第五十五話 決戦を終えて
決戦は、終わった。
リゲル達とユリューナの激闘は、リゲル達の勝利で幕を閉じた。
ユリューナは捕らえられ、厳重に拘束され、無力化された。
ユリューナに利用された『仮面の配下』たちは、保護される事となった。
彼らに大きな怪我はない。多くがかすり傷や打ち身を負ったが、その程度。テレジアが治療可能だろう。
リゲルが手加減したためだ。さすがに、彼らを殺す理由はなかった。
操られた身でそこまでしてしまっては、さすがに気分が悪い。そのための措置だった。
仮面を剥がれた人々は、当初、戸惑っていた。
「う、あ……? ここは……?」
「いったい私は何を……? あなた方は?」
「お母さん、どこ?」「ここは何だ?」「頭が、痛い……」
元・仮面の人々の記憶は曖昧だった。
日常で歩いていたらさらわれた者、路上で捕まった者、気がついたら今に至るなど、それらが大半らしい。
仮面をつけられ、操られていた後の記憶はない。リゲル達は、戸惑う彼らにこれまでの経緯を話していった。
「そ、そんな事が……?」
「こいつのせいで、酷い目に遭ったというのか!」
「申し訳ない……リゲル殿、あなた方に迷惑をかけてしまって……」
彼らの中にはユリューナに利用されて憤る者も多かった。
同時に、リゲル達へ危害を加えた事を恥じ、謝罪を告げる者も多い。
けれど、全てがユリューナの企みだ。
彼らに罪があるはずもなく、結果としてギルドで保護する事が決定した。
『特別措置』として護衛隊長のマーティンが、保障や心身ケアを約束する。
利用された人々は総勢二百三十名――よくもまあここまで集めたと、リゲル達は呆れた。
「さて、一段落したところで楽しい拷問の時間といこうか」
リゲルは一通り人々のケアを終えると、ユリューナの前に戻った。
《アクアスライム》の魔石を取り出し、『水流』をぶっかけると、気絶していた彼女は起きた。
「ぶはあっ! な、何事ですの!?」
「はい、おはよう」
すっかり髪がくたびれ、元の見る影もないユリューナに、リゲルは笑顔で顔を覗き込む。
「な、う、動けない……っ!?」
ユリューナは咄嗟に逃げようとしたが、四肢を拘束されて動けない。
「逃げようとしても無駄だよ。それは《マンイーター》の触手だ。君が怪力無双でない限り、抜け出せない」
「な!? は、恥を知りなさい愚か者! わたくしを誰だと思って――」
「精霊さまでしょ? でも嘘しか能がない、哀れなペテン師。せっかく気持ちよく気絶していたところ悪いけど、色々話してもらうよ」
「ううう、ううう……」
ユリューナが悔しそうに、唇を噛み締める。
そもそも彼女を倒しても、全てが解決したわけではない。
何故ユリューナは『青魔石』を作ったのか、精霊だと言うなら『精霊王』ユルゼーラの行方を知っているか? そして、ミュリーの過去とは一体? ――問わねばならない事は山積みだ。
「まず聞くよ。地上にいる『青魔石』使いは今どうなっているの? 君を倒した事で、暴走は止まるのかな?」
「ふん、人間ごときにしゃべる筋合いはありませんわ! ご自分で確かめてみたらどうですの?」
「ちょっとマンイーターの触手を強く締めてみようか」
「きゃああああ~~!?」
リゲルは魔石を操作すると、ユリューナが悲鳴を上げた。
「痛たたたたたたた!? ちょ、痛いっ、痛いですわ!」
「じゃあ僕の問いに答えてくれる?」
「だ、誰が話すものですか! 人間などには、屈しませんわ!」
リゲルは触手を操り、ユリューナをくすぐった。
あちこちがくすぐられスカートがまくれ上がって大変な事になる。
「あひゃひゃひゃひゃ! ど、ドレスのスカートが~~~~~~!? へ、変態! 鬼畜! あなた最低です、あひゃひゃひゃっ!」
「地上、どうなってるの?」
「わ、判りました、判りましたから戻して、ひゃ~~っ!」
リゲルの問いに、慌ててユリューナは懇願する。
触手から開放され、疲れた様子でユリューナは、
「……ぼ、暴走は止まってはいませんわ。わたくしの意志でやっているわけではありませんの。で、でも、中枢である《ロードオブミミック改》の魔石に呪文を唱えれば、解除は出来ます……」
「その呪文は?」
