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第五十六話  そして新たなる戦いへ ~ギルド会議~

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

さて、長かった本編二章、通称『青魔石編』も、残すところあと二話となりました。

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。

久々の新作であり、作者としては色々と思う所はあったのですが、改めて色々と勉強になりました。これからも精進致します。


さて本題となりますが、残る二話で、物語は一区切りがつくため、予定通り毎日投稿から不定期投稿へ移りたいと思っております。

元々、本作は二章までは読者の皆様の反応を見て、その後のストーリーを組み上げる予定でした。

ここまで頂いた感想、評価、ブックマークなどを踏まえ、より面白く、より楽しめるよう物語を練り上げたいと思っております。


そのため、読者の皆様には申し訳ないのですが、今後は第三章が完成次第、投稿を再開したいと思っております。

(もちろん、番外編として、何話かサブエピソード的なものを投稿をしたりはする予定ですが)

それと、設定が結構多くなってきたので、まとめ的なもの(リゲルやミュリーのステータス、魔物の情報など)も投稿する予定です。


他にも新作を考えているため、おそらく三章投稿は9月以降になると思うのですが、予めご了承下さい。


五十話以上に渡って、拙作を読んで頂き、ありがとうございました。

感想、評価、ブックマーク、そして誤字脱字報告をして頂いた方々、本当にありがとうございます。大きな励みになりました。


より良い物語を創るため、アーデルとの決戦編へ向け、三章、四章、それ以降まで全力で取り組んでいきたいと思っております。

ここまで拝読して頂き、ありがとうございました。


それでは今日の第56話、そして明日の第57話、最後まで楽しんで頂ければ嬉しいです。

 ユリューナとの決戦を終え、地上へ出たリゲルたちは、ギエルダの街の平穏を確認していた。


 すでに、全ての戦闘は終わっている。『青魔石』停止の詠唱が成されたのだろう。

 多くの衛兵や、ギルド騎士達が走り回り、半壊した建物や家屋の除去にあたっている。

 避難していた住民たちへの補佐も行われ、復興への始まりが開始されていた。

 もはや爆炎や雷光が飛び交うこともない。半魔物化した『青魔石』使いや、怨念じみた唸りや叫びはもうない。街は今――ようやく平穏を取り戻しかけていた。


 もっとも、完全な平和には程遠い。

 何しろ街は多数の『青魔石』使いの暴走によって半壊状態だ。

 地下のシェルターやギルドなどを除けば、修復は不可欠。崩れた建物や倒れた木々、砕けた広場の噴水、散乱した壁や破片、武具、教会……数ええば被害はきりがなく、あちこちで衛兵やギルド騎士の声が飛び交っている。


「おい! その資材はこっちに運べ! 危険だぞ!」

「くっそー俺の馴染みの店が潰れてる! なんて事だ!」

「あーあー、せっかく立てた店が……ちくしょう立て替え出来んのこれ?」

「そっちはまだいいだろう? こっちなんか自宅が全壊だぜ?」


 怒れる声があれば嘆く声あり。すれ違う衛兵や騎士たちの間では、様々な感情が飛び交っていく。

 けれど、どこか皆が希望を持って事にあたっていた。


「リゲル殿!」


 そんな中、ふとリゲルが気づけば、瓦礫の山々の向こうから、大きな影が近づいて来る。

 ギルドマスター・グランだ。いかつい顔にいくつか擦過痕を残した彼は、レベッカ参謀長を伴い、真っ直ぐ向かって来る。


「無事に黒幕を倒したようですな、何よりです」

「グランさんこそ。ご無事で何よりです。街は元に戻りそうですか?」

「時間さえかければ。――それにしても《首謀者》を倒して頂き、感謝致します。部下から朗報が知らされました。街は救われました」


 すでに青魔石使いの中で暴れている者はない。皆、ユリューナの語った呪文により、停止している。

 グランの顔には、安堵と感謝の色があった。


「そうですか、それは良かった」

「すでに『青魔石』使いの多くは保護し、ギルドに連れております。これも全てリゲル殿のおかげですな、数々の奮闘、勲章ものですぞ」

「あはは……いえ、僕の力だけではないです。メアやマルコ、テレジア、護衛の騎士の皆さん……彼らのおかげです」


 実際、一人ではユリューナは確保出来なかっただろう。

 彼女を殺す事は出来たとしても、確保までは至らない。そもそも、街壊滅までには間に合わない。おそらくは全滅し、悲惨な状態になっていたに違いない。

 今こうして全員が再会しているのは、彼らの尽力の賜物だ。


「いえ、それでも貴方がした事は称賛に値します。何しろ、街一つ救ったのですからな。……近々、ランクアップの通達もされるでしょう。あなたは今後『ランク黒銀ブラックシルバー』となる」

