第四十八話 狂える雷の化身
「……やばいですねー」
リゲルたちが進撃を続けている頃。街のギルド支部付近にて。
襲いかかる《ヘルジャッカル改》の青魔石使いを弾き返しながら、参謀長レベッカは呟いた。
「『青魔石』の特性、思った以上に厄介みたいです」
「どういうことだ?」
ギルドマスター・グランが咄嗟に振り返る。
街はどこもかしこも騒乱の只中だ。二人も迎撃に出て、討伐に加わったがキリがない。
《フレイムラット改》の魔石使いを鉄球で薙ぎ払ったグランが、怪訝に尋ねる。
「『青魔石』の進化。私はこれを、『増殖数』の拡大や『増殖範囲』の拡散と想定したわけですが、それよりもっと危険な方向性に向かっていますねー」
「まさか……今倒した青魔石使いがそうだと?」
「そうです。今の青魔石使い……体が一部『魔物化』していました。これ、どう見ても新しい特性ですねー」
初めのうち、倒していた青魔石使いはまだ『人間』の格好をしていた。
しかし、今しがた倒した二人は、明らかに『半魔物化』していた。
人ではあり得ぬ皮膚。あり得ぬ体毛。
「まさか……これに似た『青魔石』使いが、他にも存在していると?」
「可能性はあります。元々『青魔石』は、魔物の力の一部を具現化する――それが特色でした。でもこれ、明らかに進化してますよね? まだ仮説ですが、『青魔石』は、ある程度使えば使い手の体そのものが『魔物化』する――そういう説も立てられます」
「馬鹿な……それでは」
驚異である青魔石使いが、さらなる化け物になる可能性。
怪物を超えた超怪物。
グランは知らず、息を呑んだ。
――この状況、本当に鎮静出来るのか?
いくら何でもその状況は、分が悪すぎる。
ただでさえ『青魔石』使いは中堅騎士ですら苦戦する相手だ。
それが強化。それも複数――。
レベッカの仮説は、間もなく彼らの眼の前で証明される。
街路樹を破砕し、新たな『青魔石』使いが現れる。
黒い肌に真紅の眼の青年、緑の尻尾に赤々と燃えるような紅蓮の爪の女性――。
《ヴァンパイア改》に、《エルダーリザード改》の青魔石を備えた――暴走者たち。
体の数カ所を『魔物化』した物共らが、レベッカとグランを襲う。
「馬鹿な……早く来てくれ、リゲル殿。あなたがいなければ、街そのものが危うい」
† †
「回避、回避ぃ!」
「ば、馬鹿な!? 速すぎる!」
「一度防御の陣を、ここは凌ぐんだ……ぐああっ!」
猛烈な紫電の輝きが大気を焼く。
マルコの放った『麻痺槍』によって、騎士の二人が麻痺し崩れ落ちる。
「ちい、青魔石つかいめ! ――戦技! 『雷鳴剣』!」
「闘技、『四天翔』!」
「らあああっ! [裁きの火炎よ、渦巻け、『イグニスサークル』!]」
闘技、剣技、火炎系の魔術、あらゆる攻撃を試すが無意味。マルコの放った雷槍に撃ち落とされ、あるいは弾かれ、あるいは術者が雷槍の直撃を受け麻痺し崩れ落ちる。
周囲をまるで蛇のように取り囲み、雷の大蛇の王の如く君臨するマルコ。
「リゲル殿! こやつの雷槍、厄介です!」
「一旦陣形を変えて挟撃を――うあっ!」
また一人、護衛の騎士が撃たれ、全身がスタンし崩れ落ちる。
先程から、その繰り返し。騎士達が懸命に挑むが全て無駄。雷撃を、麻痺たる輝きの猛威を凌げない。
「くそ、[天空より落ちよ氷原の鉄槌! 疾走れ、穿て! 『アイシクルピラァ』!]」
「[岩石巨人の加護を請う。其は巨岩、魔を砕き閃光の使徒なり! 『ロックダウン』!]」
「闘技! 『骸命掌』! はあああ、『刃蓮突』っっ!」
「捌けよ《アイスニードル》! 貫け《レイスソード》! 噛み砕け《フレイムアント》!」
リゲルを含めた火炎系の魔石、火炎系の魔術、闘技の波状攻撃を炸裂させるが、ほとんど通じなかった。
全て雷槍に弾かれるか相殺され、たまにマルコの体に当てられても、巨岩のように小揺るぎもしない。
「硬い! なんて守りだ!」
「それよりも雷槍だ! あれは厄介過ぎる……ぐう!?」
