第1話
俺、"望月 環"には"望月 命"という妹がいる。
俺達はお世話にも仲のいい兄妹とは言えなかった、というのも俺は半ば引きこもりのような生活を送っている、妹としてはこんな情けないのが兄なんて認めたくないのだろう、気が付けば俺達兄妹の間には壁が出来ていた。
(まぁしょうがないよな...)
俺だってこんなやつが家族にいたら嫌気がさすだろうし避けたくなる気持ちも分かる。全部自分の責任だ。
俺がリビングのソファで寛ぎながらテレビを見ていると、ガチャと玄関のドアが開く音がした。
帰ってきたの命だった、普段は極力顔を合わせないようにしていたのだが今日はいつもより早く学校から帰って来てしまた。
「はぁ...」
俺の顔を見るなり露骨に嫌そうな態度をとる命、分かってはいたがそうも態度に出されるとさすがに来るものがあるな。
「ご飯...」
「な、なにですか?」
急に話しかけられた俺は変な返答になってしまった。
「今日の晩御飯...どうするの?」
「あぁ晩御飯か、あるもの食べるからいいよ」
「あっそ」
両親は家にいることがほとんどなく家事は基本的に妹がやってくれている。俺はというと家にいるのになにもしていない心苦しさから妹の料理は断ってコンビニ弁当やインスタント食品ばかり食べている。
(そろそろ戻るか...)
俺がリビングを出て部屋に戻ろうしたその時。
ゴゴゴ...となにかが軋む音がした、床も不安定でリビングにある家具が動いてるのが分かった。
「地震か?」
地震の揺れは徐々に増していきスマホの警報もなり始めた。
「ちょっとやばくね?」
「やばいかもね...」
俺と命はとりあえず机の下に隠れたが揺れは一向に収まる気配がない、それどころか揺れは増していく一方だ。
「きゃっ!」
リビングに置いてあった花瓶が落下してそれに驚いた命が悲鳴を上げた。
「命、もうちょい内側に来い」
俺は少しスペースを開けて命を内側に移動させた。
「あ、ありがとう...お兄ちゃ...」
ガシャン!
「命!!」
妹が何かを言おうとした瞬間、天井が崩れ落ちてきた、机は落ちてきた瓦礫の重さに耐えきれず俺達は瓦礫の下敷きになっりそのまま気を失ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お......ちゃん!おに...ちゃ...!」
目を覚ますと妹が泣きながら俺に寄り添ってくれていた、兄らしく頭でも撫でてやろうかと思ったが身体が全く動かない。
「命は大丈夫か?」
「身体は大丈夫みたいだけど...」
命は見た所外傷はないみたいだけどどこか歯切れが悪い。
「お兄ちゃん身体は動く...訳ないよね」
「うん、ちょっといや大分痛い」
「見たら分かるよ...」
そう言って妹は俺の上半身を少しだけ上げて身体を見やすいようにしてくれた。
「は?なにこれ?グロ!」
足が普通曲がらないような方向に曲がっていた、切り傷なんかも多くて血だらけだでマジでグロかった。
「もう身体が重いとかいう次元じゃなねーよ物理的に動かないよ」
「こんなんじゃもうサッカーできないね...」
「そうだな...サッカーなんてやってないけど」
命は凄い深刻そうな顔で言っているが別に俺とサッカーにはなんの関係もないし俺はどちらかというと野球派だ。
まぁ命なりに元気づけてくれたのだろう、おかげで少し落ち着けた。
「というかここどこだよ?」
自分の身体のことで精一杯で気づけなかったが俺が今寝かされているここはどこだろう?
「わかんない...天国っぽくないから地獄かもしれない」
「地獄かぁ...は?なに俺達死んだの?」
「むしろそんな状態で生きてるわけないじゃん、私も別にまるっきり無事ってわけじゃないし、めっちゃ頭痛いよ」
「マジかよ...」
俺が死んだことを告げられ落胆していると突然上の方から声が聞こえてきた。
『目覚めるのです...環様、命様、目覚めるのです...』
「もう起きてます...」
『え?あぁ、おはようございます』
ピカっと上空が光ったかと思うと20代後半くらいの女の人が目のやり場に困るような服を来て降りて来た。
「なにこの半裸のお姉さん」
「...痴女?」
『違います、私は女神アイリス、あなたがたを救いに来ました』
「女神だからって半裸な理由にはならないよね?」
「趣味なんじゃない?女神界隈ではああいうのが流行ってるんだよ」
『そんなに気ななるなら着替えますからちょっと待ってください』
そういうとアイリスの身体は発行し布の面積が多い服に変わっていた。
「人前で着替えるとか変態じゃん」
「痴女だな...」
『どうしても私を痴女にしたいんですね』
「すみません、これでも結構焦ってるんで、冗談言ってないと精神的にキツいんですよ」
「冗談だったの?」
「半分はな...」
『半分は思ってるんじゃないですか、まぁいいです自分が死んだなんて言われたら焦る気持ちも分かります』
「あぁやっぱり俺達死んだんですね」
『えぇ、あなたがたは瓦礫の下敷きになって死んだのです』
「それで、私はこれからどうなるの天国?地獄?」
「子供は両親より先に死んだら地獄行き確定みたいなこと聞いたことあるけど」
「えぇ、私それなりに真面目に生きて来たのになぁ」
「なんだっけ?賽の河原?石を積んでは崩されるってのを永遠と続ける罰じゃなかったかな」
「なんでそんな詳しいの?キモ」
「お兄ちゃんがなにもしないで引きこもっていたわけじゃないだよ、学力では負けてもトリビア、雑学には俺自信あるよあとキモとか言うな」
家にいる間、ネットサーフィンばかりやっていた俺は雑学だけは豊富なのである。
『あのぉー私を無視して話を進めないでください、お二人とも地獄行きじゃないですよ』
「天国ってなにがあるの?」
「知らね」
『だから二人だけで話を進めないでくださいって言ってるじゃないですか、天国でも地獄でもないです、また雑談されても困るのでもう言っちゃいますがあなたがたは別の世界に転生してもらいます』
アイリスが半ば無理矢理説明してくれた。
「「転生?」」
転生ってあれだよな?アニメとか漫画でよくあるあれだよな?
