第2話
私は目の前に広がる光景に驚いていた、そこにはアニメやゲームなんかでよく見るこれぞファンタジーといった感じの異世界が広がっていた。
「はぁ...」
今日から私達の第二の人生が始まると思うと少し緊張してくるがそれ以上に楽しみでしかたない。
「はぁ......」
私は隣りでため息を吐き続けている黒猫の方を振り向いた。
「大丈夫?お兄ちゃん」
「終わった...」
お兄ちゃんはこの世界に来る際、手違いで猫の姿になってしまった。
「こんな姿でこれからどうやって生活すればいいんだよ...」
「猫の身体ってどんな感じ?」
「よくわかんないけど視点が低い以外は普通だよ」
「へぇ猫の視界って白黒って聞いたことあるけど違うんだね」
「その辺は人間と一緒みたいだな」
猫と言っても外見だけで中身は人間基準なのかな?
「それよりもお前こそなに?その格好」
「え?」
私はお兄ちゃんに言われて自分の身体を確認した。さっきまで学生服を着ていたはずの私は如何にも冒険者と言った感じの服を着ていた、青を基調とした服に動きやすいハーフパンツ、革でできたブーツに硬そうな胸当て、買ったら幾らになるだろうか。
「それにその背中の剣...お前だけずるくね?」
「背中の?全然気がつかなかった」
背中には大きな両手剣が背負われていた、こんな重そうな剣を背負っていて気づかないなんてなにか肉体強化でもされているのかもしれない。
「俺なんて見た感じこれだけだよ...」
そう言ってお兄ちゃんは首を少し上げた、首には鈴の着いた赤い首輪がされていた。
「本当に猫扱いなんだね...ドンマイ」
「はぁ俺の異世界生活が...」
「それよりもこれからどうする?」
私達はこの世界に来たばかりで勝手がわからない、とりあえずは拠点作りと情報収集が今のところの目標だろう。
「拠点ねぇお金ないでしょ?」
「じゃぁ情報収集かな、こういう時は...ギルドとかな?」
「お前ギルドとか知ってるんだな、もしかしてRPGとかやってた?」
「まぁちょっとね」
「よし、じゃぁ行くか」
引きこもりのお兄ちゃんをどうにかしたくて始めたゲームだったけどこんなところで役に立つとは思わなかった。
私達は適当な人にギルドの場所やこの街の周辺の情報を聞きながらギルドへと向かった。
ギルドにはたくさんの人が集まっていた、屈強な男だったり杖を持った女の子だったり、きっと彼等は冒険者なのだろう、そんな彼等を横目に私達はギルドの受付へと向かった。
「あのぉーすみませーん」
「はーい」
受付の奥からスーツっぽいきっちりした服を着た女性が出てきた。
「本日はどうされましたか?」
「冒険者になりたいんですが、今日この街に来たばかりでなにも分からず...」
「そういうことでしたらおまかせください」
「ありがとうございます」
「それではまずこの魔道具に手をかざしてください」
そう言ってお姉さん黒い石版のような物を取り出してた。
「この魔道具はあなたのステータスや覚えたスキルの確認や職業を決める魔道具です」
スキルに職業とはまさに異世界って感じだ、今からなんのスキルを覚えるか楽しみだ。
「はぁぁぁぁ......」
隣りでさっきより深いため息を吐いているお兄ちゃんを無視して私は魔道具に手をかざした。
魔道具に光で文字が浮かび上がってくる、見たことない文字だがちゃんと理解できる、この辺はアイリスが配慮していてくれていたみたいだ。
「これは!?」
受付のお姉さんが驚いたような声を上げた、なんかまずい結果でも出たのかな?
「どうかしましたか?」
「ちょっとこの職業の欄を見てください」
言われた通りに私は自分の職業を確認した、そこには職業『勇者』と示されていた。
「勇者と言うのは冒険者の上位互換なんです、普通は冒険者が何年もクエストを行い上級モンスターを討伐し続けてようやくなれる職業でいきなり勇者と表示されたのは初めてで」
「それってなにかまずいんですか?」
「いえそんなことはありませんよ、即戦力は大歓迎ですので」
「そうですか...」
どうやら私はなにもしてないのに勇者になったらしい、普通勇者って言ったら凶悪なモンスターから街を守った人なんかに与えらるべき称号だと思うのだけど、私なんかがいきなり勇者を名乗っていいのだろうか?
「はぁ......」
「いつまで拗ねてるの?」
「どうせ俺は異世界に来てもグータラしてるだけの猫ですから、勇者様の命には分かんないだろうけどねぇ」
「そうだお兄ちゃんもこれやってみなよ」
「別にいいよ、期待できないし...」
「まぁいいからいいから、すみません試しにこの子で試してみていいですか?」
「構いませんが、恐らく反応しないと思いますよ」
私は拗ねたお兄ちゃんの手、基前足を魔道具にかざした、魔道具は私の時と同じように光の文字を写し出した。
「えーと、職業『魔獣』だって、お兄ちゃん魔獣なの?」
「いや知らないよ、こんな可愛い猫のどの辺が魔なんだよ」
「すみませんこの魔獣ってどういう意味ですか?」
「えーとですね、本来猫に限らず普通の動物には魔力はありません、ですがその猫ちゃんには魔力が通っているだから本来なら反応するはずのない猫に魔道具が反応したということ...だと思います」
「要するに?」
「この猫ちゃんは魔法を使うことができるかもしれません、それにここを見てください」
お姉さんは魔道具のスキルのところを指さした。
「この猫ちゃんは既に幾つかスキルを覚えているみたいです」
「マジかよ...」
「覚えているスキルは『超嗅覚』『超聴覚』『索敵』『回避』の四つみたいです、猫らしいと言えば猫らしいスキルですね」
お兄ちゃんのスキルは攻撃系ではないもののサポートとしては充分に使えそうなスキルだった。
「ちゃんと使えそうなスキルでよかったね」
「魔獣の中には人間のように攻撃魔法を使ってくる魔獣もいます、この子も教えれば攻撃魔法を使えるようになるかもしれません」
「しゃぁぁぁぁぁ!!」
さっきまで拗ねていたお兄ちゃんも自分に伸び代があるとわかって機嫌を直したようでよかった。
こいしてギルドへの登録は終了し、私は勇者ミコトとして、お兄ちゃん魔獣タマキとしての冒険が始まるのであった。
ご愛読ありがとうございました