第五十二話 騒乱の元凶、『青魔石』の創成者
リゲルたちが第八迷宮、《砂楼閣》を進んでいる頃。
ギルド中央支部周辺にて。
――人間が、一番苦難を覚える瞬間はいつだろう? ――そう、レベッカはふと考える。
それは大切な人が亡くなった時?
愛用していた物を失った時? 恋人や伴侶との諍い?
それとも、周囲と孤立してしまった時だろうか?
否、どれでもない――人が最も苦難を覚える時――成果が成果として現れない時こそ、最も苦難を覚える時だ。
そう、レベッカは思い魔術を唱える。
「うわぁ、嫌になっちゃいますね、これ」
眼前を埋め尽くすのは地獄の光景。
建物は半壊し、どこを見ても『青魔石』使いの暴走が目に余る。
今がその時なのだろう。苦難と呼ばれるこの状況、これこそがまさに地獄。
レベッカの放った広域火炎魔術が、『青魔石』使いたちを一蹴する。
《バブルプラント改》、《ロックメイジ改》、《ベルフロッグ改》、《アクトスパイダー改》――数えるのも面倒臭い『青魔石』使い達が、次々に地に倒れ伏す。
けれど、それで終わりではない。
倒した思ったら次の敵が、倒したそばから新たな敵が――叩いても叩いても迫り来る『暴走者』たち。
まるでモグラ叩きだ。それか雲霞の群れ、もしくは不毛な雑草取りだ。
『青魔石』使いは、視界の至る所で暴れている。
右では街路樹が倒れ、左で教会が崩れ落ち、後ろを向けば猛烈な勢いで『青魔石』使いが次々と。
現れた、青魔石使いは何人なのだろう? 三十人? 五十人? 百人? それすら上回るだろうか?
四時間――。
リゲル達が《砂楼閣》に潜り込み、すでにそれだけの時間が経っていた。
「これだけ倒してもまだまだ『青魔石』使いが減らないなんてー。凄く、楽しいですねー! 思わず昇天してしまいそうです! ははは、ははは!」
「戦闘狂が。真面目に戦え、レベッカ!」
隣で共に戦っているギルドマスター・グランが苦い顔をする。
けれど、別にレベッカはふざけているわけではない。
これでも真面目にやっている。手は抜いていない。しかし、どうしても高揚してしまうのだ。
我が身を襲う『死の気配』と『終わらない戦闘』――走り込んだ後の興奮状態を超える、いやそれを何倍にも増やしたような、言い知れぬ高揚感がレベッカの心を、幸せの域へと立ち上らせる。
「フフ、フフフ、あは、あはは!」
これこそがレベッカの困った性癖だった。
戦いに酔い、高揚したら止まらない。
敵が百だろうと千だろうと万だろうと、力尽きるまで戦い続ける。
かつて、低級のギルド職員だったとき、受付のくせに荒くれ探索者をノシて、『スマイルバーサーカー』と渾名された戦鬼。
通称――『笑顔の魔人』。
冷静なる戦闘鬼という顔が、レベッカの別の顔だ。
「アハハ! 終わらぬ戦い! 尽きぬ脅威の群れ! 楽しいです! これこそが戦い! これこそ戦闘の醍醐味! あは、私は今、生きている!」
「阿呆が! 戯言を言っていないでさっさと倒せ」
楽しげな口調のレベッカに、グランが呆れて言う。
古い付き合いだ。『見た目以上に』熟達なレベッカの性質はよく知っている。
大剣で《ライカンスロープ》の青魔石使いを弾き、遥か彼方へ吹き飛ばすと、グランはため息をつく。
「これではいつまでも持たんぞ? すでに騎士達は《四級》を筆頭に惨敗だ。《三級》や《二級》も疲弊……すでに三割が戦線離脱になっている。このままでは戦闘維持が困難になる」
「まあ、それでも逃げられないのが騎士達の悲しい性ですねー。使命感や義務感を引っさげて、退かない、逃げない! 正義の騎士様! ……んー、ここから奇跡の力とか、そういうものを覚醒してくれれば、楽なんですけどねー」
「お前がやれ。出来るならな」
「うふふ、やりたいですね。でも、私が『変身』したら荒野になっちゃいますから」