騎士の一人に放たれた一撃を、かろうじてリゲルが《ストーンリザード》の石鱗で防ぎ切る。だが――。
「……これも駄目か」
今ので《ストーンリザード》の魔石も品切れだ。
先程から《ハーピー》、《レイスソード》、《キラーバット》、使い勝手の良い低ランク魔石は大半は使い終えた。
残る魔石のうち、威力はあるが攻撃速度が遅い物では仕留めきれない。
《ベノムアント》や《オーク》や《ゴーレム》……これらでは、盾に出来ても致命打は与えられない。
マルコの青魔石――《パラセンチピード改》は、速度と硬さに優れ、雷槍も発射可能な青魔石だ。
その速度は『音速』すら上回り、撃ったと思えばすでに着弾し、かわす暇はなく、わずかな大気の揺らぎで察し凌ぐしかない。
攻めるに硬く、守るに容易いマルコの力。
雷槍を『攻撃』『防衛』『補助』と使い分けたマルコはそれを徹底して使う。
常に三重の雷槍防衛網を敷き、その周りに伏兵じみた補助的雷槍網を形成。さらに攻撃用の雷槍網を本命として隙がない。
はじめは、雷槍はあくまで彼の体から出ていただけだった。
けれど戦ううち、彼の『周囲』の空間から現れるようになった。つまり、戦う毎に『進化』している驚異。
加えて、彼の手や脚や肩だけだった『甲殻』や『突起』は、今や腿、腹、首、脚の大半にまで広がっている。
その形相、まるで悪魔の甲冑の如し。
雷の槍が取り巻く様も、まるで歩く雷雲の如き様相を呈している。
バチバチバチと、絶えず帯電する彼の周囲の空間。
雷槍の守りを超えても、頑強な甲殻に弾かれ無効、まさに雷の化身。
「うう……があァア……っ、邪魔者は、消えロ……っ!」
マルコが全身から雷槍を放出する。リゲルは咄嗟にランク三、《イビルフライ》の魔石で靄を放出、幻惑の力で目測を狂わせるが根本策には程遠い。
ここまでギルド騎士の白銀剣による剣撃、各種魔術による囮、挟撃、時間差攻撃……全て試したが、雷槍か甲殻に凌がれかすり傷すら負わせられなかった。
接敵してわずか六分。
リゲル達には、一秒が数分にも数十分にも感じられる戦闘だった。
「一旦後退を! このままではジリ貧です!」
騎士の一人が叫ぶ。
「無理です。この向こうには避難し遅れた一般人がいます、僕らが退けば彼らに被害がいく!」
「しかし!」
「僕が活路を見出します! ――立ち塞がれ《ゴーレム》! 凌ぎ切れ《ベノムアント》! 焼き焦がせ《フレイムマミー》!」
一度下がり際、防御用の魔石と牽制の火炎を大量に放ちながらリゲルは叫ぶ。
崩れた宿屋の影に交代し、追ってきた残りの騎士三人共々議論を交わす。
「どうするのです? 奴は堅牢、極速、二つの守りに守護されています。破るのは困難です!」
「判っています。マルコは『麻痺』の雷槍、頑強な『甲殻』、加えて精神攻撃を無力化する『暴走』状態と、隙がありません。雷槍の最大発射数は二十五本、発射まで時間は一秒未満……甲殻の強度は少なくとも《ベノムアント》の牙以上――つまり、鋼以上の防御力と、音よりも速い攻撃手段を持っている』
これを破るには騎士があと三人は欲しい。
そもそもが、これまで十四人の青魔石使いを倒した後の戦闘だった。これがもっと早期だったなら、リゲルの魔石にも余裕があった。
しかしマルコは雷撃使い――つまり攻撃の速射性に優れ、魔石合成をする暇もない。
『電耐性』、『麻痺耐性』……それらの効果の魔石をリゲルは使ってはいるが、それすら貫かれ、四人の騎士が倒れている。
「増援は厳しい。現状で策はあるのですか?」
「一応は。周囲の被害とマルコを殺害しても構わないのなら、『ランク七』や『八』が。でも」
「問題はあの令嬢ですな」
四人の騎士の目が、ゴーレムの壁を打ち砕くマルコの方へ向く。
戦闘中、マルコと接して判ったが彼は『一人の少女』を抱えている。
テレジアだ。
薄い金髪に色素の薄い肌、美しい顔立ち。マルコと同じくらいの歳の少女が、気絶して彼の右腕に抱えられていた。
