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ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
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火炎の町2 ドワーフ

 二人は公園を見つけてベンチに座った。

 火炎町の公園に噴水はなかったが、銅像は立っている。


「……ドラゴンね」

「ああ、町の象徴なんだ」


 雪花はドラゴンの像をしみじみ見る。


 何に例えたらいいのか分からない。馬のような顔だがもっとゴツゴツしている。

 体はトカゲを大きくしたようだが、あんなに爪の鋭いトカゲは見たことがない。

 翼といえばいいのか、蝙蝠のような巨大な翼が背に広がっていた。


 像を見ながら、彼女はパクッと揚げパンに食いつく。

 と、その目が大きく見開かれた。


 何度も目を瞬かせ、奇妙な笑いを零す。

「ん、んふ。ふふふ」

 すでにドラゴンの像ではなく、揚げパンに見入っている。

「美味しい。んっふふ」


 王子はそんな雪花を緩い目で愛でる。

「お前は本当に美味そうに食うよな」

「だって美味しいじゃない」

「まあな」


 確かに旅での食事は単調になるし、妖精国では肉類が出なかった。

 久しぶりの肉の油に濃い味付け、タップリ使われた香辛料は味覚を刺激する。


「飲み物も買えばよかったか?」

「お茶でよければ煎れてあげるけど」

「いや。水でいい。くれるかい?」


 雪花は荷物からカップを取ると、手で囲って王子に水を出してやった。

 彼は嬉しそうにカップを受け取る。

「ありがとう」


 その様子を見ていたのだろう。

 一人のドワーフが話しかけてきた。

「お嬢さんは魔法使いかい?」


 白髪の混ざった赤い髪、片目は白濁してしまっているが、残った目は意志の強さを滲ませている。


「ええ。あたしは魔女よ」

 ドワーフは髭だらけの顔に笑みを浮かべた。

「やっぱりそうかい。久しぶりに会ったなぁ」

「あら。町にも魔法使いはいるでしょ?」


 ドワーフは雪花の横に座ると首を振った。

「あんなのは魔法使いではないさ」

 王子も不思議そうにドワーフを見る。

「では、なんですか?」


「ありゃ、奇術師だ」


 王子と雪花が目を合わせる。

 ドワーフのお祖父さんは懐かしそうに続けた。

「儂らには、魔法使いは見てわかる。ほれ、お嬢さんの足元で喜んでる」


 雪花は微笑んで石畳の隙間から伸びたスミレを見る。

「踏まないように気をつけてたから」

「それだけじゃないさ。あんたは側にいると元気をくれる」

「褒めすぎじゃないかな」


 少し照れた雪花を、ドワーフのお祖父さんが微笑んで見つめた。

「あんたらは兄妹かね?」


 彼女は苦笑した。

「違うわ。間違えられるけど、似てないわよね?」

「外見は似てないがね。よく似ているよ。兄妹でないなら夫婦だな」

「ち、違うわ!」


 赤くなった二人にお祖父さんは笑った。

「なんじゃ。まだかい。お兄さん、頑張らんと」


 髪を引っ張った雪花が、話を逸らそうとドラゴンについて聞くと。

「そうさな。雄の年老いた竜だよ。気性も穏やかで物知りだ」

「会いたいんだけど」


 ドワーフは彼女を静かに見つめた。

「鉄鋼山の一番高い所に住んどるから、登るのは大変だぞ?」

「頑張るわ」

「うん。あんたになら会ってくれるだろう。どれ、コレをあげよう」


 彼は古いコインを出して雪花に渡す。

「これを見せれば、山のドワーフが道を教えてくれるだろう」


 雪花は手のひらのコインを見つめた。

 二頭のドラゴンが尾を咥えあって、円を作った紋様が押されている。

「ありがとう」


 彼女はハッとしたようにお祖父さんを見る。

「でも、お祖父さん。あたし、返す物を持ってないわ」

「なに。気にせんでいい。そうだ、儂にも水を一杯くれないか?」


 雪花は空いているカップに水を出してお祖父さんに渡す。

 お祖父さんが指輪に気づいて目を細め、微かに笑った。


 気づいた雪花は彼に聞いてみた。

「この指輪、呪いが掛かってるの。お祖父さんは、はずし方知ってる?」


 彼は首を振った。

「お嬢さん。この指輪は、はずれないよ」

「はずれないの?」

「ああ。一生な」


 雪花がショックを受けていると、お祖父さんは大きく笑った。

「あんたが指輪を受け入れればいいだけだ」


 彼女が戸惑っていると、お祖父さんは笑いながら立ち上がって水を飲み干し、カップを返した。

「美味しい水をありがとう」


 立ち去る時、王子の腕をポンと叩いた。

「頑張んな」


 雪花はドワーフの背中をボンヤリ見ていた。

「不思議なお祖父さんね」

「ああ。鍛治職人なんだろうけど」

「そうなの?」

「たぶんな。手に豆があったし、火傷の痕もあった。片目は火にやられたんだろうな」


 王子も不思議な目でドワーフのお祖父さんが去って行くのを見ていた。

 雪花は、その横顔に少し不安になる。

 ここのところ、王子は彼女が見たことのない表情をしていることが多い。


 首を振って気を取り直し、彼女は荷物から手袋を出して手にはめた。

「町だってこと、すっかり忘れてたわ」


 カップをしまった王子が雪花を見た。

「さて、さすがに今日は鉄鉱山に行くのは無理だな。宿はどうする?」

「さっき屋台の叔父さんに聞いてたよね?」


 雪花の目が煌めく。

「温泉の出る宿があるのよね?」

 王子が小さく笑う。

「そうだな。そこへ行ってみよう」


                  ☆


 ——掛け流しの温泉なんて贅沢だわ。


 雪花はタップリの髪を布で包み、肩まで湯に使って大きく息を吐いた。

 宿は大きく、一人部屋を二つ押さえることができた。

 実は水仙から、黒曜様からですと資金を渡されたので懐も潤沢だ。


 彼女は湯の中を手で掻き回しながら考えた。


 黒曜様ってどんな人なのかな。

 あの水仙が主って呼んでるくらいだから、やっぱり優秀な人なんだろうけど。


 ふいっとボンクラ王子を思い出さす。

 世間の噂とは違って、彼はボンクラではない。

 優秀かどうか分からないけれど、誠実であろうとする。


 決して黒曜様に劣っているわけだはないだろう。

 彼はとても優れた資質を持っている。


 彼女は一人で苦笑する。

 やだな。ベタ褒めじゃないの。


 眉を下げた気弱な笑みを思い出す。

 太陽の光を集めたような、優しい色の瞳が浮かぶ。

 彼女を呼ぶ、少しだけ掠れたような声が聞こえるようだ。


 彼は素の時にでてしまう、あの威圧感を隠しているんだろう。

 雪花でさえ近寄りがたいと思うのだ。


 やはり、彼は王太子なのだ。


 雪花は天井を見上げて大きく息をついた。

 胸の奥が苦しい気がする。

 なんだろう——。


 体を拭いながら、左肩の傷跡が薄くなっている事に気づく。

 赤く残っていた跡が、ピンク色になってきている。

 自分の指で傷跡をなぞる。


 デイジーには薄くなると言ったけど……。


「このまま消えなきゃいいのに」


 自分の言葉にビックリした。


 そして——ああ、そうかと気づいた。


 いきなり涙が溢れてきた。

「……困ったな」


 強く目をつぶって呼吸を整える。

 琥珀の指輪がはまっている手をギュッと握った。











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