何が楽しいのか、ふざけながらレベッカは杖をくるくる回して詠唱する。
直後、天空から凄まじい勢いで十五本の白い落雷が降り注ぎ、『青魔石』使い三名を打ち倒す。
「倒しても倒しても終わらない戦い! 苦難と苦労の連続! ああ楽しい! なんて楽しい! 私はまさに、満たされている! ハッピー! ラッキー! ハレルヤっ!」
「やれやれだ。そこできっちり俺より倒しているのが鼻につくな。――[アストラルミスリルソード、第五形態変化・蛇腹剣]!」
グランの文言と同時、手にした大剣が、鞭のようにしなり、長大な剣へと変化する。
迫りくる『青魔石』使いが一斉に斬撃――体当たり等を行うが、一撃でグランは薙ぎ払った。
《一級》軍師のレベッカ。そしてギルドマスターになる前は《一級》騎士だったグラン。二人がいなければ、街はとうに全滅していただろう。
「お前は戦闘中毒で楽しいだろうがな、他の騎士はもう限界だ。ここで撤退なり陣の再編成なりをしないと、助かる騎士も助からんぞ?」
「撤退も再構成もクソもないじゃないですかー。どこへ逃げてどこで再編成するんです? すでに街は『青魔石』使いだらけですよ? 確固撃破しつつ戦況維持するしかないでしょう」
「その通りだが、何か策はあるのか?」
レベッカは笑う。無邪気に、楽しそうに。
「無いですよ? リゲルさんたちが後二時間以内に元凶を何とかしなければ全滅ですー」
「ふん。やってられん、自分の運命が他人任せとは」
「あはは、他力本願、いいじゃないですかー。私は結構楽しいですよ? 完勝か完敗か判らない――『神のみぞ知る世界』っていうのは。どちらかが生きて、滅びる――これほど楽しい時間は無いです」
「阿呆たれが。狂戦士と一緒にするな馬鹿めが」
「うふふ、フフ」
にこやかに笑うレベッカ。
直後、眼前で崩れかけた建物が倒壊した。
粉塵高く登るその先――禍々しい気を持った、『青魔石』使いが現れる。
節くれだった体。
腕から伸びた触腕。
腐りきった樹木の肌。眼窩には熾火のような赤き眼――。
ランク、『マイナス六』――街に出現した『青魔石』使いの中でも最上位。死した狂樹鬼の魔物。
「うわ、《トレントグール》の改じゃないですかー。これは大物ですねー」
「すでに『魔物化』が七割は進んでいる。これは骨が折れそうだな……やれるか、スマイルバーサーカー?」
「当然。怖かったら逃げてもいいですよ?」
「馬鹿めが、これで逃げられるならギルドマスターなんぞやってられんわ!」
「オマエたち、死スべき。我ら、ハメツと、メツボウの使者。シ、シ、シシャ」
言語能力を逸した《トレントグール改》の青魔石使いが迫ってくる。
何本もの触腕が生え、巨獣の尾のような一撃が、辺り一面に振り払われる。
「死ネ、死ネ、ギルドの愚か者ドモ!」
「そこを退いてもらおうか。堕ちた愚鈍者よ。――[アストラルミスリルソード、第七形態変化・双刃剣]!」
「[ピア・アブ・ゾール。ベア・ネス・テンペレス!] ――燃えてしまうがいいですよ?」
グランが得物を、柄尻から二本刃が出る双刃剣へ変化させる。
レベッカが古代文言で、超大型火柱を炸裂させた。
悪魔の大樹のような『青魔石』使いと――ギルドマスターと参謀長、彼らの激闘は続いていく。
† †
「はあああっ――闘技! 『円月斬』!」
「気孔波、気孔波、命練掌! みんな、頑張って!」
〈烈剣クロノス、冥剣ハーデス、行って、ええいっ!〉
第八迷宮《砂楼閣》――第六十四階層。
リゲルたちは多数の迫る魔物たち相手に奮戦していた。
〈敵、多っ! 斬っても斬ってもきりがない!〉
「出来るだけ一箇所に集めましょう、そっちの方が楽だわ」
「引きつけ、お願い出来ますか護衛隊の皆さん! ――噛み砕け、《ホブスカラベ》! 《ソルジャーバイト》! 打ち払え、《マッドアーマー》!」
