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ボンクラ王子とお喋りな魔女  作者: 加藤小蛙
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森3 旅立ち

 指輪を睨んで、しばし呆然としていた雪花だったが。

 突然に口から言葉が溢れ出した。


「いったい、どうしてくれるのよ! こんな薄らトンチキのボンクラの為に、前途揚々とした美少女魔女の未来が閉ざされるなんて理不尽もいいとこでじゃない。ヘラヘラ笑って無駄飯食らって寝落ちするなんて、駄犬もいいとこなのに! このヘボおう——」


 彼女は慌てて口に手を当てる。

 いくらボンクラでも相手は王太子だ。

 斬首刑など御免なわけだが、口から溢れ出てくる悪口が止まらない。


 王子は萎れた顔で雪花を見る。

「……もう一つ。指輪の持ち主は、思った事が、そのまま口に出る呪いがかかる」


 彼女はアーモンド型の目を、目玉が落ちそうなほど見開いた。


「全部、喋っちゃうっていうの? じょ、冗談じゃない! 乙女のプライバシーを何だと思ってんのよ! あんた慎みって知ってるの、深層の令嬢は黙ってるから価値がでんのよ。ベラベラ喋っちゃダメなの!」


 王子が困った顔で雪花を見る。

「ええと——大丈夫。君は深層の令嬢じゃない」

 そう言ってヘラッと笑った。


 ムカっとして、思わず王子の頭をパカンと叩くと、自分の頭に痛みが走った。

「い、痛いじゃない!」

「…………説明したよな?」

 王子がバカを見る目で見たから余計に腹が立つ。


「あ、あたしは、魔法を収めて国を守って、稀代の魔法使いって呼ばれて、あたしをバカにした魔法使いどもを見返さなきゃなんないのよ。あの性悪共をギャフンと言わせ——」


 慌てて両手で口を押さえる。

 こんな事は胸の奥に隠していて、今まで誰にも言った事がない秘密なのに。

 雪花は口を押さえたまま、真っ赤になってポロポロ泣きだした。


「何でこんな恥ずかし目を受けなきゃいけないの」


 狼狽えた王子は、彼女の頭を撫でた。

「よ、よしよし」


「やめて! 慰めるにしたって、もう少し気の利いたやり方があるでしょ!」

 噛み付くように言われ、彼は怯えたみたいに身を引いた。


 雪花は半眼になって喋り続ける。

「なにか方法があるはずよ。呪いだもの、魔法則にのっとっているはず。それが分かれば、きっと外せる。魔法則は嫌ってほど叩き込まれたじゃない。吐くほど学んだんだから。それでもダメなら……人の知識を使うまでよ」


 雪花は指輪にはめられた琥珀石をジッと見る。


「鉄鋼山に行く!」

 彼女は意を決したように言って立ち上がった。


 王子が戸惑った顔で聞き返す。

「魔の山に行くのか?」


「そうよ」

 彼女の目に希望とやる気が満ちる。


「あそこにはドワーフがいる。呪いモノの細工なら彼等が詳しい。呪のかかった指輪の外し方も、分かるかも知れないじゃない」


 王子は少し渋い顔になる。

「……遠いな」


「あんた、他に何か思いつく? あたしは一生、あんたの側で暮らすのなんか嫌よ! 花の乙女に首輪をつけるような真似は、どんだけ非道な王子だってしないわよね。あたしの輝かしい未来を、あんたの不手際で踏みにじろうっていうわけなの? ボンクラやめて人で無しになりたいの!」


 王子は鼻息の荒い雪花に両手を上げて、降参のポーズを取ると力なく笑った。

「行くさ。もちろん行く。君が行く所なら。俺だって死にたくない」


 気弱そうな笑みは、人畜無害に見える。

 とても国を治める器には思えない。


 彼女は口を尖んがらせ、半眼になって王子を睨んだ。

「…………あなた、次の王なのよね?」

「まあ、そうだな」

「この国、大丈夫?」


 彼は軽く傷ついた顔で雪花を見た。

「……あ、ごめん」

「いい。今の君は正直者なだけだ」


 少しだけ悪いような気もする。

 勝手に指輪をはめたのは雪花本人なんだし、王子だけを責めても仕方ないのは分かってる。

 理不尽はお互い様だ。


「取りあえず今夜は寝ましょう。少し長旅になるから、体力は温存して置かないと」


 王子にクッションと毛布を渡す。

 いくら相手が王族でも自分のベッドをあけ渡す気はしない。




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