表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/167

第四十九話  新たなる仲間の少女

 勝った……。

 そう感じた瞬間、リゲルは体ごと勝手に地面に倒れた。


 無理もない、疲労で倒れた後、完治しないままの激戦である。

 戦闘中は気持ちが体を支えていたが、一度緊張が途切れると、反動が一気に現出、襲い掛かってくるのは当然の事だ。

 さらには『変革』が彼の体に負荷を与え、この戦いにおけるとあるものを『分析』、新たなる血肉へと変えるべく、活動していた。

 彼は知る由もないが、確実に、彼は次の段階へと登りつつある。


〈うわ、大丈夫? リゲルさん!〉


 咄嗟に慌てたメアが《浮遊術》で起こしてくれる。けれど体は疲弊している。直撃してないとは言え『付与魔術』で自分を強化したり、護衛騎士の魔術のサポートを受けたりと病み上がりの体にはきつい。

 その体に鞭打って、リゲルは取り繕うように言う。


「何か薬を。体がとりあえず動けるだけでもいい」

〈じゃあ、この前作った『滋養剤』を……〉

「いや、それはちょっと」


 またあんな目に遭うなんて嫌過ぎる。

 ふと護衛のギルド騎士達が次々と起き出した。そのうちの一人が別の滋養剤を持っていたので、それでとりあえず使ってリゲルは急場をしのぐ。

 騎士たちも次々と回復魔術を掛け合い、マルコとの戦闘で負った傷を癒やす。


「メア、マルコは?」


 メアが振り返った先、彼は傍らにまだ倒れていた。

 時折びくりと体を痙攣させ、意識を失っているが大事はなかった。

 『青魔石』は、そばで今はぼんやりと光を放つのみだった。


 ――苦しかったろうな。

 リゲルは思う。

 大切な人をさらわれて、絶望して。そして願ったのが青魔石というのが悲劇の始まり。


 彼は、ある意味でリゲルと同じだ。

 大切なミュリーをもしも助けられなかった、『もしも』の自分。

 仮に自分が大切な人を奪われたら、似たような状況になっていたかもしれない。

 もしや仮になどに意味はないが、それでも考えてしまう。

 ともあれ、激しい戦いだったが、助け出せて良かった。


「――マルコ!」


 その時、気絶していた少女――テレジアが起きて血相を変えて寄ってきた。

 倒れるマルコを抱き起こし、心配そうな瞳で覗き込むと、何があったのかとリゲルやメアに目で問いかける。


「あなた達は……?」

「はじめまして、テレジアさん。僕は探索者のリゲル。この場の混乱を収めた者です。……マルコは、『青魔石』と呼ばれる暴走付与の魔石により暴走。それを今、鎮圧したばかりです」

