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92話 従者の気遣い

 屋敷の外にて、距離を置いて向かい合うヘルブラムとセシリー。


「よっしゃ、始めるとするか!!」


「お願い致します」


 魔王軍会議から数日が経った今日。これから行われるのは、ヘルブラムによるセシリーの特訓である。‥‥‥といっても、ついさっき決まったことなんだけどね。


 まだ朝方だというのに、いつも以上に大声を上げながらヘルブラムはやってきた。「お前の従者(メイド)を特訓しに来たぞ!!」と、それはもうやる気満々の表情で。


 レベリアも居るし、俺が直接的に面倒事に巻き込まれないのなら何も問題はない‥‥‥ということで今に至っている。


 前回と同様、俺とレベリアは屋敷の前でヘルブラムとセシリーを見守っている――いや、"見張っている"という方が適切か。


 ヘルブラムのパワーは制御されているとはいえ、強力であることに変わりはない。あいつのうっかりでとんでもない事故が起こらないよう、警戒しておかなければならない。


 まぁ、それだけ気をつけておけば俺はいつも通りダラダラできるという訳だ。


「――魔王軍会議からお戻りになったヘルブラム様は、随分と落ち込んでおられましたよ」


 レベリアが話を切り出した。しかしそれは、俺には少し想像しがたいものだった。


「落ち込んでた‥‥‥? あいつが??」


「ええ、とっても」


 それを聞いて、俺はヘルブラムが少し気の毒に思えた。ヘルブラムが落ち込んだという、その原因を何となく察したからだ。


「レベリア、お前ヘルブラムによっぽど酷いことを言ったんだな‥‥‥。あいつだって心がない訳じゃないんだからさ、怒るにしたってほどほどにしないと駄目だぞ?」


 レベリアは首を傾げて、ポカンとした表情で俺を見つめてきた。


「私は何も申し上げていませんし、そもそも私のために落ち込んでおられたのではありませんよ」


「えっ、違うの?」


「‥‥‥ヒロト様、お心当たりないのですか?」


 レベリアの質問。


 さて、今度は俺が首を傾げてポカンとした。レベリアのその言い様、まるで俺に原因があるみたいじゃないか。


 いや、待てよ? 魔王軍会議が終わったその時、俺は何かを忘れていたような‥‥‥。


 そして俺の脳裏に、ある一つの情景が蘇る――。


「あっ‥‥‥」


 それは、魔王軍会議が執り行われた部屋にて、一人ポツンと取り残されたヘルブラムの姿。俺はカタストロやカトレイヌとやり取りをしていたため、ヘルブラム一人が置いてけぼりになっていたのだ。


「ヘルブラム様は『俺がヒロトと一緒に帰るはずだったのにー!!』と嘆いておられましたよ?」


 申し訳程度にどことなくヘルブラムに似せた声音のレベリアに、俺は目を細くした。実際にヘルブラムがそう言ってる様子を想像し、少し気味が悪くなった。


「小学生かあいつは」


 カタストロやカトレイヌも似たような一面がある。ワガママというかなんというか。魔族ってそういうもんなのか‥‥‥?


「数日間ずっと落ち込んでおられました。長くヘルブラム様の元に仕えていますが、あのようなヘルブラム様を見るのは初めてでしたよ。一日中食事を禁止した時でさえ、あそこまで落ち込まれることはなかったのに」


「今お前さらっと凄いこと言ったよ? 俺よりずっと酷いことしてない??」


「ですので、本日はヒロト様の贖罪も兼ねてみっちりヘルブラム様に付き合っていただきます」


「無視するな。――というか、あれはどちらかと言えばカタストロとカトレイヌが悪いと思うぞ。あいつらの辛辣過ぎる発言で、ヘルブラムは凍りついちゃったんだから」


 確か‥‥‥"仲良しだと思い込んでいるだけ"だとか、"相手にしなくていい"だとか言われてたよな。


「それはいつものことです」


「可哀想過ぎるだろうが」


 平然と言うレベリアに恐怖すら覚える。なぜ魔王軍会議だとヘルブラムはああもぞんざいな扱いを受けてるんだ‥‥‥?


「時にヒロト様。お屋敷の中が少し賑やかな様ですが、どなたかいらしているのですか?」


 俺たちの背後にある屋敷は、先ほどからドタドタガタガタと軋んでいた。ターギーによるものである。レベリアもそれに気がついたらしいが――。


従者(メイド)様お得意の鑑定技能(スキル)で、最初から分かってたんじゃないか?」


 俺がそう問うと、レベリアは何かを諦めたようにため息をついた。


「‥‥‥ヒロト様、会話は"流れ"が大切なんです。話題が詰まることのないように、より広がるように、私は心がけているのですよ」


 目を瞑りながらゆっくり丁寧に言うレベリア。詰まるところ、俺に気を遣ってわざと知らんぷりをしていたようだ。


「そりゃどーも」


 前から薄々と感じていたがこの従者(メイド)、俺のことをだいぶ馬鹿にしているのではなかろうか?


 少し無知を晒し過ぎたかな‥‥‥。俺の魔王軍幹部としての威厳がまるで皆無のように思える。まぁそんなもの、端から微塵も興味ないけれど。


 それはそうと、ターギーについては説明しておかないといけないな。


「ウチで雇っている獣人のターギー君だ。今はティアナの指導の下、屋敷の掃除をしてもらってる」


「なるほど。他種族の者を雇うことで、支配圏の拡大を画策なさっているのですね。流石です」


「そんな悪役みたいなこと企んでないからね。俺人間だからね」


 まぁ魔王軍幹部という俺の立場は、世俗的に正しく悪役なんだろうけど。


「左様でございましたか。それは失礼致しました」


 ‥‥‥やっぱり俺のこと馬鹿にしてるよね??

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