表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
40/46

鉄鉱山1 山小屋

 鉄鉱山は活火山だ。今は休眠しているが、山の下ではマグマが蠢く。

 時折、吹き上がって全てを飲み込むような噴火を起こしている。

 火炎の町に生まれ、生きている人々は、その恩恵を受けながら山を恐れ敬う。


 鉄鉱山の別名は魔の山だ。

 それは決して伊達につけられた別名ではない。


 ゴロゴロと石が転がる坂を登りながら、雪花は少し立ち止まった。

「鉄鉱山って、あんまり木が生えてないのね」

「土の所為じゃないのか? ここの土は水はけが良過ぎて水を貯められないって聞いたことがある」

 王子の答えに彼女も頷く。

 確かに転がっている石はとても軽く、踏み込むと足の下から逃げて行くようだ。


 彼女達の前からドワーフの老夫婦が歩いてくる。

 歩き慣れた彼らは踏みにくい石の坂をヒョイヒョイと降りてくる。


「おや。珍しい。こんな所で娘さんに会うとはね」

 たぶん、お婆さんがの方が笑った。

 ドワーフは背丈も体つきも男女の差があまりない。


 雪花が笑って挨拶する。

「こんにちは。竜の穴はまだ先よね?」

 お祖父さんの方が難しい顔で雪花と王子を見る。

「あんたら、竜の穴まで行く気かね」

「ええ、今日中につけるかな?」


 お祖父さんは難しい顔のまま。

「さてね。儂には分からんが」


 王子が雪花を突っつく。

「貰った物があったろ?」

「あっ。そうか」


 王子に促され、雪花は公園でお祖父さんに貰ったコインを出した。

「会ってお話してみたいの。公園でドワーフのお祖父さんにコレを貰ったんだけど」


 お祖父さんは雪花の手からドラゴンのコインを手に取った。

 顔の前に持って行き、しみじみ見ると安堵したように頷いて、コインを戻す。

「なんじゃ、金槌爺さんの知り合いかい。真っ直ぐお行き、そしたら小屋が掛かっておるよ」


 お婆さんもお祖父さんの横で笑った。

「爺さんの知り合いなら、茶の一杯も出してもらえる。そこで、また道を聞くと良いさね」


 雪花は二人にお礼を言って、言われた通りに進んで行く。


 霧のような雲が流れてきて二人を飲み込む。

「ずいぶん上まで来たんだな。雲の中に入るのは初めてだ」

 王子が笑ったので、雪花も頷く。

「曇って冷たいのね」


 霧のような雲の中に、斜面に木材で屋根をかけた小屋らしき物が見えた。

「あそこかな」

「まるで雲の山小屋ね」


 中に入ってコインを見せると、若いドワーフの夫婦が二人に座るように進めた。

 主人が王子に笑いかける。


「俺たちは山番でここに住んで居るんですよ」

「山番ですか?」

「ええ。この奥に竜穴への道があるんです。盗人が入ることがあるんですよ」

「盗人はこんな上まで来るんですか?」


 奥さんが雪花と王子に黒い色の飲み物を出してくれる。

「そりゃあ、ドラゴンの鱗やら皮やら高く売れますからね」


 王子が納得したように頷く。

「それでコインなんですか」

 主人が笑った。

「ええ。コインはドワーフの中でしか流通させません。お嬢さんが貰ったのは特別ですよ」


 雪花が黒くで香ばしい香りのする飲み物について、ぜひ聞こうと思っていたら。彼女の横を小さな男の子が走り抜けた。


 奥さんに飛びついている。

「息子さんですか?」

「ええ。橙というんですよ。お姉さんにご挨拶は?」


 男の子は主人にそっくりな焦げ茶の髪と目で、顔を真っ赤にして母親のエプロンに隠れた。

「すみませんね。人がここまで来ることが、すごく珍しいもんで照れてるんです」

 主人は男の子の頭を撫でる。


 雪花は思い出したようにワンピースのポケットからキャンディを出した。

 王子が呆れたように見る。

「雪花、いつ買ったんだ?」

「キャンディ屋さんがあったでしょ。橙くん。あげる。何色がいい?」


 男の子は雪花の手に並んだキャンディの中から、オレンジ色を取った。

 彼女はもう一つ紫の飴を男の子の手に乗せる。


「ありがとう。ねえ、お姉ちゃん、雪女?」

「お姉ちゃんは魔女よ」

「雪の魔女?」


 男の子は不思議そうに雪花を見た。

「ええと。なんで雪?」

「白いから」

 王子が喉の奥で笑っている。


 奥さんが慌てて男の子を奥へ追っ払った。

「ごめんなさいね。ドワーフしか見たことないもんだから」

「いいんですよ。ところで——」


 奥の穴から悲鳴が上がった。

 ドワーフの夫婦と王子も雪花も、小屋の奥にある穴へと入って行く。


 そこには額をパックリ割った男の子が痙攣しながら横たわっていた。

「橙!」

 奥さんが悲鳴のように名前を呼んで走りよる。


 雪花も走り寄って男の子に回復魔法をかける。

 彼の体がポウッと光った。

 だが——。


 悲痛な顔をした奥さんが揺れて居る大きな鉤のついたチェーンを指差した。

 大鍋を掛ける自在鉤のようだ。

「……血が」

 鉤針にはベッタリ血がついていた。

 子供はその鎖で遊んでいたのだろうか。


 主人は震えながら。

「だから、危ないって——」

 そう言って膝をついてしまった。


 雪花は子供の頭を膝の上に置いて、頰を両手で挟んで古語を唱え出す。


 奥さんが祈るように雪花と子供を見つめた。

 王子は主人の肩に手を置いた。


「彼女は上級の魔法使いだ。任せてやってくれ」


 傷は脳まで達しているように見えた。

 すでに絶命していておかしくない。

 なんとか持ち堪えているのは、雪花が魔法を使っているからだ。


 雪花は懸命に呼びかけた。

 火山に、木々に、雲に、風に——。

 一人では無理よ、お願い一緒に。


 彼女の髪がバチバチと電気を帯びて、瞳が黄緑色に輝き出す。


 王子が目を細めた。

 ——いつもと様子が違う。


 彼女の体を取り巻くように黄緑の光が渦巻いていく。

 髪が逆立ち、目の色が黄緑色に変わった雪花の体に、様々な色の光がスパークする。


 次々と黄緑の光に加わって渦を作ってゆく。

 その全てが彼女の手から男の子へと注がれる。


「あ、あああああ」

 母親の泣き崩れるような声が聞こえた。

 王子の全身が鳥肌立った。


 子供の傷が修復されていくのだ。

 光が傷へ注ぎ込まれ、新しい組織へ変わっている。

 どのくらいそうしていたのか。


 雪花がグラリと揺れた。

 王子は駆け寄って彼女を支える。

 彼女は意識を失っていた。


 膝の上の子供は、小さく呼吸していた。

 母親が泣きながら子供を抱き、意識のない雪花の手に口付けた。

 主人は妻と子供を強く抱いて泣き出した。


 王子は雪花を抱きかかえ、その唇に顔を寄せた。

 ——良かった。呼吸してる。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