46話 現れる太陽
勇者一党とダリアが兵士を率いるそれぞれの地でも、上位不死兵は出現し始めていた。
-アーベル一行-
兵士らが不死兵と戦闘を繰り広げる一方、アーベルは黙って技能による地図を見ていた。
何故なら、いずれ来るであろう異常事態に速やかに対応するため。
そして、まさにその時が訪れようとしていた――。
何かに気づいたアーベルは地図を展開したまますぐに動き出した。長刀の柄に手を当てるとそのまま岩の頂を足場にし、岩に絡まって戦う兵士と不死兵の上を跳び越えていった。
「――なぁ、今何かが頭上を通り過ぎなかったか?」
「ん? そうか?」
兵士らには一瞬のことだったので、何が起こったのか分からなかった。ましてやそれが、戦えないはずのアーベルによるものであるとは誰も思うまい。
不死兵の群れの上を駆けながらアーベルは唱えた。
「《挑発》」
その瞬間、群れの中から巨体の不死兵が何体も跳び上がった。――上位不死兵である。
アーベルが使った《挑発》は、周囲の敵の注意を強制的に引きつける獲得技能。《索敵》と組み合わせることで、対象を上位不死兵に絞ったのだ。
上位不死兵が姿を現したところで、アーベルは足を止めた。
引きつけられて跳び上がった上位不死兵らは、下位不死兵の頭を踏みつけてそこに立った。アーベルは、十数体の上位不死兵に囲まれた。
――アーベルは王国最強の剣士と謳われていながら、彼の剣技を見た者はほとんど居ないという。それには二つの所以があった。
一つは、あまりに対処が早く、常に他人が意識しない内に剣を振るっているから。
そしてもう一つは――
十数体の上位不死兵が一斉にアーベルに覆い被さるように攻撃を開始した。アーベルは完全に埋もれてしまったが‥‥‥
「――抜刀」
一瞬、たった一筋の波動が上位不死兵の周囲を駆け抜けた。
その直後、攻撃を仕掛けたはずの上位不死兵らは文字通り肉体を一刀両断されて散っていった。アーベルは、既に長刀を鞘に納めていた。
――もう一つの所以は、彼のたった一太刀で敵が倒れるからであった。
上位不死兵を倒したことを確認すると、アーベルはまた岩の頂を足場に下位不死兵の頭上を駆けていった。
* * * * *
-ユリウス一行-
広い平野で、兵士らは不死兵の軍勢と戦っていた。数では圧倒的に負けているが、遮蔽物がない平野は兵士らが戦いやすく、戦闘力では勝っていた。
だが、そこにユリウスの姿はない。
兵士らが戦っているよりももっと奥に並んでいる不死兵の軍勢。ユリウスはその中を一人で突撃していた。
すれ違うあらゆる不死兵を強力な剣撃で斬り伏せていく。彼の目的は不死兵を殲滅することではなかった。
「いつ出てくるかなー、親玉」
彼の目的は、不死兵を仕切る親玉と戦うことだった。あれだけの大軍を指揮するので、余程の強者であると踏んだのだ。
ユリウスがしようとしていることは、単に彼の欲求を満たすためだけではなかった。親玉を倒せば、それ以上不死兵が意図的に生成されることはなく、行き先を失ったそれらを容易に殲滅できるとも考えていた。
しかしユリウスの目的が果たされる前に、不死兵の融合は始まってしまった。
高速で不死兵の群れの中を進むユリウスだったが、不死兵の異変にはすぐに気づいた。
狭すぎたはずのスペースが急に広がった。ユリウスは一旦、動きを止めた。
「なんだ急に?」
周囲を見渡すと、不死兵は複数のまとまりを作っていた。そしてそれを闇が覆った。闇に囲まれて、ユリウスは気づいた。
「上位不死兵か‥‥‥」
すると一つの闇の中から突然"手"が現れ、ユリウスへ向かった。それは不死兵の手ではない。人肌である。
ユリウスは少しの躊躇いもなく、それをいとも簡単に斬り落とした――――――はずだった。
切り落とされた手は煙となって消えた。その闇から現れたのは上位不死兵ではなく、黒いフードを被った男。
ユリウスは笑んだ。
「あんたが親玉だな。だったら僕と――――」
言いながら、ユリウスは剣を上から振り下ろし、男を両断してしまった。
「遊んでくれない?」
「――遊んであげるよ。‥‥‥死ぬまで」
ユリウスは顔をしかめた。両断された男もまた、煙となって消えてしまったからだ。
気づけば、上位不死兵がユリウスを囲んでいた。先ほどの男は幻影にすぎなかったと理解した時、彼は怒りを覚えた。
ユリウスは手に握っていた剣を捨てた。
そしてもう一つの柄に手をかけ、鞘から僅かに剣身を見せた。それだけで、光と熱が空間を満たした。
「"太陽"を相手に高みの見物とは、良い度胸してるね」
光が収まると、ユリウスの周囲には何も残っておらず、ただ地面が黒く焦げていた。
だが上位不死兵はまだ無数に居り、またすぐにユリウスを囲んだ。
ユリウスは聖剣を抜いてしまうと、それを構えた。剣身は灼熱を思わせる赤を帯びており、熱を発している。
ユリウスは言った。
「本当の地獄を見せてあげるよ」




