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運命を信じない深海のはぐれ王子と運命の乙女  作者: 海荻あなご
第一部 第四章

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いにしえの喰み痕 その奥へ

 地面に含まれるフォンスが少ないのか、外の地面に比べると洞窟内の地面の発光量は少ない。

 僅かな青色と闇の中でこの輝きをよく見つけられたものだ。その緑色を拾い上げたとき、アルヴァルクは運命めいたものを感じた。


(……これ……コノリにあげたヤツじゃねーか……)


 巻貝を抱いたキマがモチーフの髪留めである。それが一つだけ転がっていた。

 コノリには二つ与えたはずだ。

 自らの手で彼女の前髪を両脇に寄せて留めたのだから、間違いない。

 二度目の再会をしたときにも、彼女が付けていてくれていたのをしっかりと覚えている。


 周囲に目を凝らす。

 もしかしたらもう片方も──そう思って探すと、同じ色の輝きを見つけた。

 片割れを拾った場所より、少し先に落ちていた。


(……欠けてやがる)


 使うのに支障はなさそうだが、今しがた拾った物は少しだけ先端が欠けてしまっていた。


 ──ゲームに出てくる、アクセサリーみたい……。


 記憶が再生したのは、これを渡したときの彼女の感想。

 この世界のことを教えてやっていたときのように目を輝かせ、興味深そうに眺めていた彼女の仕草。

 まさか髪留めを使った経験がないとは思わず、使用方法が分からないことには驚いたものだ。


 アルヴァルクがコノリの容姿に言及したのがきっかけかは分からない。

 もしくは、ただ単にこれしか使える物がなかったのかもしれない。


 だが、ハイネリアレオス王たちとの謁見のときから、彼女の両こめかみにはこの髪留めがあった。

 寝るときには外すようなものを、今度はコノリ自身の手で装着したということだ。

 今までは無頓着だったのに、わざわざそれをしたということは気に入ってくれたのだろう。


 だから、落としたときに拾おうとするはずだ。

 それなのにここに転がり落ちたままだということは、そのときコノリは動けない状態であった可能性が高い。


 ──ドクン、と心臓が脈を打つ。

 彼女を守りたい、彼女を救いたいと強く思ったその瞬間に。


 そして、身体のどこからか力がみなぎってくる。あんなにも重たかったのに、今なら軽々と動けてしまいそうなくらいに。

 腕の先から頭の上まで、全身を巡るように力があふれている。


 アルヴァルクはこの感覚に覚えがあった。

 ──初めて彼女を抱き留めたときに感じたものだ。


(……青と、銀の、光)


 あのときにも見た蒼銀の光が、髪留めを持つ自身の手をほのかに覆っていた。

 その光が先端が欠けた髪留めを包み、みるみるうちに傷を直してしまう。


 不思議な現象に、アルヴァルクは直感で思った。

 これはセイレーンの力だ、と。


 寝物語で聞いた英雄ティブロクスは、セイレーンから分け与えられた力を使ってヴォアに立ち向かったらしい。


 自分もティブロクスのように彼女の力を分け与えられたのだ。

 おそらく、コノリはそのことに気づいていない。この世界やセイレーンのことも知らなかったのだから、きっと無意識だ。


 だから、アルヴァルクにはまだ動ける力が残っていた。

 闇に打ち勝つ光を持っていたから。


(……もしかして!)


 とある予想が頭に浮かび、投げ捨てた水薬の小瓶を急いで探す。

 幸いにもそれはすぐに見つかり、多少のヒビは入っていたものの中身が漏れた様子はなさそうだった。

 中身は最後に見たときのまま、ドス黒く濁った青だ。

 ほのかな光を纏い続ける手でそっと握りしめれば、予想したとおりにそれは修復された。

 小瓶のヒビも、ドス黒さも消えて元通りの美しい青色に。


「レオルカ、飲め!」

「ンゴゴ!?」


 アルヴァルクはそのまま蓋を開け、目を回し続けているレオルカの口内へと中身を流し込んだ。

 急なことに驚いたレオルカが奇声を上げたが、吐き出すことはせず無事にゴクンと喉を鳴らしてくれる。


「な、何、すんダー! うげげ、苦ぇ……うえぇぇ……まっずぅ……」

「お前はクヴァリーを抱えて、急いで戻れ。この先には俺一人で行く」


 水薬は口に合わなかったのかげっそりとした表情をしてはいるが、無事に薬が効いたらしい。

 元気を取り戻したレオルカは、アルヴァルクより告げられたことにギョッと目を見開いた。


「ハッ!? オ、オレだけでカ!? こ、ここ、暗いんだゾ! コレ、抱えたら、明かり持てねーんだゾ!」

「走り抜けりゃ、お前の脚ならあっという間に外に出られるだろ。急げ! それからカトルんとこ戻って救援を呼べ!」

「し、指示が多いゾ~! わ、分かっタ分かっタ!」


 主の勢いに圧され、レオルカの口がクヴァリーを引っ張り上げる。

 それからビューンと飛んで行った。捨て台詞のように何やらモゴモゴと叫びながら。

 たぶんだが、「オレはシィモウのテリッカがたらふく食いたい」と言ったのだろう。

 彼の源は食欲だ。事が終わったら、宴会でもなんでもすればいい。

 そのときには彼女も一緒に。


 転がっていた自分の得物を拾い上げる。

 そしてみなぎる力に勢いを乗せ、アルヴァルクは暗闇の先を目指して駆け降りた。


 小石や地面から突き出た岩で、足場の状態は最悪だ。

 それでも転ばないよう踏ん張りながら、深部を目指す。そこにコノリがいると信じて。


 奥に行けば行くほど、地面の青さが消えていく。

 間違いなく喰み痕とやらに近づいているのだと、アルヴァルクは思った。

 すると、先ほど感じたような重怠さが再度纏わりつき始める。

 だが、足枷になるようなほどでもなかった。

 自身の中にあった力を自覚した今、この程度なんともない。


 やがて、淡い青の発光が欠片も見えなくなるほどに深い闇に突入した。

 そして、ようやく辿り着いた。


「──コノリ!」


 光もない真っ暗闇だというのに、その様子がよく見えた。

 レウカスではない男に腹部をまさぐられている彼女の姿を。

 男の手は彼女の体内に沈んでいるようにも見えた。コノリはその腕を掴み、懸命に抗おうとしていた。


「そこから退きやがれ……っ!」


 手のひらが掴んでいる柄をぎゅっと握り締め、尖端にある刃を男に向けて突き進む。

 捉えたのは、刃先が相手の肌に刺さる感触──ではなく。硬い何かにぶつかったかのような、鈍い音だった。


「よぉ、また会ったなぁ。にぃちゃん」


 あの大男、レウカスの腕だった。

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