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番外編  破壊のあとの再生

「よーし、よし! 瓦礫をうまく運べ! いいぞ!」


 都市ギエルダでは、復興作業が進められていた。

 忌まわしい、『青魔石』による事件。その爪痕も、徐々にだが薄くなっていった。

 

 創られた物は、いずれ壊れ去る。

 それが故意であれ、災厄であれ、形あるものはいつか必ず失われ、破壊される。

 そこに悲劇も生まれるだろう。あるいは、絶望も生まれるかも知れない。

 けれどそこには、一つの希望がある。否、一つと言わず、いくつもの――果てない希望が。

 人の命や建物――形あるものには儚さが付きまとうが、どれほど苦境でも人は立ち上がる。

 それこそ人の強さ、そして人の営み。『破壊からの再生』――それこそ人間のもつ、一つの強さだ。

 

「だから、左から来る集団を避けて置くんだよ! ミスるんじゃないぞ、うお、だから資材近寄りすぎぃ!?」


「棟梁! 頼まれた荷物ですけど、どこに置けばいいですか? あっちですか? それも向こう――え? もうそれはいいって?」


「くそ、店の修繕、どうしようかな。前と同じ様相か……それとも新しく造るか……?」


「ギルド騎士の鎧の破片は高く売れる! バレねえうちに拾え拾え! 今のうちに!」


 じつに逞しい人々が、街の様々な場所で声を上げていた。

 貧乏人から金持ち、探索者、行商人……そして乞食から流れの傭兵まで。

 再興のために多種多様な人々が、それぞれの戦場で叫びを上げていく。


〈うわ~、すごいね、いつの間にこんな……〉


 その一角。ここ数日で《浮遊術》によって瓦礫撤去に勤しんでいたいた幽霊少女、メアは、ふと驚きと共に呟いた。


〈三日前までここは更地だったのに……もうこんなにまでなってる! すごいね!〉

「まあ、確かにね。大通りはすでに機能を回復して、市場が開催されているみたいね。街の顔がいつまでも壊れたままじゃ寂しいものね」


 一緒に作業を手伝っていた少女、テレジアが笑って応じる。『レストール家』の使用人の一人。

 そしてもう一人の使用人、少年マルコが口々に言う。


「うん、すごいのは彼らもだけど、統制しているギルドもだよ。彼らにも被害はあったのに、すぐに体勢を立て直して、街の復興に力を入れている。よく組織されてる。凄い力だよ」


 ギルドマスター・グランや、参謀長レベッカを始めとして、『ギルド』の面々は復興の援助へ全力に乗り出している。

 中でも《一級》と呼ばれるギルドの人間が、街に戻った影響は大きい。その作業は格段に効率が良くなり、超常の《魔術》で一夜にして建物が《復元》された所も多いとか。

 

 それとは別に、一般人が自力で『店』を復活させてもいる。何よりその中で驚きなのがアイスやクレープなど、嗜好品がすでに売られていることだ。

 生きるのに必ずしも必要ではないそれらが売られているということは、曲がりなりにも街が安定し始めた証拠だ。至るところでまだ破壊の爪痕は残っているが、道端で、あるいは公園で、楽しそうにアイスやクレープを食べる人を見ると、心が和んだ。


