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84話 シエルVS雷神

「おいおい‥‥‥こんなにデカいのかよ」


 ヒロトはドラゴンを見上げながら呆然とした。何せ、ドラゴンの片翼だけでヒロトの身長を優に超えているのだから。しかしシエルは笑みを浮かべている。


 暴風雨の中、ドラゴンは声を上げることなく静かにヒロトたちを見下ろしていた。その吐息はバチバチと光を伴っており、無言の圧を感じさせる。


「――さぁ行くよ、ヒロト!」


 構わず攻撃体勢に入るシエル。その背後で紫紺の魔法陣が輝いた。同時にドラゴンから距離を取るヒロト。


 ドラゴンは即座に飛翔した。そして大きく身体をうねらせると、そこに稲妻が纏い始めた。稲妻は尻尾に集中し、ドラゴンはそれをシエルに向けて打ちつけようとした。


 ――しかし赤い障壁に防がれる。ヒロトの境界壁(シールド)である。その間にシエルの攻撃準備が整った。ヒロトが境界壁(シールド)を解除したタイミングでシエルは唱える。


虚空(ホロウ)爆撃(ブラスト)!」


 魔法陣は輝きを強めるが何も出てこない。その数秒後――ドラゴンの身体が爆ぜた。


 実体を持たず、目に見えず、しかし対象に触れた途端に爆発する。シエルが独自に編み出した魔法属性――"虚空(ホロウ)"。


 魔法は見事にドラゴンに命中した――が、ドラゴンは大してダメージを負っていないようで、再びその巨体をうねらせた。


 稲妻を帯びるドラゴン。ヒロトはもう境界壁(シールド)を発動する素振りはなく、雨に濡れた自分の服を気にしていた。


 充分に帯電したドラゴンが尻尾をシエルに打ちつけようというところで、またシエルは唱えた。


「《五重奏(クインテッド)》」


 稲妻がシエルに及ぶより先に、ドラゴンが爆発した。シエルの背後には、さらに四つの魔法陣が現れていた。


 激しい雷鳴と雨音をも打ち消す爆音。その火力は先ほどの比ではなく、何度も何度も爆発を繰り返し、ドラゴンの巨体は大きく後方に吹き飛んでいた。


 シエルの自然技能(ユニークスキル)五重奏(クインテッド)》。魔法を五つまで重ね掛けして放つことができる技能(スキル)


「少しやり過ぎたかな!!」


 ヒロトの方を振り向き、大きな声で言うシエル。


「分かっててフラグを立てようとするなよ‥‥‥」


 ヒロトはため息混じりに言うが、雨音でシエルには聞こえていない。


 随分遠くなった爆煙の中から、ドラゴンは飛翔した。既に全身に稲妻を帯びており、その輝きは岩山一帯を明るく照らすほどだ。


「ほら、すっかりご立腹のようだぞー!」


「分かってる! さあ、ここからが本番だ〜!!」


 黒雲一面に雷鳴が轟き、雨風はシエルに向かって一気に強まった。あまりのそれにシエルは踏ん張り切れず、足が岩から離れてしまった。


「うわっ!?」


 風に飛ばされるシエル。宙で仰向けになるも、後転で体勢を整え、何とか岩に着地した。


 稲妻を纏ったドラゴンが向かってくる。速い。シエルは岩に掴まっておくので精一杯だ。避けられない。


「ヒロトー!!」


 ドラゴンはシエルの目の前で境界壁(シールド)に弾かれた。境界壁(シールド)は稲光に震える。シエルは無傷だ。しかし、ドラゴンの攻撃は突進だけではなかった。


 空から大量の落雷。雷は岩を撃ち砕いていく。堪らずシエルは移動した。雨風に乗って後ろへ後ろへと跳んでいき、落雷を回避する。


 ヒロトはというと、自身の全方位を境界壁(シールド)で覆い、見物していた。


 ヒロトの頭上の境界壁(シールド)に跳び乗るシエル。


「参ったね〜! 魔法使う隙が全然ないや!」


境界壁(シールド)を使うか?」


「‥‥‥いいや、もう少し頑張ってみるよ!」


 飛来するドラゴン。触れるスレスレのところでシエルは境界壁(シールド)から跳び降りた。


 また軽快に岩の上を跳びながら落雷を回避していく。ドラゴンも追いかけてきている。


 雨風には慣れた。もう足を取られることはない。あとはどうやってドラゴンを討伐するか‥‥‥。


 ドラゴンを尻目にシエルは考える。


 技能(スキル)込みの多段爆撃で仕留めることができなかった。かなりの装甲である。稲妻を纏っている間は速度も飛躍的に上昇しているようだ。


 今のドラゴンは稲妻を纏っていない。稲妻を纏った高速の突進には、何か制約があるのかもしれない。


「一つ試してみよう」


 シエルは逃げるのを止め、ドラゴンに身体を向けた。


 シエルが立ち止まったのを確認すると、ドラゴンは追うのを止めて身体をうねらせ始めた。


「それが攻撃準備ってことね」


 一つ、稲妻を纏うためには身体をうねらせる必要があると確認できた。


 シエルは魔法を発動しようとしない。じっとドラゴンの攻撃準備を待っている。


 ドラゴンの身体に稲妻が纏い、強く輝きを放った。そして突進を開始したタイミングでシエルは側方へ跳んだ。


 稲妻を伴ったドラゴンの高速突進により、岩が粉砕された。それは、つい今しがたシエルが立っていた岩だった。


「よーし、大体分かってきたよ!」


 一つ、稲妻を伴った突進は途中で軌道を変えられず、直線上にしか進めないことが確認できた。


 シエルは魔法の発動準備に入った。背後に光る紫紺の魔法陣。


「ゴオォォォォッッ!!!!」


 ドラゴンの雄叫び。これに呼応するように黒雲が呻き、落雷が始まった。


 雷は周囲の岩を撃ち砕くばかりで、シエルに命中しない。


「そうだよねそうだよねー!」


 一つ、落雷は照準を定めない無差別な攻撃だと確認できた。


 ドラゴンは身体をうねらせ、稲妻を纏う。


「ここが正念場だ!」


 ドラゴンが突進し始めると同時に、シエルはまた側方へ跳んだ。コンマ一秒と待たずにシエルが立っていた岩を粉砕するドラゴン。


 突進は回避できたが魔法を発動している最中だったため、シエルはバランスを崩して岩の上でよろけた。


 倒れかけながらも全力で唱える。


虚空(ホロウ)爆撃(ブラスト)、《五重奏(クインテッド)》!!」


 突進直後のドラゴンを幾重にも重なる爆発が襲う。


 倒れ行くシエルを、ヒロトの境界壁(シールド)が掬い上げた。


 雷雨の音をすっかりかき消してしまう爆音。そしてその中に霞む一つの叫び声。


「ゴゴガァァァァァァ‥‥‥‥‥‥!!!!」


 ドラゴンの断末魔と共に、一面の黒雲は消えていった。


 一つ、稲妻を伴った突進の直後は装甲が脆くなることが確認できた。


 岩山の頂に輝く太陽。急な天候の変化にヒロトは手で目元を覆う。シエルは境界壁(シールド)に倒れたまま笑っていた。


 ――雷神インパルスドラゴン、討伐完了。

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