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81話 技能とは

 俺がダラダラするためのソファーベッド、その中央に腰掛けて寛ぐカタストロ。カタストロの小柄さが相まってソファーベッドが一層大きく見える。


 俺は床で胡座をかいていた。尻が痛い。


「"技能(スキル)の話"って言ってたよな」


「ええ。ヒロト、あなたは技能(スキル)についてどのくらい知識があるの?」


「どのくらいって訊かれてもな‥‥‥。大別して自然技能(ユニークスキル)獲得技能(アッドスキル)があるってことは分かるけど」


 俺の回答を聞いたカタストロは拍子抜けしたように目を丸くした。俺、何か変なこと言ったか?


「‥‥‥じゃあ、自然技能(ユニークスキル)獲得技能(アッドスキル)の違いは何?」


 カタストロがそんなことを訊くので、今度は俺が目を丸くした。


「おいおい、その質問は俺をバカにし過ぎだって。自然技能(ユニークスキル)は全ての人が先天的に一つ与えられるオリジナルの技能(スキル)で、獲得技能(アッドスキル)は努力次第で誰でも会得できる技能(スキル)だろう? それくらい知って――」


「他には?」


「‥‥‥他?」


自然技能(ユニークスキル)獲得技能(アッドスキル)の違いよ。他には?」


「他に何か違いがあるのか?」


 頭上に疑問符を浮かべる俺を見て、カタストロはため息をついた。それから別の方を指差した。


「じゃあそっちの従者(メイド)。えっと‥‥‥」


「セシリーです」


「そう、セシリー。自然技能(ユニークスキル)獲得技能(アッドスキル)の違いは?」


 セシリーは俺たちから少し離れたところに立っており、全身が俺の境界壁(シールド)によって覆われている。


 この状態でセシリーは既に何度かカタストロと目を合わせているが、特に異変はないみたいだ。


自然技能(ユニークスキル)は、そこから派生して新たな技能(スキル)を会得することがあります。獲得技能(アッドスキル)はそれぞれで完結していて、変化することはありません」


「その通り」


 カタストロはうんうんと頷いている。俺には何を言っているのかさっぱり――と言いたいところだが、思い当たる節があった。セシリーの技能(スキル)がまさにその例に該当しているのだ。


 セシリーは自然技能(ユニークスキル)狂想曲(キリングリズム)》から派生した《殺傷空間(キリングフィールド)》という技能(スキル)を会得している。


 なるほど、"技能(スキル)の派生"というのは自然技能(ユニークスキル)にのみ起こるものなのか。人間サイドで生活してた時は少しも耳にしなかった話題だ。


「そして、自然技能(ユニークスキル)にはもう一つ特徴があるの。私が探し求めているものも、そこにある」


 カタストロは神妙な面持ちになってそう言った。何やら難しいことを考えているようである。高卒である俺の脳みそでは到底理解できない目的なのだろう。別に興味はないのだが――


「お前が探し求めるものって?」


 訊いてしまった。


 カタストロの表情がパッと明るくなる。嫌な予感がした。


「私が探し求めるもの。それは――」


 分かっていたはずだった。"俺はこれからとてもとても面倒なことに付き合わされるのだ"と。


「最強の自然技能(ユニークスキル)を手に入れること!!」


 ‥‥‥とまぁ、こう意味の分からんことを言う訳です。うん、別の意味で理解できない。


「えらく漠然とした探し物だな‥‥‥。さっきまでの思慮深さはどこに行ったんだ?」


「失礼ね。私は真面目に言ってるのよ」


 確かにふざけているようには見えないし、こいつはそういう性格(キャラ)でもない。


「‥‥‥それでつまり、分かりやすく言うと何がしたいのさ?」


「うむ、よくぞ訊いてくれた!」


 カタストロは嬉しそうにぴょんとソファーから立ち上がった。


自然技能(ユニークスキル)にもう一つの特徴があると言ったわよね。それは、"自然技能(ユニークスキル)進化する(・・・・)"ということなの」


「ちょっと待て。初っ端からもう意味が分からない」


 またまたおかしなことを言い出すカタストロに、俺は両の掌を突き出してストップコール。


 自然技能(ユニークスキル)が進化?? そんな奇天烈な話があるというのか? それじゃあ、まるで技能(スキル)が生きてるみたいじゃないか。


「一言に進化といっても、能力が全く変わる訳じゃない。技能(スキル)の練度を高めることで、"能力の解釈"を広げるの」


「能力の解釈‥‥‥?」


技能(スキル)の特性を理解すること。そして自分の手足のように、息をするように使いこなすことで、自然技能(ユニークスキル)は能力を広げていく!」


 両手を広げて、目を輝かせながら語るカタストロ。


 つまり自然技能(ユニークスキル)は、何かをきっかけとして劇的に変化するのではなく、使用者の地道な鍛錬により少しずつ能力の幅が広がっていくということだった。


「‥‥‥でもそれなら、カタストロはとっくに自然技能(ユニークスキル)を限界まで極めているんじゃないのか? 魔族って長生きなんだろう?」


 魔王軍は何百年という歴史があると聞いたことがある。カタストロはその中でも魔王軍幹部。嫌でも技能(スキル)を使いこなせるようになるはずだ。カタストロの技能(スキル)の能力だって、既に最強のように思える。


 しかしカタストロは首を横に振った。


「前提が間違ってるわ。自然技能(ユニークスキル)に限界なんてない」


「えっ、そうなの?」


「練度を高めれば高めるほど強くなる。――じゃなきゃ、魔王軍幹部が一度も入れ替わることなく何百年も領土を守り続けるなんてできる訳ないでしょう。幹部はみんな相応に強くなっているのよ」


 とても納得できる言い分だった。魔族だって十二分に強いが、魔王軍幹部の強さは確かに人智を超えている。


「その上で! 私は自分の自然技能(ユニークスキル)をこの世界で最強にしたいの!」


 カタストロの熱量がどんどん強くなっている。‥‥‥これ以上喋らせるのはまずいな。歯止めが利かなくなりそうだ。そろそろ手を打たねば。


 俺はうんうんと頷く。そして満足したように笑顔で立ち上がる。足早に玄関に繋がる扉の方へ向かう。そのままドアノブに手をかける。


「なるほどな‥‥‥、よく分かったよ。貴重な話を聞けて良かった。どうもありがとう。また今度面白い話を聞かせてくれ。気をつけて帰ってな」


 ガチャリと扉を開ける。


「何を言っているか分からないわ」


 真顔で言うカタストロ。俺は笑顔を絶やさない。


「今日は話をしに来たんだろう? ああ、とても楽しかったよ。夢中になるあまり、あっという間に時間が経ってしまったな。もう日が暮れる」


「一時間と経っていないわ。日もまだ高い」


 大量の冷や汗が俺の笑顔を滲ませる。


「まだ、何か用件がおありで?」


 今度はカタストロがニッコリと笑んだ。


「ヒロト、私と一緒に最強の技能(スキル)を追求するのよ!」


「‥‥‥‥‥‥」


 勢いに委ねれば或いは‥‥‥と思ったが駄目だった。


 ――そう、相手は魔族の中でも至高の実力を持つ魔王軍幹部の一角。これに絡まれて、ただの談笑だけで済むはずがなかったんだ。

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