


 銀が足を止めて雪花に腕を伸ばす。

「疲れたのかい?」

 横から琥珀が腕を伸ばして雪花の手を取った。

「人の女房に触るな」

「気遣っただけじゃないか。いいだろ、少しくらい。雪花は僕の主なんだから」


 不貞腐れたような銀に、琥珀は笑いながら言う。

「ダメだ。雪花には指一本触るなよ」


 銀は疲れたように琥珀を睨む。

「雪花だけじゃなく、ガザニアにも触らせないくせに」

「当たり前だ。嫁入りまでは他の男に触らせるわけがない」


 胡乱な目で睨む銀を琥珀は片眉だけ上げて見る。

「なんだよ」

「自分は嫁入り前の雪花に触りまくったくせに」


 琥珀が少し顔を赤らめて銀の後頭部を叩いた。

「煩い口だな」

「滑りには気をつけてるんだ。僕の商売道具なんでね」


 二人を見ながら雪花はクスクスと笑った。

 琥珀が雪花を振り向いて微笑む。

 「雪花、ほら、見えてきた」


 薄雲の中に斜面に張り付くように建てられた山小屋が見えていた。

「本当だ。とても……懐かしいわ」

 琥珀が破顔して笑った。

「ずいぶん前のようにも、昨日のようにも感じるな」


 ——あの子は元気かな。


 小屋に入って琥珀が声をかける。

「すみません、誰か——」


 奥から子供が飛び出して来て、転がるように琥珀の足に抱きつく。

 焦げ茶の髪と瞳を持つドワーフの男の子だ。


「王子の兄ちゃん!」

 琥珀が優しい笑みを浮かべる。

「橙。元気でやってるか?」

 頭を撫でられた男の子は、満面笑顔で彼を見上げ大きく頷く。


 それから雪花を見て両腕を広げて走り込んで来た。

 彼女も腕を広げて橙を受け止める。

「緑の魔女の姉ちゃん! 待ってたんだよ。お山が来るよって教えてくれたんだ」

「そうなの。元気そうな橙に会えて嬉しいわ」

「僕も!」


 橙は不思議そうに妖精の銀を見上げる。

「この人は誰? 人間?」

「この人は妖精よ。山登りに付き合ってくれたの」

 琥珀が笑う。

「荷物持ちだ」


 銀はドワーフの子供の薄い傷跡を見て、この子が蘇生魔法をかけて貰った子だと気づいた。

 大きな怪我だったと聞く割には、後遺症も全く見えない。

 さすが雪花だと心の中で唸る。


 奥からドワーフの主人が出てきて驚いた顔で二人を見た。

「こ、これは王太子。緑の魔女様も……そちらの方は?」


 琥珀が笑って銀を見る。

「彼は雪花の従者なんです」

「おお、そうなんですか。それは羨ましい。緑の魔女の従者なら、私もなりたいものです」


 雪花が眉を顰めて琥珀を睨む。

「違うわ。銀は友達。ご主人も、あたしの友達よね?」

 主人が頬を少し高揚させた。

「それは、身にあまる光栄ですね」


 主人の後ろから飛び出して来た奥さんが、雪花に駆け寄って抱きしめた。

 満面に笑みを浮かべて涙ぐむ。

「お待ちしておりました。朝から橙がお二人が来ると言っていたので。お元気そうで何よりです」


 彼女は王太子の方を向くと、目を見張って椅子を進める。

「王太子様。お子様ですか? 大変だったでしょう。どうぞお座り下さい」


 微笑んだ琥珀の腕の中には、おくるみに包まれた二人の赤子が抱かれていた。

「よく寝ていてくれて助かりました」


 琥珀は体に縛り付けた布を解くと、一人を雪花に渡した。


 硬そうな黒髪を持った赤ん坊は、一度は目を開いて雪花を見上げたが、チプチプと口を鳴らすと、また母親の胸に顔を寄せて目を閉じた。

 琥珀の腕に残った一人は、たっぷりで癖のある赤みがかった金髪で、目を開くと琥珀色の瞳で父を見上げた。


「息子のスピネルと娘のガザニアです」


 橙が覗き込むように二人の赤ん坊を見る。

「姉ちゃんと兄ちゃんの子供?」

「そうよ」

 彼は不思議そうにしてから、自分の母親に走って行った。

「僕もね、お兄ちゃんになるんだよ」


 奥さんは二人にお茶を出しながら頷く。

「ウチはもう少し先です。それにしても、双子をお生みになったのですか? 大変だったでしょう」

 雪花が大きく頷いて笑いながら言う。

「すっごい大変だったわ!」


 主人は首を傾げて王太子を見た。

「こんな上まで、赤ん坊を連れて来られたのですね?」

「ああ。鉄鋼山のドラゴンが弱ってると聞いた。彼に会いに来たんだ」


 合点がいったように頷いた主人は、立ち上がって大きな鍵を持ち出した。

 銀は静かに微笑んで、二人に言う。

「僕はここで待ってることにする。荷物番がいるだろうからね」


                 ☆


 ドラゴンは丸くなって眠っていた。鈍色の鱗に長く太い尻尾、小山のような彼は翼をたたみ、前足に頭を乗せている。

 雪花は歩み寄って彼の鼻先に左手を当てた。彼女の薬指で琥珀石が煌めく。


「来たわ、ドラゴン」


 ドラゴンが金色の目を開く。

 銀の瞳孔が二人に向き、小さな笑い声が頭に響いた。

『よく来た。王太子と緑の魔女』


 琥珀もドラゴンに歩み寄って、彼の前足を撫でた。

「具合が悪いと聞いて、慌てて来たんだ」


 ドラゴンは穏やかに答える。

『なに、ただ老いただけだ。ドワーフが騒ぎすぎているだけだ。何者にも寿命は来る。さて、二人が来たということは』


 二人はドラゴンに見やすいように、腕に抱いた赤ん坊を傾ける。

「この子は娘のガザニア。雪花が抱いているのは息子のスピネルだ」


 子供たちが目を開いて大きなドラゴンを見つめる。

 黒い瞳のスピネルが小さな手を伸ばして笑った。

 琥珀色の瞳のガザニアはジッとその巨大な瞳を見つめている。

 ドラゴンの目が穏やかに細められる。


『これは良い子供達だ。きっと、この国を守るだろう。祝福をしよう』


 ドラゴンの瞳が黄緑がかっていく。頭の中に古語が呪文のように流れる。

 二人の子供たちは淡い黄緑の光に包まれて、不思議そうに小さな手を伸ばして光に触れようとしていた。


「ありがとう、ドラゴン」

 雪花が彼の鼻先を抱きしめると、ドラゴンはゆっくり目を閉じる。


『私こそ、礼を言おう。約束を守ってくれた。ありがとう』


 琥珀も腕を伸ばしてドラゴンの鼻先に触れる。

「間に合って良かった」


 王太子と緑の魔女が竜穴を去ると、ドラゴンは静かに丸まって、まどろみに落ちてゆく。

 まだしばらくは、この国は安泰だな——そう思いながら。












 

稚拙な文章に御つきあい頂き、ありがとうございました。

最後まで読んで下さった皆様に感謝を。

ちょっとした暇つぶし、隙間時間の楽しみになれていたなら幸いです。


応援して下さった方々にはスペシャルなサンクスを! 元気でました、ありがとう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