ユリューナは無言になった。
リゲルは優しい笑みを浮かべると、さらにマンイーターの触手をうねうねさせる。
「ひゃ~~~!? 判りましたわ! 全部話します! ……じゅ、呪文は簡単ですわ。『エル・ブラ・アズアゾード・アドルバ』。それだけを唱えれば暴走は解除されます」
「分かった。――マーティンさん、今の呪文を地上に伝えてください。至急、『青魔石』使いを止めるように」
「了解です。部下たちに向かわせましょう」
マーティンは騎士三名を地上へ向かわせた。
幸いここは《砂楼閣》六十五階層付近だ、六十階層まで戻れば『転移陣』で地上に戻れるだろう。
『転移陣』とは、一瞬で地上に戻れる魔術の陣。十の倍数の階層に設置されている。
リゲルはひとまず息をつき、最大の懸念の払拭に安堵する。そして改めてユリューナに詰め寄った。
「さて、改めて問おう。君の目的は? 何故、あんな真似をした? 他にも仲間はいるの?」
「はん! それこそお笑い草ですわ、誰が好き好んで秘密をペラペラとしゃべると思って?」
「僕、女性にはなるべく手荒なことしたくないんだ。でも、裸に剥いて街中に晒す事ぐらいはするかも」
「じょじょじょ、冗談ですわよね? 脅しているだけですわよね?」
にこっ。
と、リゲルは笑顔でユリューナを見つめた。
「わわ、判りましたから! お願いですからその目はやめてくださいまし!」
ユリューナは涙目でそう訴えた。
「初めからそう言えばいいのに」
「……うう、最悪ですわ。わ、わたくしに直接の仲間はいません。全ては『上』から命じられてやっただけですわ。それ以上の理由は何もありません」
「『上』? 上とはなんだ?」
ユリューナはやけくそ気味に言った。
「上は『上』ですわよ! 『組織』の上部! 『幹部』! それくらい分かるでしょう!?」
「そんな事言われても。もうちょっと詳しく教えてほしい」
「う、上とは――『楽園創造会』の事ですわ! これでよろしくて!?」
ドクンッ、とリゲルの心臓が高鳴る。
それは。その言葉は。
あの日、あの裏切りの夜――アーデルが叫んでいた――。
『これで我が宿願は叶えられる。『シャンバラ』への扉は開かれた。不可能を超えた『絶対』なる領域を、神をも羨む『世界』を、我は!』
あの時に叫んでいた、言葉が脳裏に木霊する。
瞬間――膨大な思考の渦がリゲルの脳内を駆け巡った。
『(――シャンバラ? ということはつまり、初めからアーデルはこれを狙っていた? シャンバラへの扉が開かれたということは、つまりシャンバラなるものは封印されていた――ないし活動不能状態だった。それを解いた暗喩? あるいはそのきっかけを造った? アーデルはあの時、僕ら《六皇聖剣》を、『礎』だと言っていた。礎? つまり僕らの『力』や奪った『聖剣』は、シャンバラの復活に必要だった? だとするならば、メアの屋敷を襲撃し『何か』を奪っていったのも頷ける。つまりは『封印』を解くのに重要な鍵を奪っていった? それは何だ? メアと父親、使用人を殺したことから機密性は重視していた事は考えられる。けれどなぜか、中途半端に屋敷を封じていた。僕が入れた事は不自然だ、彼は何かミスをした? 計画の内? 何かがおかしい。アーデルは何を考えている? いや、不可解なのはそもそもの理由だ、アーデルがそこまでして凶行をした理由。彼は何を言っていた? 思い出せ、思い出せ! ……確か、『恵まれた体、恵まれた環境……全てが妬ましい』と言っていた。そして『神をも羨む世界』とも言っていた。それとシャンバラとどう繋がる? シャンバラとは古代の伝説に登場する、『楽園』の名だ。アーデルは何かの『楽園』を創ろうとしている? 誰のための? 何のための? 判らない……全てを把握するにはピースが足りない……ユリューナにもっと聞かなければ)』
濁流のごとき、膨大な思考の波が溢れ出す。
シャンバラ。それだけでは意味が解らなかったその言葉。
だが二年以上もの歳月を経て。過去の裏切り者の言葉が、今――繋がった。
リゲルは、詰め寄るようにユリューナへ尋ねる。
「シャンバラとは、一体どういう組織? 何を目的としているの?」
「……」
「くすぐりがいい? それとも――」