「暴走? え、そんな……マルコが……!?」


 ショックを受けたテレジアだが、事情の一部を察したらしい。

 リゲルの声音や視線、疲弊した姿、それからギルド騎士七名の様子を見て、彼女なりに激闘を推察。


 リゲルは思う――敏い娘だな、誘拐され気絶していたばかりだというのに、凄い人だ。


「……わかりました。どうやら、あたしが眠っている間に色んな事があったみたいですね」

「そうなんです。じつは――」


 リゲルは事情の説明をした。

 青魔石の出現、増殖。一般人にまで青魔石は広がっていること。

 現在街は混乱の只中にあること、ギルド騎士の力をもってしても事態の収拾は困難を極めていること――。

 そしてマルコと《パラセンチピード改》のこと。

 テレジアの調子を伺いつつ、余すことなく伝え終えた。


「そんな、街が……や、屋敷の方は? マルコやあたしは今どういう状況なんですか?」

「ボルコス伯爵家の方はとりあえず保留です。今、僕達はギルド支部へ向かう途中ですから……ひとまずあなた方は保護対象という事になるかと」


 護衛の騎士の小隊長――マーティンと言う名だ――そちらの方を伺うと、彼は頷き、マルコとテレジアはひとまず保護という形に落ち着きかけた。

 けれど、それに異を唱えたのがテレジアだ。


「その戦い、あたしも参加出来ますか?」

「……テレジアさん?」

「この惨状、マルコが関わっていたのならあたしにも多少なりとも責任があります。それに、街を救いたいという想いは同じ。このままシェルターに行くなんて出来ません」


 確かに、その心意気は頼もしいが……。

 リゲルは念の為、問いを投げる。


「……テレジアさん、今僕たちは『青魔石』使いを倒しつつ支部へ向かっています。けれど街はこの状況です。厳しい戦いには違いない。それでも、戦ってくれますか?」

「当然。あたし、ボルコス伯爵家では劣等の烙印を押されましたけど、それなりには戦えます」


 それなりどころではないだろう。

 元々、『ボルコス伯爵家』とは、優秀な探索者を輩出するため、多数の孤児を引き取る屋敷だ。

 厳しい選定基準が設けられ、例え烙印を押されたとしても、十分な戦力なのは間違いない。

 一説には、過剰に選定が厳しいため非難される伯爵家だが――伯爵が『優秀』でなくとも、戦える実力は身につけているだろう。


「一応聞いておきますが……どのくらい戦えますか?」

「ヒール、ハイヒール、ヒールオール、プロテアヒール、リジェネレイト辺りは一通り」

「普通に『ランクシルバー』は突破しているじゃないですか……」


 そこそこどころか迷宮でも十分戦える。

 おそらく、三十階層くらいまでなら楽に行けそうだ。どうやらボルコス伯爵の『優秀』の基準はひどく高いらしい。


「それを聞いて安心しました、では一緒に支部へ急ぎましょう」

「はい! ……あ、それと」


 テレジアはマルコを抱きながら照れ気味に言った。


「あたし、敬語って慣れてなくて。戦場だし、タメ口で構わないかしら?」

「……もちろん。軍隊じゃないんだからそれでいいと思うよ。同じくらいの年齢だし。僕も普段通りでいかせてもらうから」

「ありがとう。――よろしくね、リゲルさん」

「うん、こちらこそ、よろしく」


 リゲルはテレジアが差し出した手を握り返した。

 細く白いが、戦える力を身に着けた手だと、リゲルは思った。


「あなたには感謝してるわ。マルコを救ってくれて、本当にありがとう」


 テレジアが、花のような笑みを浮かべた。

 それは夜闇を吹き飛ばすような、明るい笑顔だった。 

 ――なるほど、マルコが惚れるのも無理ない美少女だなと、リゲルは思った。



【テレジア 十七歳  ボルコス伯爵家の使用人 レベル31 

 クラス:高位回復術師ハイヒーラー

 称号:『秘めたる想い』『恋する乙女』(想いを寄せる少年マルコが極限の危機に陥ると、全能力が10倍になる)

    『魔物の因子を宿し者』(通常の人間より回復術の習得や効果が1・5倍)

 体力:221  魔力:368  頑強:201

 腕力:213  俊敏:257  知性:323

 特技:『短剣技Lv3』 『投擲術Lv3』 『使用人術Lv5』

 魔術:『回復魔術Lv6』 『防護魔術Lv6』

 装備:『使用人の服』

    『癒杖エレミーラ』(回復量1・2倍。効果範囲1・5倍。リゲルからの贈与)

    『理力のメイス』(サブウェポン。魔力の一部を攻撃力に変換。リゲルからの贈与)

    『対攻のペンダント』(被弾時、威力を4割緩和。効果は一日に10度まで発生。リゲルからの贈与)

 スキル:『自動魔力回復Lv2』

     『癒やしの因子』(常時回復力1・3倍。他の特技、称号、装備と重複可能)

     『二重回復術』(回復系、防御系の魔術を二つ同時に使える)

     『気功術Lv4』(魔力なしで回復を促進させることが出来る)】



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