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39話 訪れる獣人

「戦闘が始まったか」


 アズサは、空中に投影された映像で各転移先の様子を観ていた。アーベルが居る岩山以外の地でも、不死兵(アンデッド)との戦闘が始まっていた。


 今のところ問題はないらしい。それを確認すると、アズサは地面に新しく魔法陣を描き始めた。一つの疑問を解決するためである。


 勇者一党と兵士たちの転移先は、ダリアの情報に基づいて作成されたものである。様々な地形が混在しているので、不死兵(アンデッド)の戦力は必然的に分断される。


 しかし目的地が一つであるにしては、不死兵(アンデッド)の軍勢の進み方はまるで遠回りしているかのようで、あまりに広域に渡りすぎている。


 ――不死兵(アンデッド)の目的は複数あるのではないか。


 これを確かめるために、アズサは転移魔法を行おうとしていた。


 彼女にとって不死兵(アンデッド)の目的がいくつであろうがどうでもいい。しかし不死兵(アンデッド)の進軍の様子から、一部はクーゲラス森林へと進軍している可能性が高く、アズサはそれを阻止しようとしている。


「ウチの研究費は冒険者の活躍で賄われているといっても過言ではない。不死兵(アンデッド)どものおかげでその仕事がなくなってしまっては困るからな」


 アズサは自ら魔法陣の上に立った。






 *  *  *  *  *




 ヒロトの屋敷。


 ――他の人たちは今、どんなことをしているのだろう? そんな疑問がふと浮かんだ。


 冒険者たちは魔獣どもと必死に戦っているのだろうか。地球のみんなは仕事や勉学で忙しいのだろうか。


 そう考えていると、ますます自分の置かれた状況が幸せであると感じる。


 なんとなくソファーに寝転がって、何かする訳でもなく、ゆっくりと確実に過ぎ行く時間。無駄と言われれば無駄でしかないこの時間。


 ――これすなわち"ダラダラ"。俺にとって至福の時。


 あぁ、幸せだ。誰かに見張られることもなくただダラダラすることが、こんなにも幸せだったなんて。


 この時間をくれたティアナには感謝しなくてはな。それにティアナたちは今、不死兵(アンデッド)の討伐をしてくれている。


 本当にすごい従者(メイド)だ。‥‥‥見張ってるのもその従者(メイド)だけど。


 そうして幸せを再認識した俺が寝返りを打った矢先。


 ――――ガタガタ。


 玄関の方から何か音が聞こえてきた。ドアを開けようとする音だろう。‥‥‥えっ。もうティアナたち帰って来ちゃったの? もう不死兵(アンデッド)殲滅してきちゃったの?


 ――――ガタガタ。


 不死兵(アンデッド)ってそんなに弱いモンスターだったのか? もう少し時間かかってもよかったと思うんだけど‥‥‥。


 ――――ガタガタ。


 まぁしょうがない。無事に帰って来れたならそれでなによりだろう。少しでも有意義なダライフを過ごせたことに感謝しよう。


 ――――ガタガタ。


 ――――ガタガタ、ガタガタガタガタガタガタガタ‥‥‥


「――うるさいわぁぁっっっ!!」


 俺は堪らずソファーから起き上がった。一体どれだけドアを揺すれば気が済むんだ。鍵が開けられないのか? いや、従者(メイド)に限ってそんなはずない。


 ダラダラを打ち切られたのも相まって少し機嫌が悪い俺はしかめっ面で玄関に向かった。


「‥‥‥ん?」


 ドアの向こうには、一つの影。どうにもティアナやセシリーではないらしい。一体誰だ? ヘルブラムではないだろう。あいつにドアを揺するなんて律儀なことできるはずがないし。


 まさか来客? 実はここ、魔王軍幹部の屋敷であると同時に喫茶店を営んでいたとか? 知る人ぞ知る、的な。


 ‥‥‥そんなジョークを思う暇があるならドアを開けてやるべきだろうと、俺は考えるのを止めてドアノブに手をかけた。


 押しやるドアの向こうに佇んでいたのは、なんと犬のような耳――通称『ケモミミ』を生やした青年であった。


「あっ、どうも初めまして! 俺の名前はターギー=フラウド!」


 俺と顔を合わせるや否や自己紹介を始めた青年――ターギー。ケモミミに、ふさふさの尻尾。普通の人間よりも少しがっしりとした肉体。どうやら獣人らしい。角度のある力強い眉と真っ直ぐな瞳からは、彼の情熱のようなものがガンガンと伝わってくる。


 ‥‥‥うん、ところでその情熱は一体、何に対するものなのだろうか。俺、一応魔王軍幹部という肩書きなんだけど。もしかしてその事実を知らないでここを訪れているのか?


「お、おう。こちらこそ初めまして。俺はヒロトっていうんだけど‥‥‥俺のことはご存知?」


 少し圧倒されながらも自己紹介と確認を兼ねて行った俺の言葉に、ターギーは自信のある表情で頷いた。


「もちろんさ! 魔王軍の幹部様だろう?」


 ターギーは俺が魔王軍幹部であること、すなわち訪れているこの場所が幹部の屋敷であることを承知だった。で、だとすればやはりその情熱は何なのだろう?


 魔王軍って普通、みんなから恐れられるもんだよな‥‥‥? このターギーという青年にそんな様子は一切窺えない。むしろ逆。胸を張り、自身を持っている。


 もしかして同じ組織の人だろうか。 ヘルブラムのように"新任の幹部に会いに来た"とか。だとすれば同職員のことを知らない俺ってば超失礼じゃん。


「あの、申し訳ないんだけど俺は君のこと知らなくて‥‥‥」


「だろうな!」


 ‥‥‥ん、それも承知なのか。


「君は、魔王軍の関係者‥‥‥?」


 俺が尋ねると、ターギーは目を丸くした。


「まさか! そんな訳ないだろう? 俺は獣人。魔王軍とはこれっぽっちも関わりないよ」


「ははっ」と爽やかに笑う青年ターギー。


 お、おう‥‥‥。これっぽっちも関わりないのか。じゃあ何者なんだよ。


「えっと‥‥‥ターギー君だっけ。 魔王軍幹部に一体何の用だい?」


 待ってましたと言わんばかりに姿勢を整えたターギー。


「単刀直入に言おう」


 固唾を呑む俺。そして青年は言った――

















「ここで働かせてほしい!!」

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