「わ、わたくしは知りませんわ! 名前だけは知っていますが、具体的にどんな目的で動き、どなたが率いているのかは、何も……」
「……本当に?」
リゲルが疑わしそうに眉根を寄せる。
「ここまで大々的にやっておきながら、『何も知りません』で通ると思ってるの?」
ユリューナはリゲルのあまりの勢いに焦る。
「だ、だってわたくしは何も知らないんですもの! ただ『上』からの命令で『傀儡の仮面』と、『青魔石創成具』を渡されただけですわ! その目的も知らなければその背景も何も知りません! ほんと、本当ですの!」
「……」
リゲル達が沈黙し、互いに顔を見合わせる。
彼女の言っている事が嘘という可能性はもちろんあるだろう。
ただ、それもリゲルの《マインドアイ》という記憶系の魔石や、《解析》の魔術を使えば判明する。
この状況で嘘をつく理由もないし、ひとまずは話を聞くだけ聞いてみる事とする。
念の為と呼ばれる魔物の魔石で、これまで言った事は『真実』だと判明させる。
「……ま、とりあえず信じよう。自己暗示で自分を欺いたとしたら、もっと酷い目に遭うけど」
「そ、そんな意味が今更あるというのですか!? すでに身は拘束され、哀れわたくしは囚われの姫。どうせ渋っても酷い目に遭うだけですわ」
「わかってるじゃないか。そして君は海の藻屑となるんだろうね。用済みってことで」
「……え?」
ユリューナはきょとんとした。
「え、何言っているんですの? わ、わたくしを捨てる? じょ、冗談ですわよね!? だって精霊ですわよ? 貴重な種族ですのよ!? それを……」
「だって君は組織の下っ端でしょう? だったら生かしておいても意味だろう。『口封じ』の連中が襲うなり何かするなり、当然じゃないか」
「あわわわわわわ……っ」
ユリューナが顔を青ざめさせた。
「じょ、冗談ですわよね? 口封じなんてそんな! こんな、可憐な精霊を酷い目に遭わせるなんて!」
「どうかなぁ、君が可憐とか僕の辞書には載ってないしね」
同じくその場の全員が首肯する。
特にマルコとテレジアは青魔石の被害者なため、その視線は厳しい。
〈この人はたぶん凄惨な最後を遂げるだろうね〉
「むごい光景を視ることになりそうです」
「自業自得だわ」
「ま、待って! まだ情報ならありますわ! えっと、そう! 青魔石の『創成具』と、『仮面』について!」
「へえ、どんな?」
リゲルが促すと、ユリューナが慌てて応える。
「あ、青魔石創成具とは、『精霊宝具』の一種ですわ! 仮面もそう。わたくし達精霊は、特殊な工程を経ることで魔術具を『精霊宝具』へと昇華させる事が出来ますの。この二つも、その一環。ど、どう!? 素晴らしい情報でしょう?」
〈ちょっと確認してくるね〉
言うやメアが離れ、ユリューナの現れた奥の方へ向かっていく。
間もなく、いくつかの『器具』を持ってきた。
ガラスめいた透明の容器、不可思議な色をした、魔術の袋だ。それらが、『仮面』や『青魔石』を創成するための器具なのだろう。
確かに、見るからに超常的な魔力を放つ代物とリゲルには判った。
「……どうやら、本当みたいだね。これが『精霊宝具』?」
「そ、そう、そうですわ! これに魔力や特定の呪文を唱える事で、『仮面』や『青魔石』を創成することが出来ますの! 我々精霊にしか出来ない、稀代の技術ですわ!」
「精霊宝具がどういうものでどんな効力があるかは、ひとまず置いておこう」
と語るリゲル。
「いま重要な事は、三つだ。『精霊王』ユルゼーラと、『精霊』ミュリー。そして《錬金王》アーデル。――ユリューナ、君はこの三つのうち、どこまで知っている?」
ユリューナは冷や汗を浮かべながら答える。
「ぜ、全部は判りませんわ。『精霊王』と『ミュリー』だけ……『精霊王』ユルゼーラ様は、精霊族の『英雄』という事ぐらいですわ。遥か昔、精霊が全盛期時、わたくし達を束ね、導いていた……と聞いてますわ」
「……聞いていた? 君は会ったことないの?」
「とんでもない! あの方はわたくしごときが会える相手ではないですわ! ユルゼーラ様は多忙な身、滅多に他者の前へ姿を表さないんですの! 精霊王国の『宮殿』で……人目につく機会も、ほとんどありませんでしたわ」