交戦当初、禍々しいマルコのオーラで視えなかったが、戦闘中に視えるようになっていた。
間違いない、彼女こそマルコの探し人だ。
「あの少女がボルコス伯爵家の使用人、テレジアである事に相違ありません。おそらく我々と交戦するまでにマルコは奪還していたのでしょう。朗報と言えば朗報ですが――」
「あれでは迂闊に大魔術を使う事も出来ませんね」
テレジアを無視して大魔術やランク七、《タイラントワーム》などの魔石を使えば戦闘は一瞬で決着がつくだろう。
だがそれでは一般人であるテレジアを殺害してしまう。
彼女は事件の被害者だ。ギルド騎士は人々の平穏を守ってこその存在の意義。リゲルは探索者で、そもそも一般人を害する権利すらない。
念の為、リゲルは戦闘中に《解析》の魔石を使ったところ、少女はテレジア本人で確定した。
偽物や魔術などで出来た幻影などではない。
「テレジアは人身売買の人間にさらわれていたと、情報が支部からあります。彼女は、薬か何かを投与され昏睡、未だ目覚める気配もありません。マルコの暴走を止めるには、彼女の協力があれば……と思ったのですが」
「この激しい戦いでも目覚めない以上、説得は不可能ですね」
おそらく、かなり強力な睡眠剤を使われたのだろう。
テレジアが目覚めていればマルコを鎮めるのは可能だったはず。
けれど、眠れる美女に未だ期待出来るものは何もない。現状の戦力ではマルコを押しきれず、このままではいたずらに周囲の被害が拡大する一方だ。
「迂回して進行するのはどうでしょう?」
「無理です。背後の避難民がいます」
「《トリックラビット》の魔石でテレジア嬢だけでも確保を」
「危険です。マルコは僕たちのことを、『悪党』と誤認している。今、彼に近寄る者は全て敵だと認識しているんです。その状態で彼女を失えば、更に凶悪化し襲い来るでしょう」
「では『状態異常』の魔術や、『囮』での離脱は?」
「……状態異常の《マタンゴ》や《スプライト》は試しました。けれど『暴走』状態の彼には効果がありません。囮は無意味です。あの雷槍は範囲が広すぎる。薙ぎ払われてしまう」
逃げるのは不可能。テレジアの保護も困難、倒すのも至難。
こうなればテレジアを殺すか? それとも騎士の犠牲は覚悟で特攻をするか?
騎士達の中に、不安や自棄の念が渦巻いていく。
「……一応、手段が他にないわけではありません」
「本当ですか! リゲル殿!」
「ただまあ……外道と言うか、あまりやりたくないと言うか。正直、僕が悪党になるような手段なんですが」
「この際、手段は選んでいられません。我らは支部へ急がねば」
「……そうですね。仕方ありませんね」
脳裏に、ミュリーの顔を浮かぶ。
出来ればやりたくない。
だが、それしか現状思い浮かばない。
マルコは、現状『青魔石』使いで最強の存在だ。
それは、テレジアを想う心があるがゆえ。
『青魔石』は使用者の心の想いに応じ、強さを増すらしい。
《解析》の魔石で調べたが『能力値』が十五倍に強化されている。
それだけ、心が強い人間は力も強いことを示す――だが、今はその強さが仇となっている。
その強さを利用させてもらうようで気が引ける。
けれど、想い人の存在なら自分にもある。ミュリーの待つ日常へ帰るため、メアたちとの平穏へ戻るためにも、リゲルは決意する。
「援護を。今からマルコを黙らせます」
リゲルは物陰から飛び出し、マルコへと疾走した。
「リゲル殿!」
騎士たちがリゲルを守るように、《防護》の魔術や《加速》の魔術を行使する。
マルコが防衛の《ゴーレム》の壁を打ち砕いた。
その殺気混じりの視線、血走った恨みの視線が、槍のようにリゲルへ突き刺さる。
「(――恋人を狙う悪漢を見る目か。なるほど、まさに僕は悪役ってわけか……だけど)!」
リゲルは叫びつつ魔石を解放する。
「拡散しろ《ダークミスト》! 僕の姿を隠蔽しろ!」
瞬間、彼の体が『漆黒の霧』に覆われ周囲一帯が見えなくなる。
