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26話 調査結果

 レグリス王国の北東区、住宅街から少し離れて聳える塔。そのすぐそばの地面には、巨大な魔法陣が描かれていた。塔の扉の前で、勇者一党の一人であり古代魔法の使い手である少女――アズサがその魔法陣を眺めていた。


 魔法陣は上方に光を放ち、辺り一帯を包み込んだ。そしてその光の向こうに、徐々に影が浮かび上がった。フードを被っているアズサは何かを期待するように、影に訊いた。


「死んではいないだろうな、ユリウス?」


「――面白い冗談だ。これで僕が死んでいたら、この国もおしまいだろうね」


 光は薄れていき、魔法陣の上にはユリウスが立っていた。五体満足のユリウスを確認すると、アズサはつまらなそうに塔の中に入った。ユリウスは後をついていった。


 この塔は、アズサが"勇者一党に加入する"という条件でギルドから提供された研究施設である。円形の室内は壁一杯に細かく文字や図が記された紙が貼り付けられており、その壁を伝うように配置してある台には禍々しい色合いの液体が入ったビンや複雑なデザインをした装置などが羅列していた。


「良いデータは取れた?」


 あちこちを不思議そうに見回しながらユリウスは尋ねた。いつの間にかフードを脱ぎ、台に向かって何やら書き込むアズサはため息をついた。


「データ一つで全てが決まる訳ではない。‥‥‥が、今回は極めて正確なデータを得ることに成功した。お前の要望にも応えているので義理はないが、一応言っておこう。感謝する」


 ユリウスは微笑んだ。


 アズサは基本的に自分の研究にしか興味がない。彼女が勇者一党への加入を了承したのも、国王が諸々の研究費を免除したためであり、魔王軍の討伐にはそれほど積極的でない。


 アズサが勇者一党のメンバーと関わることはあまりない。それ故にたとえ研究が関与しているとしても、彼女が勇者一党に協力したという事実がユリウスには嬉しかったのだ。


「それで、そちらの目的についてはいかがだったのだ? 幹部がどうとか言っていただろう」


「おや、興味があるの?」


 意外そうにアズサのことを見つめるユリウス。アズサは手を止め、言った。


「お前がここにいる理由は本来ない。話題を広げてやっているだけだ。そもそも監視していたので大体のことは把握している。話さないのであればさっさと消えてくれ」


 研究のため、アズサはユリウスのことを監視していた。しかしそれはユリウスを中心とした景色を客観的に見ることができるだけで、現地の音などの情報までは得ることができない。


「話します話します。だからそう見放さないでよ」


「フン」と言ってアズサは再び手を動かし始めた。


「魔王軍幹部は新たに配属されていたよ」


「ほう‥‥‥。やはりお前が話していたあの男が幹部だったのだな。つまり魔王は、幹部を任せるに足る人材を多く有している可能性が高いということか」


 アズサの推測に、ユリウスは首を横に振った。


「あの幹部は少し弱すぎる。幹部を一人失って魔王軍も落ちぶれたんだろう。――いや」


 ユリウスが少し黙ったことに、アズサは振り向いた。するとユリウスは、不敵な笑みを浮かべていた。


「あれが本来の魔王軍なんだ。あいつらは大した連中じゃない。あくまで一つの集団に過ぎず、人間の脅威にはなり得ない。僕なら魔王軍幹部を三人はまとめて倒せるね」


「‥‥‥素顔が出ているぞ、勇者ユリウス」


 ユリウスは、自分であれば魔王軍を壊滅させることができると思っている。それまで勝利が不可能だと思われていた幹部の一人を討伐することに成功し、世間から高く評価されたためである。ユリウス以外の勇者一党メンバーも、魔王軍を壊滅とまではいかないが、ある程度の自信は持っている。


 しかしアズサは違った。


「ウチが勇者一党に入ったのは幹部襲撃の後だから詳しくは知らないが。これまでお前たちの戦闘を見た限りでは、到底幹部を倒せるようには思えないな」


 アズサは魔王軍幹部が襲撃した時も研究に没頭しており、勇者一党との戦闘を目撃していない。また噂を信じないため、勇者一党の持つ自信が理解できなかった。


「アズサはまだ僕のことを知らないだけさ。どうだい? 僕の話をするついでに食事でも」


「噂は信じない主義だが、世間様から高い評価を得ているお前のことを知るのも悪くないかもしれんな。‥‥‥しかし生憎、今は別の研究に忙しい」


 そう言ってアズサは自分の作業に戻った。


「それは残念。共に戦う仲間なのだから、もっと仲良くなりたかったんだけどな‥‥‥」


「ウチはそんな理由で勇者一党に入ったのではない。それより、調査結果を報告せねばならないのだろう?」


「そうだった」とユリウスは手をパチンと叩いた。そして塔の扉を開けようとすると。


「――その必要はない」


 ユリウスが触れる前に扉が開き、男が現れた。――レグリス王国を守る兵団、その兵長を務めるダリアであった。ユリウスは意外な人間と出会ったので、少し驚いた。


「兵長さんじゃないですか。お国を守るお忙しい兵長さんに、日を跨がずに二度もお会いできるなんて。もしかしてこの国は平和ですか?」


「ここを訪れたのもその平和のためだ。ユリウス、お前に頼みたいクエストがある」


 ユリウスは目を丸くした。国を守ることなどいざ知らず外の魔物退治に勤しむ冒険者たちのことを酷く嫌っているダリアが、ユリウスにクエストの依頼をしたいと言うのだから。


「それは僕じゃないと駄目なんですかね? 僕は魔王軍を壊滅させることを責務とする勇者ですので、そこら辺の冒険者にできる雑事を押しつけられても困りますよ」


 ユリウスはあまりやる気ではないようだった。


「あのなぁ、師弟関係をここに持ち込まないでくれ」


 アズサは呆れ顔で作業を続けたまま答えた。しかしダリアは首を横に振った。


「いいや、これはユリウスだけではない。勇者一党へのクエストだ」

第4章 動き出す勇者一党 -終-

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