「じゃあ君は、『精霊王』とは離れた精霊の、下っ端ってこと? 下働き的な?」
「し、下働きかと言われると、それよりは上ですけれど……でも近しい間柄と言えば答えは否ですわ」
リゲルは溜息を吐いた。
「……つまり何か? せっかく苦労して倒した相手が、じつが大した権力者でもなくて、全体で見れば、下っ端も下っ端、残念精霊だったって言うこと?」
「残念精霊!? ひどっ、そこまで言わなくとも!」
「でもそうだよね? 今も下っ端なら、昔もそうだった。例え青魔石の軍団を率いたとしても、とんだ見掛け倒しだよ」
肩透かし、という言葉がここまで似合うのもまずいない。
初めて見た時の荘厳さ、不気味さなど、もはや欠片もない。
そこには組織に見捨てられそうな哀れな女がいるだけだ。
「ちょっと! せっかく人が情報を開示しているのに、何ですのその態度は!?」
「何でも何も、ようするに君はいつでも切り離せる雑魚だし……ろくな情報も持ってない上、あるのはですわですわとやかましい口調ばかりのヘボ詐欺師。これで成果が出たって喜ぶ方がおかしいよ」
「ううう……っ! わたくしだって、好きで下っ端なわけでは……っ」
もちろん、ここまでリゲルが煽るのは演技だ。
実際には貴重な精霊であるユリューナを見逃すなんてあり得ない。
精霊ならミュリーの大事な情報源でもあるし、確保しておくことは前提の言葉である。
ユリューナが敗者の『演技』をして油断させようとしているかも――と考え挑発をしてみたが……。
この分だと、本当に彼女はただの下っ端の可能性が高い。
自らの境遇を吐露して、しかし慌ててユリューナは表情を取り繕う。
「ま、まあ? ご愁傷様ですわ。世の中、そんな上手くいくわけないという事ですわね」
「何で急に偉そうなんだ……。それより、聞きたいのはミュリーの事だ。君は最初、ミュリーの顔を知る者と自称していたよね? あれはどういう意味?」
「ミュリーですか、彼女とは浅からぬ関係ですわね……」
ユリューナは努めて真面目な顔つきで語る。
「……じつは、彼女とは、親友だったのです」
「え?」
これにはリゲル達は少なからず驚いた。
「驚いた……君、友達なんていたの?」
「失礼な! ……彼女とは『宮殿』で働く場所も立場も違いましたわ。けど、様々な垣根を超えて、硬い友情を育んだのですわ。そう、時に励まし合い、時に慰め合い……一緒に『ダークエルフ』と争った事も良い思い出……とても仲の良いお友だちでしたわ」
「……それは、本当なら良い事だけど……肝心のミュリーの過去については?」
淡々としたリゲルの口調に、一瞬ユリューナはむっとする。
けれど本筋が重要と判ったからか、改めて話を続ける。
「ミュリーは『王族の近衛』と聞いていましたわ。人間の言葉で言うと……『侍女』か『親衛隊』が相応しいでしょうか? ミュリーはユルゼーラ様の身の回りの世話をし、時には話し相手となり、時に兵士として過ごしました。寵愛を真っ先に受ける――良き配下として扱われていたらしいですわ」
「なるほど」
つまりは、やはりミュリーはユルゼーラの側近だったと言うことだ。
最も精霊王の近くにおり、公私共に支える重要な役。
改めて、彼女が抱くユルゼーラの想いの強さが伺える。
けれど――。
「でも、それだとミュリーから聞いた話とあまり変わらないんだよね。さほど重要な情報でもないし……ぶっちゃけ被ってる」
「はうあっ!?」
ユリューナは泣きそうな顔をした。
「ミュリーがエリゼーラの近侍って裏付け以外、何も判らない。親友なのは驚いたけど……それだけだ」
「うううっ!?」
「仰々しく『――わたくしはミュリーの過去を知る者』――なんてぬかすから、どんな凄い情報かと思えば……『親友』って、ちょっと期待はずれだよ」
「うわ~~~~~~~~ん!」
グサグサグサ! と、言葉の槍に突き刺されユリューナはがっくりと項垂れる。
総合すると、こうである。
ユリューナは精霊の黒幕の下っ端。
彼女は上が何をしているかも知らない。
精霊王エリゼーラの事も何も判らない。
アーデルの事も、全然全く判らない。
ミュリーとはお友だち(笑)。