迫り来る魔物の群れ。雪崩のように湧いて出る魔物たち。それを、リゲル一行はひたすら打払い、薙ぎ払い、弾き返し、応戦する。
次から次へと迫る敵勢は怒涛の如く――《バブルプラント》と、《メイジロック》が、腐食液や岩石魔術で前方を破壊。そこを《ジェネラルオクト》や《オーラメイル》が、咆哮と共に打ち掛かる。
〈魔物だけ『魔術』使えるなんてずるい!〉
「言っている場合じゃないでしょメアさん、右! 右!」
「闘技! 『挑発』! 『頑強』! ぐっ!?」
「無理しないでマルコ! 一端下がって!」
「攻めろ攻めろぉ、リゲルさんへの援護を!」
ギルド騎士七名が打ち掛かり、その隙を敵の《バブルプラント》が狙い、その隙をメアが『宝剣』で貫く。
その隙へ敵に《メイジロック》が飛び込むと、リゲルが《ヘルジャッカル》の魔石の爪牙で仕留める。
「終わった、次! 六十五階層!」
〈はあ……はあ……疲れた、もうヘトヘト~〉
「文句言わないでメアさん、勝ってるだけマシでしょ?」
「はあ……はあ……これで、少しは近づいているといいけど……」
『九宝剣』を操るメアはともかく、体を張って前で盾になるマルコの消耗が激しい。
予備の盾役のギルド騎士達や、回復役のテレジアの消耗も同様だ。
リゲルだけが平静を保っている。
「(――五時間余りで六十階層か。かなりの速度だけど……皆の消耗が激しい。僕がもっと前に出るべきか?)」
司令塔が弱気や疲労を見せれば全体の士気に関わる。気力が彼らを支えている――その今、彼らにするべきは戦意の糸を切らさない事だろう。
リゲルは、洞窟内に響くような声を響かせる。
「――全員、聞いて! 創成者は未だ先だ! けれどここで止まるのは愚かだ! 地上で奮戦するグランさんや、レベッカ参謀長、そして騎士達の苦労を思うんだ! 僕らが止まれば全ての努力が水の泡になる! もうひと踏ん張りだ、頑張ろう!」
柄ではないが鼓舞するしかない。
残る気力を振り絞らせ、戦意を募らせ、そうして武器を振るうしか道はない。道がある限りは皆を鼓舞し進ませるのみだ。
「彼らの奮闘に応えろ! 僕らは前に進んでいる! 敵は討滅出来ている! 後は進むだけだ! 賽のように、猪のように、前へ前へ進めっ!」
疲弊した面々が、気力をかき集める。
叱咤激励の言葉に、己を奮い立たせる。
「わかり……ました。ここでめげている場合じゃないですよね」
〈あたしはまだまだやれるよ! 指示をしてリゲルさん!〉
「こんな事で弱音吐いたら馬鹿みたいだしね!」
「リゲル殿、参りましょう。――街を救うために、人々のために」
マルコが盾を掲げ、メアが笑顔で頷き、テレジアが、騎士たち七名が、武器を掲げ応じる。
地上では、一丸となって衛兵やギルド騎士が奮戦しているだろう。
彼らに、その戦いに報いなければならない。
リゲルらパーティは、数多の魔物を退け、《砂楼閣》を、奥へ、奥へ突き進んだ。
そして、第六十五階層――。
現れた魔物の攻撃をマルコが受け止め、メアやテレジアがフォローに回ろうとした、その瞬間だった。
「――?」
いきなり、リゲルは右側に、小さな違和感を覚えた。
壁。
砂の壁の向こう、わずかに亀裂が入った向こうから、『何か』の気配を感じる。
それは糸のような薄い気配。ともすれば素通りしがちな小さな違和感。
しかし、極限まで高められた集中力のリゲルには――かろうじて察知出来た。
「メア、右側の壁を破壊して」
〈……え?〉
立ちふさがる魔物を宝剣で打ち払ったメアが、怪訝そうに振り返る。
〈どうして?〉
「いいから、早く」
リゲルの顔を見て過急性を悟ったのだろう、メアが『宝剣』の四本をそちらに向かわせ、激突させる。