「……本当ですか?」


 リゲルは驚いた。

 ランク黒銀と言えば、『上級』とも言って差し支えない、立派な実力者扱いだ。

 今までは下から二番目、『青銅』だったため、立派な二段階昇格である。

 今回の騒動の功労が高く評価された結果だろう。


「さらに、『ネビュラ勲章』も授与される事が検討されております。これが成れば、『特権探索者』として活動される事が許されるでしょう」

「っ! ……それは、嬉しい事です」


 『特権探索者』とは、特に目覚ましい活躍を経た探索者に送られる、特権階級者の名称だ。

 《迷宮》での宝具の発見、ギルドへの高い貢献、あるいは複数の犯罪組織などを撲滅など、輝かしい活躍をした者へ送られる。

 これにより、武具屋での割引、各種オークションでの優先権取得、臨時ギルド騎士の貸し出し、王侯貴族へのパーティの招待、優良武装の贈呈など、様々な特権が与えられる。

 まさに破格の待遇と言えた


「ありがとうございます。これでミュリーにも自慢出来ます」


 ランク黒銀、加えて『特権探索者』ともなれば、利用出来る施設やサービスを受けられる店も格段に増える。

 ミュリーには、美味しい物でも食べさせよう――早くも心が躍るリゲルだった。

 ひとしきり言葉を交わした後、レベッカが前に出て、騒動の報告をする。


「いいでしょうかー? 現在、ギエルダの街の主区画は被害報告と負傷者救出の最中ですー」


 レベッカは手元の羊皮紙を見ながら、


「街の住民は基本的に無事、基本は地下シェルターへ非難していたため、被害は軽微です。ただ青魔石使いは念のため、全員を確保。ギルドへ移送し、暴走の後遺症の検査を行います。マルコさんも検査の対象なので、後ほどご同行をー」

「了解です」


 《パラセンチピード改》の持ち主であるマルコが、テレジアに支えられながら頷く。


「とは言え、当面の危険性はないと思って良いでしょう。帰還した《一級》解析官によると……『青魔石』は使用している限り魔物化が進むらしいですが、一度手放せば暴走はリセットされるらしいですねー。その様子だと、決戦でも問題なく使用出来たようですし……まあでも、念のための検査です」


 レベッカがマルコの魔力を見ただけで看破する。

 さすがは《一級》の軍師だ。

 そして《一級》の解析官と言えば、解析にかけては右に出る者のいないエリート集団だ。

 マルコも彼らに任せれば不安はないだろう。

 ひとまずの朗報を受け、マルコもテレジアもほっと息をつく。


「それで、リゲル殿? 結局黒幕は何者だったのですか?」


 グランの問いかけに、リゲルは《マンイーター》の触手で縛っていたユリューナを前に差し出した。


「これがその黒幕になります」

「彼女が?」

「はい。名前は『ユリューナ』、地下に潜伏していた精霊です。青魔石事変と、その実験台の『仮面』の配下、その創成の実行犯です。第八迷宮《砂楼閣》の脇道、その奥の神殿に潜伏していました」


 その場の全員の視線が、縛られたユリューナへと注がれる。

 くすぐられたり泣いたりして、割とだらしない格好だったが。

 不遜にも、ユリューナは薄く笑い、


「ふん、人間の組織の長ですか。いつの時代も、みすぼらしい顔は変わりませんわね」

「ほう」


 減らず口を叩くユリューナだが、グランは涼しい顔。


「掴まった分際で随分と傲岸だな。我が灼熱の魔術の餌食になりたいか?」

「そそそ、それだけは勘弁を!?」


 早くもボロが出た。

 ハリボテのような威厳である。


「さて茶番はこれくらいにして。『青魔石』などの創成を彼女が? ……とすると、これが主導で騒動を行ったと?」

「いえ、彼女はあくまで『実行犯』のようです。実際に魔術を駆使し、『青魔石』などを考案したのは組織の幹部らしいです。彼女曰く、『上』に言われ、『精霊宝具』を用いて創成したと」

