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いにしえの喰み痕 洞窟内

 一体どれほど深く潜るのか、レオルカにコルチェ球で照らさせてみても先が見えない。

 この洞窟は、魔物の欠片を封印したあとで岩を積み上げて作られた人工的な物だそうだ。

 道は狭いが、喰み痕のある最深部はそれなりの面積を有している──とされているらしい。

 さすがにガント=フォスタの広さには及ばないそうだが、これを語るクヴァリー自身は見たことがないという。それもそうだろう、今まで封印を護るために隠してきたのだから。

 しかし、最新部を覆った上で地上へと昇る道まで作り上げたというのだから、昔の人々に対し敬服の念を抱かざるを得ない。

 小石の転がる傾斜の強い道を慎重に下りながら、アルヴァルクはクヴァリーの話に耳を傾け続けた。


「……本来なら、オレの屋敷で、この地について説明するつもりだった。ここを知ってんのは……長だけ……だからな」

「ここで……どうするつもり……だったんだ?」


 レオルカが持つコルチェ球の光が、ゆらゆらと揺れる。

 狭い洞窟内に響く二人分の足取りは鈍い。アルヴァルクに至っては、槍を杖のように扱っている始末だ。

 この洞窟に入る前から感じていた嫌な空気が、一歩一歩と進むたび深まり、身体にまとわりつく。

 それが「この先には行きたくない」と思わせてきて、この先へ進むことを躊躇わせる。足取りだけではなく、会話をすることさえ億劫になるほどに。

 いつもはお喋りで落ち着きのないレオルカでさえも、おとなしい。


「グランポポル、の暴走は……太古の魔物復活の兆し……国王が、そう、言ってたろ?」

「ああ……直接の、原因が……ここにあったと、いうわけか……」

「そういう、こった……暴走の原因は喰み痕が、悪さしてると睨んだワケさ。採貝場を陣取った……グランポポルを、どうにかしたあとで……封印の様子を調べる。そういう、予定だった……」


 それでもアルヴァルクたちが会話を続けるのは、そうでもしていないと頭も心も暗闇に覆われてしまいそうだからだ。


 洞窟内は暗いが、レオルカの持つコルチェ球の光で多少は見える。隣を歩くクヴァリーの顔色が悪いこともしっかりと把握できるくらいには。

 怪我の傷は癒えていないが、彼女が洞窟の前まで歩いていく様子は健常人そのものだった。飲ませた水薬が効いたのだろう。

 しかし、今の彼女はアルヴァルク以上に足の進みが悪い。口を開くのでさえ辛そうである。

 クヴァリーもまたアルヴァルクと同様の感覚を抱いているのは明らかだった。


「……アイツらは、ここで、何をするつもりなのか……聞いたのか?」

「教えてくれる、ワケがねぇさ……まあ、わざわざフラル=ジェヴァを攫うまでしてんだ……よからぬことを企んでんのは……間違いねーだろう、な……」

「あっ、おい──!」

「──ハッ!? 危ねぇ!」


 クヴァリーの身体が急速に力をなくしたかのように傾き始めた。咄嗟に抱き留めたが、アルヴァルク自身もこの洞窟の異様さに飲まれていたために、完璧な結果とはいかなかった。

 手放した槍がカランと地面を転がる。

 彼女とともに転がりそうになった寸前、レオルカが滑り込んできてくれたおかげで地面との衝突は避けられた。代わりに衝撃を受け止めた彼は苦しそうだったが。

 その拍子にレオルカが持っていたコルチェ球が落ち、小石がコロコロと転がる音が響いて、そして遠のいていった。


「ナイスだ、レオルカ……」

「さすがに……重い……ゾぉ……」


 きゅう、と小さく呻いたレオルカも限界なようだ。二人分の重みを受け止める程度、普段ならなんともないはずが、今はくるくると目を回している。

 それは、クヴァリーもだった。アルヴァルクを見上げる赤い眼差しは虚ろで、こちらの姿を映そうとしない。


「クヴァリー、アンタ、顔色が悪すぎだ……やっぱ今からでも、戻ったほうがいい……」

「そういう、お前も……人のこと言えねーじゃねー……の」

「俺は……まだ、動けないほどじゃないんで、ね」


 まとわりつくものは相変わらず不快で嫌な感じを覚えるが、二人とは違い、アルヴァルクにはまだ身体を動かせる力が残っていた。


(まだ、薬の予備があったよな……効くか分からねぇが)


 ひとまず二人に飲ませようと取り出して、アルヴァルクは目を見開いた。


「なんだ……これ……っ」


 体力を消耗した際に飲む水薬は、水聖力を多分に含んでいるために美しい青色をしている。

 だが、その青色は澱んでいた。まるでこの洞窟の闇を吸収したかのようにドス黒く。

 こんなもの、到底飲ませられない。

 持ったままなのも不気味に思い、アルヴァルクは水薬の小瓶を放り投げた。


(ここは、本気でやべーぞ……どうする? このまま一旦、二人を上まで連れて帰るか……? だが、それだとコノリの救出が……)


 彼女を今すぐにでも助け出したいというのに、心が焦りを募らせる。

 このまま二人を連れて進むのも危険、二人をこの場に留まらせるのも危険、二人を連れて戻ろうとすればコノリが危険に晒され続ける。


 やはりもう少し人数を連れてくるべきだったと、悔やんでしまう。

 こんなことなら、アルガレオス王家の一員として、第三王子としてあるべき行動を取れるよう学んでおけばよかった。

 そうしたらきっと選択を間違えない。第三王子として堂々と立ち振る舞い、冷静に物事を対処できたかもしれないというのに。

 心に闇が侵食していくような錯覚を覚える。


 迷っている暇はない。

 なのに、どうするべきか選べない。

 身体は動けるはずなのに、動けない。


 内側に広がる闇がアルヴァの胸の奥を重くしていく。


(……くそっ)


 そのとき、視界の端で緑色が輝いたような気がした。

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