すると、壁に強烈な一撃が加わり、衝撃波が走り抜ける。
爆散する砂の塊。振動――何事かと皆が、そちらに視線を投じた先に――。
「あった……」
リゲルの呟きの先、まるで巨獣のアギトのような大きな穴があった。
明らかに本来の《砂楼閣》のものではない。
砂で覆われておらず、黒い石材で構成された道の『通路』が続いている。
黒く、どこまでも黒い、暗黒を結晶化したような物質の通路。それが、怪物の腹の中のように、延々と続いているのだ。
「おそらく、あれが《創成者》への道だ! 全員、中に入って!」
怒涛の勢いで迫る大型タコの魔物、《ジェネラルオクト》らの魔物を『魔石』で焼き払い、リゲルは、声を張り上げ誘導する。
「ど、どういうことですかリゲルさん?」
〈この先へ行くの?〉
「リゲルさん、これってまさか……っ!?」
瞬間、全員の背筋が凍るほどの『殺気』が、黒い通路の奥から襲ってきた。
何か、何かいる。とてつもなく強大で、途方もない災禍を撒き散らす強敵が。
理屈ではなく、確信に近い感覚で全員がその穴の奥の『何か』を意識する。
「この、殺気……っ」
「この向こうだ、おそらくこの先に、青魔石の《創成者》が……っ」
「全員、魔物は無視して! 穴へ! メア、君は前衛だ、早く! 急げ!」
迷宮の奥からさらに十体を超える新手が迫る。しかしリゲルは皆を先導し、メア、マルコ、テレジア、騎士七名を急かし、穴の中へ進ませる。
突破力のあるメアが先陣を切り、中衛をマルコとテレジアと騎士達が、しんがりにリゲルが魔石で背後へ迫る魔物達を吹き飛ばし、前進する。
「はあ……はあ……」
「長い通路! 迷宮の途中にこんなものが……!?」
「どこへ繋がっているのかしら、砂がないわ!」
〈あっちに光が見えるよ!〉
息も絶え絶えに全速力で疾走した先だった。時にうねり生物的な曲線を描く長い通路を超えた先、ひどく広大な空間が一同を待ち受けた。
広い――。
圧倒的な広大さだ。ギルド支部が丸ごと十は入るのではないか。
黒い石柱が天上に向かって何本も伸び、まるで黒い森林の如く。
床の至るところには『翼ある種族』の絵画が描かれており、どこか宗教的な儀式場を思わせる。
篝火が黒い石柱の壁面に備え付けられ、広すぎる空間に厳粛さを与えている。
全体的に漂うのは冷たい空気だ。墓場のような雰囲気。世界から切り離され、一種異界じみた雰囲気すら漂う不穏な場所――。
「(――なんだ、ここは?)」
全員が疑問を浮かべていた矢先、篝火が輝きを増し、遥か奥の方へと、明かりを拡散していくのが見えた。
ボウッ、ボウッ、ボウッ、ボウッ!
明かりが最奥にまで届き、倍する光源へ増した後。――奥から、カツッ、カツッ、カツッと甲高い靴音が響いてくる。
「あれは……?」
「『階層主』……? いや、違う」
〈……人?〉
その存在は、黒く、美しい風貌をしていた。
髪も黒ければ衣装も黒。長いスカートも黒、長い袖も黒、長いリボンも靴も漆黒色。
流れるような長い髪は濡れ羽のように美しく、紅宝石色の瞳は見る者の意識を奪う。
――黒の美姫。
例外として黒に染まっていない綺麗に整った顔立ち。大きく晒された白い胸元が印象的だった。
「ようこそ、おいで下さいました」
高らかに、穏やかに、歌うような滑らかさで、『彼女』は出迎えた。
「このような場所までご足労頂き、光栄の極みですわ、羽虫ども」
口調だけは和やかに、けれどその内容は傲慢で、辛辣なものだった。
「貴方達の命運は、残念ながらここで終わり。貴方達の魂は混沌の渦へと、消える事でしょう」
黒く、美しく、傲岸なこの空間の『王』に対し、リゲル達が警戒心を募らせる。
「何者だ……?」
黒の美姫は艶然と答える。