「組織……そして精霊宝具ですか。なるほど、その『精霊宝具』など事実とするならば、詳しい調査は必須でしょうな。――して、その組織とは?」

「わかりません、彼女は下っ端なので詳細は不明ということです」

「下っ端言うなですわ! 誰を前にそんな事を言うんですの!?」


 と声が聞こえたが、皆聞こえなかったことにした。

 リゲルは一瞬だけ言葉を吟味し、続ける。


「ユリューナを派遣した組織……名を『楽園創造会シャンバラ』と言うそうです。その組織は『青魔石』創成を目論見、実験のため魔物の力を再現した『仮面』も創成……それが、今回の『青魔石事変』を引き起こし、混乱を招いた元凶です」

「『楽園創造会シャンバラ』だと……? レベッカ支部長、聞いたことはあるか?』


 レベッカは一つ頷き、しばらく思案した。


「んー。確か、昔あった伝説の『結社』ですねー。およそ八百年前、隣のオルディーア大陸などで暗躍した、秘密結社の名です。いくつかの街と国を壊滅させ、多大な犠牲者を出したとか。――当時、『一流』と言われた探索者数十名によって、滅ぼされたと聞いていますがー」

「古き結社か。そのようなカビの生えた骨董組織が、今更なんのために?」

「さあ? 当時の記録は少ないので詳細は不明ですー」


 リゲルは一瞬、アーデルがこの名を出していた事を伝えようかと迷った。

 しかしそうなれば《六皇聖剣》だったことも明かさねばならないし、それによるリスクも増す。


 現状、この街にアーデルの『刺客』や『監視』がいないとも限らないのだ。

 最後の《六皇聖剣》、アルリゲルが生きて《探索者》となっている――そうなればアーデルはきっと襲いかかってくるだろう。

 現在の状況でそれはデメリットが大きい――自分も、そして仲間も休養と準備が必要だ。

 折を見て、リゲルはアーデルと自分の『身分』を明かそうと考えていた。


 リゲルはしばらく思案すると、選別した情報を明かす。


「ユリューナ曰く、『近々、大規模な作戦があるから人類は終わる』らしいです。ただそれについても詳細は不明で、ただ計画があるらしいだけだと」

「なるほど……それについては改めてこの精霊へ尋問しましょう」

「ひえ!?」


 ユリューナが怯える。


「じつにやりがいがありそうですねー。ふふ、水攻めとくすぐりとエッチな拷問……どれがいいですかねー」


 レベッカ参謀長が笑って語った。割と本気の目だ。


「あわわわわわ!? やめてくださいまし、それだけは!」

「ま、ともあれ、リゲル殿、ご苦労様でした。ゆっくり休息を」


 一通り労い、しかし直後、グランは苦笑する。


「――と、そう言いたいのは山々ですが、我々にも余裕がなく。まずギルドへ赴いて頂けますか? 各地の救助や補佐役が山のように必要でして……差し支えなければ援助願います」