〈うわ! あのアイス、美味しそう! あたしも食べたいな〉

「でもメアさんは幽霊だし食べられないから、匂いだけってことになりそうだけど」

「あはは、代わりに私たちが食べたりしてね」


 きょろきょろとメアが辺りを見渡す。


〈でもすごい、あちこちで平和な光景が出始めててる。まだあちこちが壊れているけど、元気が伝わってくるね〉


 事件直後、半壊状態だった街は酷い有様だった。それだけに、メアの感慨もひとしおだ。

 《浮遊術》で寝る間も惜しみ、(というより幽霊なので眠らなくとも良いが)資材を浮遊させて運んだメアからすれば、嬉しさも倍増だろう。


〈修復の手伝いをしたら特別報酬が出るって言ってたけど、あたしたちも貰えるのかな?〉

「そうらしいわね。リゲルさんが言うには、余裕があれば全部終わってからもらって欲しいって事だけど……今はとりあえず作業お手伝いね」


 特別報酬とは、ギルドに『ギルドカード』を見せて随時貰える『報酬』のこと。

 専門の部署に行くだけで『ギルドカード』に記載された作業内容が自動的に表示されるので、手続きは簡単だ。

 メア、テレジア、マルコたちはここ数日、あちこちで復興支援をしたばかりのため、高価な『装備』や、各種アクセサリ、嗜好品なども貰える立場にある。


「ただまあ、『装備』に関しては、リゲルさんにもらった方が早いよね」

「そうね。私も癒杖エレミーラとか貰ったけど、これ十分強力よ? お店で買うなら、金貨300枚以上するもの」


 マルコの言葉にテレジアが苦笑する。


「そうね。それを『袋』から出して『はいこれ、あげる』とか言うリゲルさん、半端ないわ。あたしも色々『アクセサリ』貰ったけど、最初びびっちゃったもの」


 冗談ではなく真顔で『金貨数百枚分』の装備を貰ったときは笑顔が固まったものだ。


 あれから数日経ったのでもう慣れたが。『この人の金銭感覚どうなってるのかしら?』とテレジアは思ったものだ。


 命の恩人とも言える【合成】使いの少年なので感謝や尊敬は多いが……たまに『マジで!?』と驚くことも多い。


 テレジアがふと思い出す。


「あ、そう言えば昼食まだ食べてないわよね。どこでご飯にする? 確か西通りにお店が復活してたわね」

〈あ、じゃああたし、その間に《浮遊術》でその辺の瓦礫撤去続けておくね。もう少し進めたいから〉

「いや、メアさん、あなた働きすぎだから」


 マルコの突っ込み。

 と、そんな会話をしている途中であった。


「くう~ん」


 可愛らしい子犬が、彼らのもとへにすり寄ってきた。

 まだ子犬と言える大きさだ。毛並みは立派でよく手入れされているのがwかある。


 一瞬、メア達は驚いたが、すぐに気がつく。

 飼い主らしき女の子が、慌ててやってきたためだ。

 まだ12から13才くらいだろうか。あどけない顔立ちが印象的だった。


「あ! す、すみません! 目を離した隙に……! だ、大丈夫ですか?」

「うん、平気。……元気な犬だね。お嬢さんの?」


 マルコに問われた女の子は、嬉しそうに答えを返した。


「あ、はい! 壊れた家の隙間で見つかったんです! 心配してたから嬉しくて……いま、散歩させているんです」

「……そうなんだ、良かったね」


 命を拾った犬の境遇と、その飼い主である女の子の心情を察し、マルコ達は小さく微笑んだ。

 自分たちも『青魔石』のおかげでずいぶんと酷い目に遭ったものだ。だからその気持ちはよく分かる。


 やがてぺこぺことお辞儀をし、離れていく女の子の後ろ姿を見送ると、テレジアが柔らかく微笑む。


「壊れたものもある……けれど、残ったものもある。これからね、この街は」

「そうだね。僕達と同じく、新たなスタートだ」


 メアが空中で浮遊しながらも頷く。


〈やっぱり、人って悲しい顔より笑顔が素敵だよね! あたし達も、用が済んだらペット探しとかしてみようか!〉


 失われたものは、ある。

 それはもう決して取り戻せない。

 けれど――決してそれで終わりではない。破壊の対に再生があるように。

 絶望の果てには希望がある。

 輝く太陽に照らされた町並みには――確実に、復興へ向け、進む希望が見えていた。



お読み頂き、ありがとうございます。

次回の番外編の更新は8月17日(土)になります。

以後、二週間ごとに更新します。

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