34話 緊張のない作戦会議
新章です。これから三万字くらいでこの章をまとめられたらなと思ってます!
「僕は死神。人の生死は、僕が決める」
黒いフードを深く被った男。その周囲には、死を否まれた骸骨の兵士――不死兵が溢れていた。
男がある方向を指差すと、不死兵の軍勢は一斉に進軍し出した。
カツカツと骨が擦れ合う音を鳴らし、歩を進める不死兵の軍勢。彼らに意思はない。ただ、主の指示に従い動くだけ。そして、主の目的は――。
「勇者一党も、魔王軍幹部も。断罪する時が来た」
――大きな戦いが、始まろうとしていた。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
レグリス王国。その中央区に聳え立つ城の王室に、勇者一党は集まっていた。
「――それでダリアさん。わざわざ僕ら全員を集めて、一体全体何事ですか?」
そう尋ねたのはユリウスだった。
勇者一党はそれぞれが強力な冒険者であり、その全員が集ってクエストに向かうことはごく稀だ。
王国兵士団の兵士長であるダリアは、国の外でクエストを嗜む冒険者のことをあまり良く思っていないが、勇者一党の実力はよく理解している。その上でダリア自らが勇者一党を召集したので、ユリウスにはそれが不思議だった。
ダリアは一つ頷き、事情を説明した。
――近頃、"クエストに出向いた冒険者が骸骨の化け物に遭遇した"という話がよく国家の上層部に流れてくるらしく、ダリア率いる兵士団が調査を行った。
「そそ‥‥‥それで、何があったのだ!?」
国王が怯えた形相で調査結果をダリアに催促した。「落ち着いてください」とダリアは一声かけて、言った。
「調査の結果、出所不明の不死兵の軍勢を確認した」
すると国王は青ざめて、膝からブルブルと震え出した。
「あ、ああ、不死兵じゃとぉ!? 何故この国を襲うんじゃぁぁ!!?」
ダリアはため息をついた。
「王よ、まだ不死兵の目的がこの国だと定まった訳ではありません」
勇者一党を傍らにしても国王の早合点は直らないか、と落胆していたのだ。
「しかし不死兵か。厄介なことになったらしいな」
「なぜそのようなことが起こったのでしょうか‥‥‥?」
アーベルとミーリアはそんな反応だったが、アズサは違った。不死兵にもその所以にもまるで興味を示さずに、ただ一つ尋ねた。
「数は如何程だ? 千や二千程度ならウチの魔法で消し飛ばせる。それで話は終わりだろう。ウチは研究に忙しいんだ」
アズサは何よりも自分の研究が優先で、勇者一党の一員でありながら国を守ることには積極的でなく、今回も例外ではない。早いところ事態を終結させようと考えている。
冒険者をあまり良く思わないダリアだが、アズサがそんな態度であっても、彼は至って冷然であった。何故なら――
「現在把握できている数は――――――――十万」
何故なら、冒険者らは自らの生活を維持するためにも、必然的に国を守らなければならないからだ。
勇者一党は目を丸くした。
「じ、じじじじじじじじ‥‥‥‥‥十‥‥‥万‥‥‥!!」
国王は口を震わせ後退りしながら、玉座に腰を抜かして気を失った。そんな国王を眺めながら、ユリウスは言った。
「なるほど。それは確かに、僕たち勇者一党が全員であたる必要がありますね」
ダリアは頷いた。
「私も兵を連れて不死兵の討伐に向かおう」
「兵士長も戦ってくれるんですか。‥‥‥久々に面白いものが見れそうだ」
不敵に笑むユリウス。
「ユリウス、あまり思い出に耽るほど状況は芳しくないはずだ」
アーベルは半ば呆れ顔で言った。「分かってる分かってる」とユリウスは適当に返事した。一方で、ミーリアは表情を曇らせていた。
「それにしても、十万の不死兵ですか‥‥‥。かなり骨が折れそうですね」
「数字がデカすぎて想定しがたいな。不死兵が群れをなすことさえあまり耳にしないというのに。この事態は、何者かによって意図的に行われているものだろう」
アズサはそう推理した。
普通、不死兵とは、死んだ人間や動物の肉体に怨念や魔力が宿ることで、生物をひた襲うモンスター。不死兵に殺害された生物もまた不死兵となり、暗闇を徘徊し続けることになる。
目の前の生物を殺害すること以外に意思を持たないはずなので、ある地点を目指して進み続けることも、群れをなすこともできないはずなのだ。
「魔王軍幹部の誰かだな。一年前のあの日以来、魔王軍の動きは大きくなってきている」
「引きこもりの魔王様は、いよいよ僕たち人間を滅ぼしに来てるのかもね」
アーベルとユリウスはそういう見解だった。
「今は原因の解明より、目先の戦闘に集中すべきではないのか?」
ダリアが声をあげると、忽ち場は静まり返った。するとユリウスはわざとらしく言い出した。
「ごもっとも。今回ばかりは勇者一党全員で協力して――」
「ウチは万が一に備えて王国付近に魔法陣を展開しておこう。後はお前たちでなんとかできるだろう」
言わせまいとアズサがそれを遮った。肩を落とすユリウス。
「今回も一緒に戦ってくれないの?」
「ウチは戦うために勇者一党に入った訳ではない。ましてや、馴れ合いをするためでもない。心配せずとも、転移魔法で不死兵の近くまで連れていくくらいはするさ」
「‥‥‥それはどーも」
――こうして、出所不明の不死兵を掃討することになった勇者一党。彼らはまだ、予想だにしていなかった。この戦いは想像を超えて壮絶になることを。