「構いません。僕も街の住人ですし。――メア、ミュリーには戻るの遅くなるって伝えてくれる?」

〈うん、判った、ごちそう用意して待ってるよ!〉

「頼むね。――さ、行きましょうグラン支部長、レベッカ参謀長」


 幽体ゴースト少女が浮遊し森へ向かっていく。

 戦いは終結した。

 しかし、新たな戦いが待っている。

 救援と、復興という長い戦いが。

 リゲル達は一息つき、新たな戦いへ挑むべく、歩を進めていった。



†   †



【報告書――レベッカ・アルティール 都市ギエルダ・ギルド支部参謀長】


 今回、《ロードオブミミック改》を発端とする『青魔石事変』は、精霊ユリューナの捕縛という形で幕を下ろした。

 首謀の組織名が判明したが、詳細は不明。

 精霊ユリューナの証言によれば、『楽園創造会シャンバラ』を名乗る組織が首謀と思われる。

 八百年前に壊滅したはずの組織が何の目的で活動を再開したのか、あるいは同じ名を語る何者かが暗躍していたのか、現状では全て不明。要調査。

 実行犯であるユリューナについては、ギルド支部へ連行。連日、《一級》拷問官による拷問を続けている。


 街の被害報告は以下となる。

 全壊、四千六百二十一。――半壊、一万五千九百七。――軽微、六万八千四百七十二。

 衛兵、死亡者四十四名、負傷者七九六名。騎士、死亡者十一名、負傷者、二百三十四名。

 一般人の被害、調査中。全街の被害額、調査中――。

 多大な被害と言える。他都市との連携は不可欠。


 回収した『青魔石』は多数。中でも、《ロードオブミミック改》をはじめとする、高ランクの青魔石は、封印。研究中。限定的だが、戦力として運用出来る可能性もあり。こちらも要検証。

(これについては別記報告――『元ボルコス伯爵家の使用人、マルコの証言』を参照。

『パラセンチピード改の戦闘』および『青魔石の運用性』について、項目を参照されたし)

 なお、現状では『青魔石』は、ギルド地下封印室にて封印済み。活動が停止した状態で、《一級》封印官のもと、安全性の確立まで保管とする。


・逃亡者について。

 『青魔石事変』の最中、三名の青魔石使いが逃亡した。

 監獄脱走者の『バセル』。

 衛兵の『べオール』。

 中流ホスト店員の『ローグ』。および、彼に魅了された『女探索者』数名が、行方不明。周辺地域でも目撃例が多数。その後不明。

 おそらく、ユリューナの解除の文言の前に逃亡を図ったか、文言後も活動が可能になったため行方をくらませたと考えられる。

 ユリューナの『青魔石停止』の文言が唱えられれば、青魔石は活動停止するはずだが、彼らは例外のようだ。

 推測だが『青魔石』の影響が高まり、文言後も活動可能になったものと思われる。


 青魔石による『魔物化』は、一定まではユリューナの支配下にあったが、『進化』が進んだ場合、支配を逃れ、『単独』で活動可能になった考えられる。

 いずれも《ブラッドレイク改》、《ダースユニコーン改》、《インキュバス改》と、強力な『青魔石』使いと言える。早急な対策、かつ発見が望まれる。捜索隊としては、《二等》騎士十五名を派遣したが、報告待ち。一刻も早い発見が望まれる。


 また、『楽園創造会シャンバラ』の調査としては、ギルド内に『調査本部』を設置する事を提案。

 ユリューナから得た情報をもとに、本格的調査を行う事が目的。

 本調査対象としては、『レストール家』、第八迷宮《砂楼閣》、および『青魔石』と、仮面創成の『地下神殿』を主調査するものとする。

 

 追記。

 ユリューナの証言により、近く『楽園創造会シャンバラ』の大規模な侵攻がある事が予測される。

 当ギルドは戦力を強化。他支部からの応援要請、その他対策本部による指針のもと、各自行動していく事を提案する』



†   †



 ――『青魔石事変』から三日後、都市ギエルダ・ギルド支部、『大会議室』――。

 広大な空間に多数の人間が円卓を囲っている。白銀の装飾の中に幾多の強者たちが身を連ねる。


「さて。レベッカ参謀長やギルドマスターらの活躍により、街はかろうじて全壊を免れたわけだが、問題は山積みと言える」


 議長を務めるサブギルドマスターが、声も高らかに言い募る。


「我々が受けた被害は甚大だ。街の施設、人材、信頼……様々な分野において復興は不可欠。早急なる行動が望まれる」


 壮麗な鎧に身を包む一級解析専門官、《千里眼》、ブレイザー・アルメールが口調硬く言う。


「然り。街の被害もそうだが、『楽園創造会シャンバラ』への調査には気を張らねばならないな。あれは、極めて厄介だ」


 円卓に座る十名ほどの幹部を前に、彼は苦々しく語る。


「かの組織は、我がアルメール家の先祖の宿敵。数百年前、壊滅に手を焼いた組織だ。仮に復活が事実だとすると、強大な部隊に、強力な戦術……あれらは脅威に値する」

「左様。伝承によれば、『楽園創造会シャンバラ』は魔王、聖人、剣聖……その他数多の強力な存在を要していたとある。大陸に甚大な被害をもたらした、危険なる組織。今日こんにち、資料が少ないのが悔やまれるが……警戒してし過ぎるという事はあるまい」