「名前など、名乗らずとも良いでしょう? 貴方達は今、ここで死する運命なのですから。ですが、そうですわね……あえて名乗るのなら、『ユリューナ』――そう名乗っておきましょうか」
「……ユリューナ?」
リゲルは警戒し六つの魔石を握り締めながら呟いた。
直感があった。
ここで彼女と出会ったとき。彼女の声を聞いたとき。
黒く美しい容貌を目に焼き付けたとき。胸中を貫く予感が頭の中をよぎった。
「君は」
まさか。
確信があった。改めて問うまでもない。『彼女』の容姿は、あまりに浮世離れし過ぎる。
脆く、儚く、どこか神秘さを讃えた美貌。
ガラスめいた脆弱さの中に伺える確固たる芯の強さ。
それは、リゲルも見たことがあるもの。
リゲルが最も好ましいと思っている『少女』と、同じ――。
最も大事で、もっとも愛しい彼女に瓜二つな、超常の存在。
「もしかして、君は――《精霊》、か?」
「うふふふふ」
彼女は笑った。嬉しそうに、誇らしそうに。
「そうですわ、小さな羽虫さん。わたくしは大精霊『ユリューナ』。この『神殿』の主ですわ」
優雅に。
見る者が溜息をもらしそうになるほど美麗なお辞儀をしたユリューナ。
貴族の娘ですら青ざめるほど美麗な礼でもって、緩やかに応えてみせる。
しかし次の瞬間、顔を上げた彼女が浮かべた表情は、邪悪そのものだった。
「そして、貴方達に引導を渡す『死神』でもありますわ」
瞬間、メアが何もない場所から『何か』に弾かれた。
ギルド騎士らも半数が『何か』に叩き伏せられ、石柱へと激突する。
〈あうっ!〉
「な!? 霊体のメアを!?」
「あらあら、なんと脆いこと。――笑わせないでくださいまし。せっかく来て下さったのです。もっと持ち堪えてくださいな。わたくしと長く――楽しく踊りましょう?」
リゲルは《アイアンホーク》の魔石でユリューナへと爪牙を見舞った。
しかし鋼をも切り裂く一撃は、ユリューナが光の粒子になると、素通りし無効化されてしまう。
「っ! 『転移魔術』!? それとも『変換魔術』か!?」
「ウフフフ。いいえ、違いますわ。わたくしの『術』を羽虫や、羽虫と一緒にしないでくださいまし?」
ユリューナは、優雅に清らかな笑みで応じる。
「『精霊術』――そう、あなた方が頼る魔術とは異なる、強大にして高貴な術ですわ」
艷やかに笑った刹那、『黒い暴風』が辺りに吹き荒れる。
轟々と、周囲に渦巻く魔の突風。
殺気がみなぎり、篝火が揺らぎ、リゲル達の顔へ緊張が走り抜ける。
「黄泉への手向けとして教えてあげましょう。わたくしは貴方達が『青魔石』と呼ぶ物の創成者――つまりは太古の昔より地上を支配してきた者。ミュリーの過去を知る、大精霊」
「な、に……!?」
リゲルは、震えた。
あまりのことに。あまりの内容の意外さに。
「――君が、元凶? それに、ミュリーの過去……? 何を……?」
「全てを知りたければ力づくでやってごらんなさい? わたくしは『力なき者』へ教える事は何もありません。武力と武力、分かりやすい図式でしょう?」
「リゲルさん! この場所、魔術が使えます!」
マルコが叫んだ。騎士たちも続く。
「《砂楼閣》ではないからですな……戦技! 『狼牙翔』!」
[――癒やしの護り呼び込む盾よ、光を、皆を護り給え! ――『プロテア』! 『リジェネレイト』!]
護衛の騎士マーティンらが叫び、テレジアが防護魔術と自動回復魔術を唱える。さらにマルコがメイスで突貫し、一斉にユリューナへと、躍りかかった。
「待て! 下がって皆! その精霊から離れ――」
「うふふふ! さあ! 来なさいな! か弱く脆い羽虫たちよ! 虫けらの十匹や二十匹――どれほど集まったところで無力というを教えましょう!」
艶美な笑みを浮かべたユリューナの元へ。
マルコのメイスが、騎士達の白銀剣が、まっすぐ振り下ろされ――。
そして事件の決戦が幕を開けた。