別名『暗黒霧』の異名を持つガス状魔物の魔石が視界をゼロに。。
マルコが闇雲に雷槍を放つが、リゲルは『避雷針』の機能を持つ魔石を設置。
なけなしのランク五だが背に腹は代えられない。
稼いだ時間を元に、リゲルは『漆黒の霧』をマルコの周囲へと広げ、そして――
「解析しろ《マインドアイ》!」
マルコの頭上、巨大な一つ目玉が出現する。
血走った禍々しい眼が、マルコとその右腕のテレジアを――『視ていく』。
『――マルコ、及びテレジアの記憶を解析』
『――テレジアの性格、思い出、マルコとの関係性、最近一年の光景を抽出』
『――該当箇所複数、優先度設定。マルコとテレジアの好感関係を最優先とする』
『――完了。マルコ及びテレジアの情報を取得』
「ううウ……テレジアに……近づくな……っ!」
マルコが唸りつつ大出力の雷槍を放ち、《マインドアイ》の巨大目玉を撃ち落とすが遅い。
リゲルは新たな魔石を放りながら、
「構成しろ、《ハイエンプーサ》!」
マルコの背後、薄い『鏡』のような物体がいくつも現れ、爆発的な光を放っていく。
唐突に現れた極彩色の光。眩く、さしものマルコも一瞬目を開けていられない燐光が膨れ上がり――。
そして、光が収まった時には――もう一人の『テレジア』が現れていた。
「!?」
マルコが硬直する。愕然として動けない。
当然だろう。
薄い肩より眺めの金髪。白磁のような肌。線は細く世の男性なら十人中八人は振り返るような美貌の少女。
まさしく、それは本物のテレジアと瓜二つ。
それは鏡に映し出されたかのように、精巧なテレジアの姿だった。
だがそれは偽物だ。《ハイエンプーサ》の能力で創り出した、テレジアの《模倣》。
今、その模倣少女はまつ毛一本から瞳の色彩まで違いがない。
リゲルは、切り札である『分身』の完成を知り漆黒の霧の中でささやく。
『分身』であるテレジアへ命令を下す。
すると――。
『もうやめて、マルコ……』
模倣テレジアの口から、懇願の声が迸った。
切実そうに、悲しそうに、現れたテレジアはマルコに訴えかけるように声を向ける。
それも模倣の力である。《マインドアイ》の力で抽出したマルコの記憶から、リゲルはテレジアの声質、抑揚、仕草を模倣――本物の彼女と違わない精度で、再現した。
「う、ア……?」
突然語りかけたテレジアに、マルコが動揺する。
無理もないだろう。突然の想い人の懇願。
それに向かい、切なそうに、哀願を込めて、偽テレジアが訴える。
『もうあたしは平気よ。大丈夫。あたしを傷つける者はいない。だからやめて……』
「テレ……ジア……? うう、う? しかし、僕は……」
『あなたのおかげであたしは救われた。大丈夫、そんな姿になってまで暴走しないで。あたしはもう平気。平気だから……』
マルコにとって、激情を誘発する起爆剤がテレジアなら、それを鎮めるのもテレジアをおいて他にない。
暴走状態で理性のほとんどないマルコは、唯一、彼女の声にのみ平静を取り戻す。
たとえ、それが偽者であっても。
彼の中で、淡く微笑むテレジアの姿だけは、無視出来ない。
「テレジア……戻ってきたの? ……でも、僕が救ったのは……」
『大丈夫よ。魔術で話しかけているの。本当は眠っているけれど……そんなことより、元のあなたに戻って。元のあなたに会いたい。せっかく再会出来たのに……あなたが暴走したら悲しいわ……』
「テレジア……ああ、テレジア……」
マルコの瞳に、一筋の理性が戻った。
目の前のテレジアの優しい光景に、心奪われ気を許しかける。
だが、彼の持つ《パラセンチピード改》の魔石は凶悪だ。
テレジアの声を押し潰すように、内側で、頭の内で「――破壊セヨ!」「破壊セヨ!」「破壊セヨ!」「破壊セヨ!」と絶え間ない呪詛が響き渡る。
「……テレ……ジア! あア! 僕は、ボクは、僕は……ううあアアッ!」
戻りかけた理性が途切れ再び暴走の化身となりかける。
