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番外編  ギルド騎士の優雅な一日

 ギルド騎士。それは、秩序を守る騎士。街に、村に、あるいは王城にて平穏を司る聖なる騎士。

 

 彼らにとって朝は、早い。

 朝四時から起きて、訓練。それぞれ前衛、中衛、後衛に特化して汗を流す。

 その後はたっぷり二時間――同僚と組み手だ。剣と剣、槍と槍、あるいは火炎魔術に雷魔術を打ち合わせ、軽く調子を整える。


 その後は朝食だ。簡素なスープや燻製肉など栄養と腹持ちを備える食事を終えてから、また訓練。

 集団戦や個人技、拠点制圧など、さらに二時間を訓練に費やして朝九時になったら、その日の『ウォーミングアップ』は終了。

 正式な活動となる。


 各自今日のスケジュールを確認。遠征する者なら支度をする。

 迷宮巡回ならおおよその探索者の把握、騎士宿舎待機ならチェスやトランプ、エロ本などを巡って、各自小さな争いを起こす。


 これがおおよそ朝九時半。

 中でも、花形と呼ばれる任務は迷宮巡回だ。


《迷宮》とは魔物の巣窟のため命の掛かる危険な地。

 そこを探求する探索者たちは強者だが時折不足の事態に陥る。

 装備の不備、思わぬ罠、特進種の出現、探索者同士の諍い……一歩間違えば死へ直行する危険性がある。


 ゆえに彼らの安全を確保するため、白銀金属ミスリルの装備に身を包み、勇ましく、ギルド騎士達は巡回する。


 地下数千メートル、幅数百キロメートルにも及ぶ地下大迷宮。

 その内部を巡回するため、当然、簡単ではない。

 魔術を駆使し、《遠視》や《遠聴》、《遠話》などと用い、危険箇所を割り出す。

 危険に陥った探索者を発見し次第――滑走や《転移》魔術などを用い、適宜対応していく。


 ギルド騎士とは、大陸から集められた腕利き、あるいは名門の武家出身、稀に元犯罪者、元探索者などから輩出される。

 最高峰の武力集団だ。

 人生の大半を『戦闘』関連に費やすため、実力は折り紙つき。下手な探索者パーティ集団よりも強力と言われている。

 よって、彼らにとって武力とは、何よりも誇るべきものであり、自分を支えるものであり、世の中に貢献する上での武器と言えるものだった。


「あー、肩凝った凝った、やー、疲れたわー」


 広々とした騎士待機場にて。都市ギエルダ、第三ギルド騎士隊、《二級》騎士アンナは、片脚を組んで休んでいた。


「おいアンナ、お前また武器の手入れ怠ったろ。隊長が怒ってたぞ」


 同じく《二級》騎士、オルンが対面の席で渋面のまま言う。


「だってさ、昨日は徹夜で迷宮巡回してたんだもん。いいじゃんちょっと怠けてたくらい」


「そういう訳にはいかない。俺達はいつ、どこで任務を要請されるかわからないんだ。常に武器は手入れしておけ。任務に出て困るのはお前の方だぞ?」


「大丈夫だって。ミスリル装備は何もしなくとも自動で修復されるし。あたしがやる事はないよ」


「だからってだな。臭いまでは消えないんだぞ? お前の愛剣、ゴブリンだのオークだのを斬ったせいで悪臭漂ってるぞ。あとお前自信が臭いが」


「それ先に言って!?」」


 やれやれ、とオルンは嘆息する。

 こんな彼女でも戦いに出れば百戦錬磨、ハイオークだのハイゴブリンだのといった、中級魔物も容易く斬る女傑だ。器量よし、家柄良し、胸はでかい――は余計として、唯一惜しむべくは面倒がりなこと。