 一級ギルド騎士第三部隊隊長、《幻魔》のファルドラーが断言する。

 同じく一級ギルド騎士である青年が疑念を問いかける。


「結局、西方面の遠征で起きた盗賊騒ぎや砂嵐は何だったんですか? 規模といいタイミングといい、無関係とは思えませんが」


 『青魔石事変』において、この場にいる《一級》のギルド騎士達は、ほとんどが遠征を行っていた。

 多くは盗賊や山賊、《迷宮》の魔物の異常発生などの対処をしていたが、『青魔石事変』はその最中に発生している。

 偶然とは思えないタイミングだ。『何者』かが、彼らの留守に騒乱を目論んだ事は否めない。


「明確な証拠はない――が、おそらくそれらは『楽園創造会シャンバラ』の陽動だったのだろう。我々《一級》は、まんまと嵌められたわけだ。奴らの『囮』にな」


 一級解析専門官のブレイザーが忌々しげに答える。

 肝心の場面で不在だった事は、どの一級にも苦い感情となって植え付けられていた。


「では我々は、奴らにしてやられたというわけですか? 正義が危うくなりましたね」


 一級ギルド騎士第四部隊隊長、《嵐帝》のモルバーン青年が心配げに語る。


「『楽園創造会シャンバラ』が当面の敵という事は認めよう。しかし問題は奴らがいつ、どこで、何のために行動を起こす組織か、という事だ。伝承ではほとんど何も判明していない。レベッカ参謀長、その辺りの答えは出ているのかね?」


 一級ギルド騎士第八部隊隊長、《轟竜》のヴォルゴフの発言にレベッカは小さく頷く。


「現在調査中ですー。ユリューナは口が軽いですがあまり良い情報は持ってないですねー。頭の中を覗いても自己顕示欲ばっかりで困ってるんですー」

「ふ、愚かな娘よ」


 笑いながらレベッカが言うと、何人かの騎士が豪快に笑った。


「いっそ手懐けて味方にしてしまえばどうか?」

「二重スパイにして潜り込ませれば一石二鳥だろう」

「それも含め検討中ですー。それとですね、現状では我が街を中心に、《一級》を中心とした『防衛隊』を提案したいと思います。人手が足りない分は、他都市の支部から招くとして、当座はそれで凌ぐ事になりますねー」


 一級ギルド騎士のファルドラーが反応する。


「それが無難じゃのう。『楽園創造会シャンバラ』が外から来るのか、中から崩してくるのか、それは不明。じゃが、抑止も兼ねそれが懸命よ」


 別の一級ギルド騎士が鼻息を吐いた。


「ふん。正面から来る組織とは思えんな。今回のように、中から搦め手で来るやもしれんぞ?」

「だとしてもです。貴方がた《一級》が舞い戻ったからにはいいようにはさせませんー。搦め手、妙手、大いに結構。いくらでもやるがいいです。けれど《一級》を中心とする我らギルド支部は、必ず勝利を掴むことでしょう」

「――その通り。我らに二度同じ手は通じない。我ら《一級》が、街の平穏を取り戻せぬ事はない」


 幹部であるギルド騎士が次々と頷く。

 その瞳には最強の騎士である事の深い自信が伺えた。


「……結論は、出たようだな」


 ギルドマスター・グランが、組んでいた両手をそのままに宣言する。


「では引き続き、我らは街の復興に尽力せよ。《一級》を始めとする各部隊は、警戒部隊を指揮。『楽園創造会シャンバラ』は強大なる組織だ。目的が不明。規模も不詳。総員、全力を尽くし、街を防衛せよ」

「了解」「当然ですね」

「判ったであります」

「まったく、愉快な事だ……疲れる……」

「ウフフ、フフ」


 正義に燃える者、不愉快そうに顔をしかめる者、楽しそうな者……様々な反応が飛び交う。

 しかし、一様に彼らの瞳に映るのは強い意志だ。

 己の使命に準じ、今度こそ街の被害を最小限に食い留める――そんな気概。覚悟。

 レベッカ参謀長、そしてギルドマスター・グランのもと、《一級》は、ギルドの職員は、新たな敵へと向かっていく事になる。



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