マルコの周囲で、雷槍の帯電が一層勢いを増し、その体に、《パラセンチピード改》の甲殻や突起が侵食するように増えていく。
だが。
「――そこまでだよ、マルコ」
リゲルの宣言の直後、爆発的な濃霧が、マルコの体を覆った。
「うううああああ!?」
濃霧だけではない。鱗粉、泥状の水、黒い風、それぞれが『毒』、『衰弱』、『酩酊』、『鈍化』を及ぼす状態異常の魔物の力だ。
所持する魔石の状態異常系――その多くを使用しながら、リゲルは宣言する。
通常、『暴走』状態の相手にはそれらは効果はない。だが模倣テレジアに語りかけられ、理性を一瞬でも取り戻した彼には、不完全だが通用する。
体の自由を奪う毒が、風が、鱗粉が、マルコの体を覆い尽くす。
「確かに、君の怒りはもっともだ。けれど、そのせいでテレジアにまで心配をかけたら意味がない。彼女の言う通り、君には帰るべき場所がある。壊していい日常のはずがない。マルコ、魔石を捨てるんだ。そして元に戻ってくれ」
「ううウウ……テレジアを、奪おうとする悪党ガあああ……っ、僕は、僕ハ……ッ」
マルコが抵抗するように、辺りに『雷槍』を撒き散らす。
リゲルが使用した魔石の力が弾かれる。
ここに来て、マルコは体の八割近くが《パラセンチピード改》の甲殻と突起に覆われていた。
もはや残るは頭と、テレジアを抱える右腕のみ。
それすら魔物化してしまったら、おそらく彼は戻れない。
「くそ、足りないのか、これでも……っ!」
雷槍に闇の霧すら吹き飛ばされたリゲルは、伏せて雷槍をかわすしかない。
護衛のギルド騎士も全て雷槍に撃たれ昏倒している。
マルコが天に向かって吠える。
もはや万事休すか?
彼を殺す他ないのか?
他の方法はないのだろうか?
そう、思いかけたとき――。
〈――――――――間に、合え――――――――――――――ッ!〉
天空より飛来した『九宝剣』が、マルコの全身の甲殻を打ち砕いた。
「っ! メアっ!」
九本の『宝剣』を操りながら現れたメアは、荒ぶるマルコの雷槍を、横に上に避け、宝剣を掲げると、一斉にマルコ目掛けて放った。
〈レストール家護身剣闘術、第三方陣、『牙裂の構え』!〉〉
何本かは雷槍の迎撃に撃ち落とされるがすぐ復帰させる。
マルコが超常の領域ではないように、彼女もまた超常に域に達する幽霊。
十重二十重に乱れる雷槍をものともせずに、『九宝剣』を乱舞させ、幾条もの斬撃と《パラセンチピード改》の雷の槍がかち合い、中空が紫電と爆音で満たし、激しい閃光が幾重にも拡散する。
円環、直進、乱れ打ち……数多の軌跡を描いた宝剣の一本がマルコの右腕を叩き、テレジアを弾き出させた。
〈今だよ! リゲルさん!〉
メアが叫ぶ。リゲルが駆ける。
――きっと、マルコはただ欲しかっただけだ。
テレジアとの何気ない会話ややり取りを楽しむ素朴な日々。
それを引き裂かれたら当然のように怒る。
嘆く。きっと世界の終わりのような気持ちを味わった事だろう。
だが、まだ間に合う。
完全に魔物化していないのであれば、きっとテレジアのいる平穏な場所に戻れるから。
だから――。
「帰ってくるんだ、マルコ、テレジアのために!」
狂乱するように、マルコが咆哮を上げる。
その片目が《パラセンチピード改》を思わせる血の色に染まっている。
だがもう半分は元の色だ。
翡翠の色だ。
優しい少年の瞳。
その、涙すら浮かべる少年へ肉薄しながら、リゲルは告げる。
「確かに、愛おしい人を失う悲しみは分かる。けれど、これでは誰も救われない。これでチェックメイトだ――ごめんね、マルコ」
片手にランク七の魔石、《パラライズキングドレイク》の魔石を携えながら、リゲルは最大級の麻痺効果を、マルコの腹に押し当てた。
「グううウウ、ああアア、あああアあ……っ!」
天にまで登る光の柱が登り、極大の雷撃がマルコを襲い――。
彼の意識を、《パラセンチピード改》の甲殻ごと吹き飛ばし、狂乱の戦いに、終止符を打った。