 彼女のせいで武器庫の管理人は泣いたり怒ったり色々とトラブルを起こしたりするのだが。

 何とかならないものだろうかと思うしかない。


「やれやれ。そのうちお前に臭いが移って、『悪臭のアンナ』とか渾名されたらどうすんだ?」

「いやそれは問題よ。だって第六迷宮《水殿》で洗うから」

「おい待て。水しかない迷宮で自分を洗うだと? お前面倒がりにも程があるだろう」

「だって、それが一番よ。それに、スライムとかって、斬ってたら自然と綺麗になるのよ?」

「本当かよ? そんな理由でぶった切られるスライムに同情する……いや、割と本気で」


 肩をすくめて溜息を吐くオルン。テーブルに乗った紅茶の味を楽しみつつ、そう言えば、と話題を変える。


「それよりも知ってるか? 近々、西方のエルドラド大陸で大規模な迷宮狩りが行われるらしいぞ」

「へー、それってどんな内容?」

「お前も知っての通り、今この大陸では『楽園創造会シャンバラ』とかいう組織が動いて、騒ぎになってるだろ?」

「なってるわねー。この前の、『青魔石事変』、あたしも戦闘ばっかりで大変だった」

「だろう? それでだ、危機感を抱いた《探索者》や傭兵が、この大陸を出て西の大陸へと移った。でも運悪く、そっちの方では『希少種』や『特進種』の出現が多発するようになった。このままじゃ初心者はおろか、中級探索者ですらまともに探索が出来ない……ということで、四大大陸ギルド合同で、討伐隊を編成するらしいぞ」

「へえ……」


 『希少種』、『特進種』、どちらも類稀な能力を持つ強力な魔物たちだ。一般の探索者はおろか、上級の探索者でも仕損じることもある。

 そこで、救助専門のギルド騎士の出番というわけだ。


「あっちはそんな事態になってたの? おっかないわねー」

「まあな。でも裏を返せばそれだけの規模の魔物を狩れば、色んな宝が出るわけだ。『魔石』やら『素材』やら、人類にとって有益な物資も出るわけで。だから迷宮攻略に役立てるから、ある意味チャンスではあるな」


 アンナは自分の髪の先をいじりながら問いかける。


「それで、オルンは呼ばれてるの? その遠征に」

「まさか。俺ら《二級》騎士以下は、いつも通り支部で留守番だろ? 行けるのは各支部のエースを務める《一級》ばかり。ま、例外的にヒーラーは呼ばれる事もあるらしいけど、俺らにはほぼ関係ないって」

「ふうん」


 組んでいた脚を組み替えアンナは返事をする。女性騎士はミニスカートを着用している者もいるため、アンナも付けているため、白い太ももが眩しく映える。(スパッツは穿いているが)


「でもさあ、それなら――ん? ほぼ関係ない?」

「そう、ほぼ関係ない」

「ってことは少しはあるわけ?」


 そこでオルンは含み笑いをしてみせた。


「ああ、遠征で《一級》の方々が留守ってことは、一級訓練施設も使い放題ってわけだ」


 ギルド内にはランク付けがされている。騎士や職員、人員にランク付けをする他、武具や食事、施設など様々なものにもランクが付与されている。

 《一級》の訓練施設ともなれば、限りなく戦場に近い訓練も可能。中には、レアな魔物と対決するような、半分娯楽、半分訓練といった事も出来るようになっていた。

 ただし、それらは数が少なく、基本《一級》騎士が独占しているのだが。


「ダイヤモンドスライムとか、プラチナドレイクとの演習とか、したくねえ? この機に凄えレアな魔物との戦闘、してみたくはないか?」

「したいわね。間違いなく」

「だろ? っていうわけで、一級の方々が行ったら、俺ら一緒にやってみねえ?」

「やってみたい! 楽しみ」


 ギルド騎士。

 それは、日々の平穏を支える、縁の下の力持ち。

 不真面目な態度の騎士も、血なまぐさい話題な好きな騎士も、根底は同じ。

 そこに暮らす街や、人々を守りたい。そのために、命を懸け、修行をし、剣を、魔術の腕を磨く。


「あ、その前にちょっとシャワー浴びようよ。……一緒に入る?」

「ドアホ! 痴女ってる暇があれば訓練してろ、訓練!」

「分かってるわよ。さあ休憩終わったらさっそく練武場行こっか? 試したい剣技あるのよ」

「付き合うぜ。俺も新しい闘技を編み出したからな」


 どこまでも訓練馬鹿。けれど、平和のために戦う。それがギルド騎士の実態であり、街が守られている要因でもある。

 彼らのおかげで、都市は、街の平穏は、保たれている。 



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