『性格には生まれ変わるわけではないので転移ですかね?まぁどっちでもいいか』
「この女神テキトー過ぎない?」
『あなたがたのせいで疲れました、正直説明するのがめんどくさいです』
「「すみませんでした」」
その後、機嫌が治ったアイリスは異世界について説明してくれた。
『環様、命様、あなたがたにはこれより異世界に飛んでもらいます、リスキルみたいなことにならない為にそれなりの力を与えますが悪用はしないでください』
「女神様リスキルとか知ってるんだ...」
『命様はその身体のまま行ってもらって大丈夫なのですが...そのぉ環様はー』
アイリスはあからさまに言いづらそうにしている。
『ごめんなさい、ここは所謂精神世界的なアレなので身体は治せそうにありません』
「え?じゃぁ俺このまま送られるの?」
「起きた瞬間地獄の苦しみが...」
「やめて!想像したくないからやめて!」
『そのですね、別の身体を作ってそっちに入れ替えることはできるんですね、それにあたって環様にも少し協力して貰うことになるんですが』
「わかりました、俺はなにをすれば?」
『自分が身体を想像してください、ある程度そのイメージを元に私が身体を再構築することになります』
「了解です、想像するのは全裸の方がいいですか?」
『あっお願いします...服は私が適当に見繕うので』
「見栄張っちゃダメだよ」
「...分かってるよ」
(ちょっと思ったけどな)
『それでは目を閉じて...自分の身体を思い浮かべてください』
そう言うとアイリスは優しい声で語りかけてきた、催眠系のASMRみたいだ。
『あなたの顔は?あなたの胴体は?腕や足の形状は?』
以外と難しいな、自分の身体ってどんなのだったけ?
『安心してください、ある程度はこちらで修正できますから』
「もうちょい顔は平たくてー鼻も高すぎかなぁ」
「ちょっと命は黙っててくれ」
(顔...身体...手足......)
『その調子ですもうすぐ完成しそうです』
(顔...身体...手足...顔...身体...手足...)
「猫飼いたかったなぁ」
(顔...身体...手足...猫...顔...身体...手足...猫!!)
『完成しまた!環さん新しい身体です...あれ?』
目を開けるとさっきまで動かなかった身体が動くようになっていた。
「お兄ちゃん...?」
『環様...?』
二人の顔が明らかに引きつっていた、俺の身体が治ったんだからもう少し喜んで欲しいものだ。
俺はとりあえず身体を起こしたが、なんだか視点が低い、二人の足下しか見えない。
するといきなり身体が宙に浮いて妹の顔が目の前に現れた。
「どうするのこれ?」
え?なにがあったの?もしかして人体錬成失敗した?
「なんか言ってるみたいだけど?分かる?」
『ちょっと待ってください通訳の魔法を使います』
『あぁ環様聞こえますか?』
「聞こえてるよ、なに?人体錬成失敗したの?」
『えぇ、あのぉーはい失敗しましたという人体じゃないです』
「は?意味わかんないだけどちゃんと説明してよ」
「見た方が早いんじゃない」
『そうですね...環様コレを見てください』
そい言うとアイリスは手鏡を取り出して俺が見えるように差し出した。
鏡には黒くて細身な猫が映っていた。
「なにこの猫可愛いじゃん...ん?猫?」
『はい...猫です』
「猫だね」
「ちょっと待って俺猫になったの?」
どうやら鏡に映っている猫は俺のようだ。
「ふざけんな今すぐ戻せ!作り治せ!」
『無理です...1度作り直した身体はもう1度死ぬまで作り直せません、まぁあっちの世界で死んだらこんどこそ成仏ですが...』
「マジかよ...終わった」
『変わりと言ってはなんですがおふたがたはそれなりに高待遇で送らせて頂きますのでどうかお許しください』
「まぁ可愛いからいいじゃん」
「ていうかさっきお前がいきなり猫飼いたいとか言うから」
「人のせいにしないでよ、お兄ちゃんに集中力がないからでしょ」
『あのぉ喧嘩はおやめください』
「痴女女神は黙ってろ!」
ブチンっと女神様の堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた気がした。
『もう知りません!!それではおふたがた良い旅を!!』
「おいマジかよ...」
「あっ通訳の魔法はこのままでお願いします」
『あ、わかりました』
地面が光出したかと思うと俺達の身体は浮き始め、みるみる上へと上がっていき、俺達はそのまま雑な感じに異世界へと送られたのだった。
ご愛読ありがとうございました