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60話 魔界への順応

 魔王軍会議‥‥‥。聞いたことがない。もちろん参加したこともない。俺は幹部という職に就いてまだ間もないのだから。


 しかし魔王軍会議(それ)が俺にとって面倒極まりないことは容易に想像できる。


「その会議、パスとかできない?」


「できません」


 躊躇いのない即答。


「だよなぁ‥‥‥」


 ‥‥‥うーん、行きたくない。まず"魔王軍会議"って字面がもうヤバそうじゃん。魔王が「人間滅ぼします」とか言って、それに口答えしたヤツがその場で抹殺されて空気がピリつくみたいな展開ありそうじゃん。


 他の幹部もみんな来るんだろう? 魔王軍幹部は全部で十人だから、俺はこれからヘルブラムのように個性&能力が強過ぎる八人もの魔族と会うことになる訳だ。普通にキャパオーバーだろ。どんだけ一気に新キャラ増やすんだよ‥‥‥。


「ヒロト様、身支度の方を」


 セシリーが急かす。


「はいはい‥‥‥」


 気乗りしないことこの上ないぜ‥‥‥。



 ――嫌々ながらも俺はターギーに手伝ってもらって、服装や寝癖など必要最低限の身だしなみを整えた。そしていよいよ玄関のドアノブに手をかける。後ろにはセシリーとティアナ、そしてターギーが居る。


「はあ‥‥‥。まぁとりあえず、魔王城までの案内は頼んだぞ」


 俺がボサッとそう言うのだが、セシリーはなぜか眉をハの字にひそめて申し訳なさそうにこちらを見つめた。首を傾げる俺。よく見ると、セシリーたちは外に出る気配がない。


「今回は、幹部様のみで集合するよう命令されております。私共は同行できません」


「‥‥‥は? なんで!?」


 俺は絵に描いたように目を丸くする。魔界に入って魔王城まで俺一人で行くとか、生存率低過ぎるだろう! 領土を守る幹部様にもしものことがあったらとか、考えてないのか!?!?


「通常は我々従者(メイド)も同行させていただくのですが、今回は幹部様のお屋敷――もとい架け橋(ブリッジ)を堅守するよう承っております」


「ちょっと待て、架け橋(ブリッジ)って何?」


 ティアナの聞き慣れない言葉に俺はストップをかけた。魔族の専門用語なのだろうか?


「人界と魔界とを繋ぐ中継です。ここを制圧されてしまうと、魔界への侵入を許すことになります。本来魔王軍会議が行われる際には、幹部様が不在の間だけ、魔王様が全架け橋(ブリッジ)に強力な結界をお張りになります。しかし今回はそれだけの魔力を残しておられず、各領土の従者(メイド)に結界の代替として架け橋(ブリッジ)の堅守をご命令なさいました」


 セシリーは専門用語ありきの複雑な状況を人間の俺でも分かりやすいよう説明してくれた。もっとも、その内容は理解したくないものだったが。


 いつもは従者(メイド)もついてたのに、俺が幹部に就いた今回に限って幹部だけで集合って‥‥‥。新人幹部へのいたずらが過ぎるぞ、魔王様。


「‥‥‥けど、それじゃあ俺はどうやって魔王城まで行けばいいんだよ? 魔界なんてこの前行ったっきりで、何にも知らないからな」


「ご心配には及びません」とセシリーは首を横に振った。


「森を北に向かってまっすぐ進めば架け橋(ブリッジ)によって間もなく魔界へ入ることができます。魔界では、魔王城に勤めている従者(メイド)がご案内するとのことなので」


 ‥‥‥意外と幹部の安全は確保されているらしかった。従者(メイド)が案内してくれるのであれば安心だ。ヘルブラムとレベリアを見ればよく分かるが、従者(メイド)は幹部に比べればまだ常識がある。


 魔王様が住まう魔王城に仕えている従者(メイド)だ。その監視の目がある内は、会議中に他の幹部にちょっかいを出されることもないだろう。


「‥‥‥分かった。行ってくる」


「「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」」

「行ってらっしゃい!!」


 深く頭を下げるセシリーたちと大きく手を振るターギーを背に、俺は歩き出した。



 *  *  *  *  *



 相変わらず不気味な森である。確かここの空気は魔樹のおかげで魔素が濃くなってるんだったな。それを意識すると、なんだかセシリーに連れられてケルベロスと戦った時を思い出す。‥‥‥俺はほとんど戦ってなかったけど。


 それと同時に、ここの空気にもずいぶん慣れてきたものだと、時間の流れも感じている。まぁまだ長い時間を過ごした訳ではないが、色々あったからなぁ。


 俺も魔王軍幹部らしくなってきているということなのだろうか。これから向かう魔王軍会議。ここではさらにそれを実感し、より組織に浸透していくことだろう。


 それでも、ダラダラライフだけは死守させてもらうぜ魔王様。


 "お前の目指すものをここで実現させてみせよ"


 俺が幹部になると決まった時、そう言ったのはあんたなんだから。


 そうこうと物思いに耽っていると、辺りの景色が変わってきた。


 毒気のある紫がかった霧。針が刺すように冷たい空気。


 ティアナと魔界に行った時も、全く同じ感じだったな。人界と魔界とを繋ぐ中継――架け橋(ブリッジ)。あの時も今回も、それがこの現象を引き起こしていたんだな。


 ‥‥‥待てよ? "人界と魔界とを繋ぐ"?


 セシリーは、架け橋(ブリッジ)が制圧されれば魔界への侵入を許すことになると言っていた。架け橋(ブリッジ)を使わなければ、屋敷からどれだけ北に進んでも魔界にはたどり着けないのか。


 それはつまり、俺が知ってるこの世界と魔族が住まう魔界は、本来干渉できない全くの別空間ってことなのか?


 ‥‥‥魔界。なんかすげぇ怖くなってきた。


 というか、前回この霧に覆われた時は頭が真っ白になってたってのに、今の俺はずいぶん平気そうじゃないか。幹部らしくなってきているとは思ったが、あまりに順応が早くて不気味なくらいだ。俺はこのまま立派な魔王軍として悪役を極めていくことになるのだろうか‥‥‥?


 懸念が深く濃くなる一方で、霧は既に晴れつつあった。


「――あんたが新人幹部の"ヒロターセ"ね! 待ち草臥(くたび)れたわ!!」


 突然な、清々しいくらいの明るく張り切った少女の声。――おいおい、魔界に到着して最初のお出迎えがこれかよ‥‥‥。


「お城勤めの従者(メイド)さん――――なんて雰囲気じゃないよな‥‥‥」

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