「ねえ! ちょっと!? いま凄い期待外れな目を向けていましたわね!? でも違うんですのよ! わたくしにも判る事があるんですの!」
「……何が?」
正直、ユリューナを尋問しても得るものは、もうないかな、と思うリゲルである。
けれど仮にも青魔石騒乱の首謀者。絞り出せばまだ使える情報はあるかもしれない。
それを期待し、傾聴していたが。
「近々、『楽園創造会』で大きな動きがあるようですわ。わたくしが行ったのはその準備の一つ。この大陸で、何か大きな事を起こす算段があるらしいんですの。わたくしの行った『青魔石事変』は、すでに上の者へ結果が伝わっているでしょう。……貴方がた人間は、もはや平和に暮らせる時間は、そう残されてはいないかもしれませんわね」
「……近々? 実験? そう残されてはいないかも? ……なんだか、曖昧なことばかりだね。いかに君が底辺だったのか知れる内容だ」
「はうあ……!?」
「ただまあ、大きな事件が起こる、という点はありがたい情報だ。ギルドに報告しなければならないね……マーティンさん?」
マーティンに顔を向けると、彼は、同意するように頷いた。
「そうですな、グラン様に報告する価値は思われます」
「そうでしょうそうでしょう? ふふ! 感謝なさい! 人間ども!」
「そういうわけで、これにてお役目終了。君はもう用済みだね。その辺の魔物の腹に放り込んで、片付けてもらおうか」
「嫌あああああああ!? それだけはやめてくださいまし! お願い考え直して!?」
「だって、君を抱えていても良い事ないんだよね。さっきも言ったけど楽園創造会にとって、君は邪魔じゃない? そのうち刺客とか殺し屋が来るのは明らかだし、僕らに被害が出そうで……」
「わた、わたくしを囮に、組織をおびき出せるかも!?」
「めっちゃ震えてるけど、大丈夫?」
怯えるユリューナをよそに、リゲルは溜息を吐いた。
ともあれ、騒動はこれで一件落着だろう。
諸悪の根源であるユリューナを打倒した今、青魔石騒動は終焉した。
地上は今頃《ロードオブミミック改》の停止が行われ、平穏を取り戻した頃だろう。
『楽園創造会』という、より大きな脅威が待ち受けているのは誤算だ。
しかし、ひとまず今回の騒乱は終わったと見るべきだろう。
ひとまず地上に戻り、グランやレベッカと相談する必要がある。
〈帰ろうよ〉
メアが、誰にともなく言った。
〈色々あったけど、疲れたよ。上に戻って、ミュリーに会いたい〉
「そう、ですね」
マルコやテレジアも頷く。
激戦。連戦。どれもが激しい戦いで、生きているのが不思議なくらい。
生き残れたのは幸運と、わずかな偶然と、諦めない意志があってこそ。
「そうだね、地上へ戻ろうか」
「これからが大変ですね、『楽園創造会』への対策など、山積みです」
「でも、あたしやマルコも協力させてもらうわ。より大きな脅威が来ても、力を尽くせるように」
「ありがとう、テレジア、マルコ。心強いよ、これからよろしく」
リゲルは、改めてマルコやテレジアと握手を交わした。
暖かく、強い感触。
それは力強く、頼もしい誓いの光景だった。
――こうして、街を騒乱に陥れた『青魔石事変』は終わりを迎えた。
後は地上に戻り、後始末が行われていく。
体には疲労が残留。魔石も、魔力も、ほぼ枯渇という激しい戦闘。
けれど、掴み取った平穏は、悪くない。
心の中には一種の充足感。一時の安息を覚え、彼らは地上を目指す。
たった一つの懸念は――。
「あれ? そう言えばわたくしは? どうなるんですの?」
ユリューナの素朴な疑問に。
リゲルが軽く応えた。
「あ、君はもう用無しだから置いていく。魔物か組織の刺客が来るのをお楽しみに」
「嫌ぁああああ!? だから、助けてくださいまし、わたくし、役に立ちますのよ! 何でもしますわ、何ならメイドとか囮でも! だから見捨てないで! なんとかしてください! わたくし、まだ死にたくないんですのよ~~~っ!?」
ついでにうるさい精霊がいたので、何かの役に立つかもと連れ帰る事にした。
もっとも、その後に彼女には、ギルドで過酷な制裁が待っているだろう。
けれど、それはまた別の話。
リゲルたちは、新たな戦いへ向け、動き出す事となる。





