表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
30/46

妖精の国1 牽制

 次の朝、彼女は琥珀石の指輪をジッと見ていた。


「どうしたんだ?」

「ねえ、昨日。この指輪は光ったよね」

「そうだな」

「まだ、あたしの聞いてない呪いがあるの?」


 王子は複雑な顔になる。

「呪いではないと思う」

「じゃあ、魔法?」

「そっちが近いんじゃないかな。俺もよく分からない」


 彼は獣の皮の上に胡座をかくと、雪花の右手を取った。


「この指輪は両親に贈られたって言ったよな」


 王子は琥珀石を見つめる。


「その時、父は、この指輪は俺に在り方を問うだろうと言った。母は、この指輪は俺の答えに応じると言った」


 雪花が首を傾げる。

「まるで呪文みたいね」

「ああ。そうだな。その時に、俺には琥珀石の指輪が贈られ、黒曜には黒曜石の指輪が贈られた」

「……大盤振る舞いだわ」


 王子がクスッと笑う。

「まあな。そういう言い方もあるか」


 雪花は右手を自分の前にかざす。

「この指輪が、あたしを守ってくれたのは間違いないと思うよね」

「ああ。そう思う」


 彼女は少し頬を染めて俯く。

「………指輪にお礼をしたいんだけど」

「あ、ああ」


 どうしたらいいんだろう。

 後ろを向いてればいいのか?


 戸惑いながら雪花を見ていると——。


 彼女は、かざしていた右手を下げて琥珀石を見つめた。

 ゆっくり顔を寄せていく。


 やっぱり、もったい無くて目が離せない。


 彼女は口の中で何か呟いて、指輪にそっと唇をつける。

 ゾクっと甘い衝動がもたげる。


 唇に微かに息がかかって、柔らかく滑らかな感触が触れたと思ったら、少し冷たい濡れたモノが動いた。

 琥珀石の上で雪花の舌がチロッと動くのが見える。


 彼はギョッとして口に手をやる。

 ゾクゾクと首筋が泡立って、自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。


「せ……」


 雪花がクスクスと笑いだして、べっと舌を出した。

「仕返し」

 そう言った彼女はパッと立ち上がって、テントの外に行ってしまった。


 口を押さえたまま、王子は目を瞬かせ、俯いて首まで赤くなっていく。

 俯いたまま、片手で顔を覆って息を吐く。

「…………あのなぁ」


 もたげた衝動がおさまらなくて苦労した。


              ☆


 雪花の魔法地図から、緩慢に異動していた魔物が消えていた。

 やはり、ズミヤが大きな赤い点だったようだ。


「あとは、そこまで大きくないし、やっぱり水気を嫌ってる」

「それなら、行けるか」


 二人は荷物を背負って慎重に下って行った。

 王子が相変わらず立ち止まっては、雪花に手を差し出す。

 彼女も素直にサポートされる。


 コツを掴んだのか、二人の歩みはスムーズになっていた。


 辺りは暗さを増し、水の匂いが強くなる。

 ザーザーと川が流れる音が聞こえる。


 谷底に川が見えた時、思いがけない男が舟を浮かべて腰掛けていた。


「やあ、遅かったね」


 半妖精の銀様だ。

 王子の目が剣呑になる。


「二人が山を越えるって町で聞いたんだよ。デイジーがよろしく言ってた」

「デイジーが?」


 それにしても、この男はどうやって、ここに舟を浮かべて待っていたんだろう。

 雪花の視線から疑問を読み取ったのか、彼は何でもないように言った。


「雪花。僕は妖精だよ。半分だけどね」


 そう言って、相変わらずの美貌で笑いかける。


「それに、貴方を連れて来るよう、姉に頼まれたのですよ。王太子様」


 銀様は優雅に身を折ってボンクラに礼をした。

 王子の顔に苦い笑みが浮かぶ。


「お前、城の者だったか」

「いえ。私は単なる使いです」


 見事な銀髪をサラッと後ろに長し、雪花に手を差し出した。

「さあ、乗って」


 彼女が王子を見ると、彼は苦い顔のまま頷いた。

 雪花が差し出された手を掴むと、銀様が彼女の指輪を見て目を見開いた。


「……………君」


 王子がさらに苦い顔になる。


「いつまで手を握ってんだ?」

「これは失礼致しました」


 彼は雪花の手を握ったままで、王子に作り物めいた笑顔を見せる。

 ボンクラが業を煮やしたように、雪花の肩を抱いて舟に乗せた。


「ええと、何処に行くの?」


 銀様は雪花に笑いかけた。


「妖精の国だよ。僕の故郷だね」

「あたし達は鉄鋼山に行きたいんだけど」


 チラッと王子を見た銀様は含んだように笑った。


「心配ないよ。ドワーフには知り合いがいる。そちら様の用が済んだら送ってく」

「お前に送ってもらう必要はない。誰が俺を呼んでるって?」

「姉です。黒曜様から伝言を受けたようですね。僕は呼んでません」


 二人の男は牽制しあっているようだが、雪花には分かっていない。


「貴方のお姉さんなら、その人も薔薇の精なの? あぁ、貴方の名前、分かったの。ロウ——」


 銀様は微笑んで雪花の唇を指で塞いだ。


「雪花。妖精の本名は口にしてはいけないよ。二人きりなら別だけどね」


 王子の目が剣呑を通り越して行く。

 ハッとした雪花が王子の首を掴んで、自分の方に引き寄せた。

 小さな声で彼に耳打ちする。


「行って大丈夫なの? 刺客の方?」

「いや。大丈夫。たぶんな」


 王子がくすぐったそうに微笑んで彼女を見る。


 銀様は、そんな二人を氷のような目で見ていた。

 元々が美貌の貴公子だ、二人をそのまま凍りつかせてしまいそうだった。


「雪花。僕の姉は黒曜様の使いだ。彼を害したりはしないよ」


 彼女が目を瞬かせ、ホッとしたように頷く。


「それより、君の指輪を見せてくれないか?」

「……え?」


 銀様が雪花の右手を取ると、王子が殺しそうな目で睨む。

 妖精はどこ吹く風と気にも留めない。


「呪いがかかっているね」

「分かるの?」

「ドワーフに知り合いがいるって言ったろ?」

「ねえ、じゃあ、はずし方も分かる?」


 彼はフッと王子を見た。王子は苦い顔で横を向く。


「はずしたいの?」

「そう。はずしたいの」


 銀様の口元に笑みが浮かんだ。

「そうなんだ。どうかな、よく見てみないと分からないから、妖精の国に着いたら、もう一度見てみようか」


 含んだ笑みで王子を見た銀様は、雪花の手を離した。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