表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
42/46

鉄鉱山3 求婚

 雪花の照らす明かりだけが、二人を包んでいる。


 繋いだ手を軽く引っ張って雪花が言った。

「あのね。言っておかなきゃ。わざとじゃないのよ? あたしだって、あそこであんなに大きい魔法を使うつもりは無かったんだから。あなたを悲しませたいんじゃないわ」


 王子は口元に笑みを浮かべる。

「分かってるさ。子供が死にかかってたんだ。……ただ、覚えておけ」


 彼は立ち止まって雪花を見つめる。

 いつもの王子の目ではなかった。

 燃え上がるような熱を持った、圧倒するような目だ。


「これからも、きっと、お前は無茶をするんだ。その度に俺は、死んだ方がマシだと思うほど、お前を心配することになる。忘れるなよ。俺はお前を愛してるんだ」


 雪花はゾクッと首筋が泡立った。

 魅入られたように琥珀の目を見つめる。

 燃えるような瞳の奥に飲み込まれるような強い力を感じる。

 自分はこの目からは逃れられないと思う。


 トンネルの奥で何かが羽ばたく大きな風の音が響く。

 二人はハッとしたようにトンネルの先を見た。


 王子は彼女の手を引いた。

「行こう」


                   ☆


 二人が辿り着いたのは噴火口の近くにできたウロだった。そこには、小山ほどもありそうなドラゴンが休んで居た。

 公園の像はよく似て居た。だけれど、その存在感と瞳の色は別物だ。

 固そうな鈍色の鱗に覆われ、金色の目は銀の瞳孔が縦に走っていて、淡く黄緑に光っている。


『おや。珍しく人間がいるな』


 ドラゴンの声は頭に響くようで、口元はピクリとも動かない。

「邪魔して御免なさい。あなたと話して見たくって」

 金色の大きな目が二人をジロリと見る。半分だけ瞼を閉めると、笑っている声が聞こえた。


『王太子と緑の魔女か。わたしに聞きたいことは何だ?』


 王子はヒョイと肩をあげた。素を出しているのか、威圧的な雰囲気を放っている。

「話したいのは俺じゃない」


 雪花はドラゴンに歩み寄って、彼の前足に触れた。

「古の魔法の話をして欲しいの」


 ドラゴンは、また笑ったようだ。

『久しぶりだ。私は幼いお前に会ったことがある。お前と同じことを言った男が連れていたよ』

「お爺ちゃんもここに来たの?」

『古語で話をした。彼はそれを理解したからな』


 雪花が古語を使って話し出した。

 ドラゴンは彼女を足の上に乗せたまま、静かに話している。


 王子に古語は分からない。彼はドラゴンの穴を見て回った。

 横穴に獣の皮やランプなど、幾つかの日用品が放り出されていた。


 手入れはされていないが、汚れているわけでもない所を見ると、誰かが時々この場所で寝起きするのだろうか?


 まあ、ドワーフ達もドラゴンの鱗や爪を集めたりはするだろう。

 ドラゴンは脱皮もする。

 それらは高い金額で取引され、概ね薬と称して取引されていて火炎町の重要な資金源だ。

 泊まり込むこともあるのかもしれない。


 ドラゴンが休む場所から斜めに噴火口へ続く穴が開いている。

 穴といって、ドラゴンが翼を広げて出入りできるのだからずいぶんと大きい。

 そこを覗くと星が煌めいているのが見えた。


 一通り見て回った後でも、雪花は興味深そうにドラゴンと話を続けていた。

 王子は座り込んで足を投げ出し壁にもたれる。

 雪花が目を覚まさなかった為に、彼は寝不足気味なのだ。


 ドラゴンとその足に座っている黒髪の魔女を、不思議な気分で見ているうちに眠り込んでしまった。


「ドラゴンの巣で眠るなんて、ずいぶんと肝が太いわ」

 雪花の声を聞いた王子は半分覚醒したが、まだ、ゆめうつつの状態を彷徨っていた。


 彼女は王子の隣に座って彼の手を取った。

「やっぱり、この指輪は抜けないみたい。いいわ。抜けないなら一生はめとく」

 王子は雪花をボンヤリ見つめた。

「一生? 俺の側にいてくれるのか?」


 雪花はキョトンと王子を見る。

「起きてたの? まだ眠そうだけど」

「眠い。で、一生、側にいてくれるのか?」


 彼女は面白そうに笑う。

「そうするしかないじゃない?」

「今のままなら、俺の代わりに傷を負う。下手したら死ぬぞ?」

「心配いらない。あなたが、あたしの主だわ。命に代えても守る」


 目を瞬いた王子が喉の奥で笑った。


「分かった。お前のことは俺が守る。一生そばに居てくれ」

「いいわ」

「……妃として」


 彼女は一瞬黙った。黙ったと思ったら、みるみる真っ赤になってゆく。

 その上気した顔で微笑んだ。

「………いいわ」


 どんな花より綺麗に見えた。 


 王子は彼女の首に手をやり、優しく引っ張った。

 指輪越しではない、彼女が逃げていかない、ゆっくりとした口付けは、想像を超えていた。全身が甘く疼いて、唇を離しても彼女の吐息に体が痺れるようだ。


 彼は、はっきりと覚醒した。


 雪花の体を抱いて立ち上がると、そのままヒョイと肩に担ぐ。

「お、王子?」

「俺の名は琥珀だ。ドラゴン! 今夜泊めてくれ!」

「ちょ、降ろして、降ろしてってば! こ、琥珀!」

「嫌だ。降ろさない。ドラゴン! 奥を借りるからな、誰も通すなよ!」


 雪花が真っ赤になって抗議する。

「何考えてんのよ! そういうのは、ちゃんと婚姻してからで」

「却下だ」

「こ、琥珀!」

「俺がどんだけ我慢したと思ってんだ」


 一瞬黙る雪花は、王子がそのまま踵を返して横穴に入って行くので焦る。

「お、お願い。あたしにも、心の準備が——」


 ドラゴンは半分閉じた瞼をシッカリ閉めて、前足に顎を乗せて眠りに落ちる。

 ——夜は、まだ長い。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